第20話
汗をかいたので体を洗いたかった俺たちは風呂場を借りることにした。
といっても、風呂の利用は夕方のみだ。
風呂には魔石があり、それを使うことでお湯を出せるのだが、夜の利用者で魔力切れ。
つまり、今は自分たちでお湯を用意しなければならないのだが、俺なら問題なかった。
ヒュアが体を流せる分を用意してから、俺も自分の体を洗った。
お互い部屋へと戻ったところでヒュアが、よろよろとベッドに向かい、ことんと倒れた。
「さ、さすがに疲れました……」
「そりゃあな」
……途中、明らかにテンションおかしかったし。
ヒュアはどこか満足そうな笑顔で横になっている。
少し休んでから朝食に向かうことになり、俺たちはそれぞれ休んでいた。
俺が魔法の練習をしていると、ヒュアが顔だけをこちらに向けた。
「ロワールさん、こんなときも魔法の練習しているんですね……っ」
「魔法は使えば使うだけ成長するからな」
『賢者』になったことで、今までの限界を超えていた。
もっと強くなるために、脳が疲労を感じるまで使い続けるんだ。
「ロワールさんは、どうして冒険者になろうと思ったんですか?」
「そりゃあ、冒険者で活躍したらモテモテになるだろ? 男ならやっぱり夢みるんじゃないか?」
「……えー、それが理由なんですか?」
「冗談だ。単純に、金を稼げるからだ。ヒュアはどうなんだ?」
「……私は昔冒険者に助けられたんです」
「なるほどな。それで憧れたって感じか?」
「はい……。本当に危ないところを助けていただいたんです。だから、あの人みたいに強くなりたいって思っているんです!」
それは立派な夢だな。
俺も始まりはそんなものだったかもしれない。
他愛もない話をしていると、体も回復してきた。
俺たちは騒がしい食堂に下りて、普段通りに食べていく。
相変わらず、ヒュアのファンは多いな。
鋭い視線がたくさん向けられる。
「今日はDランクあたりの魔物でも狙って戦ってみるか?」
「いけますかね?」
「今のヒュアなら問題ないんじゃないか? 多重支援のコツも掴んでたみたいだし」
「……そうですねっ。やってみます!」
なんなら、Cランクの魔物だって相手にできるくらいだろう。
俺の支援魔法も、強化されていっているしな。
〇
宿での食事を終え、冒険者ギルドについた俺たちはそこで異変に気付いた。
妙に騒がしかったのだ。
冒険者たちが受付に集まり、何やら話をしている。
その中には、オンギルとクライの姿もあった。
……わざわざ、高ランクの冒険者を捕まえて一体何を話しているのだろうか?
そう考えていた時だった。
受付にいた職員が「あっ」と声をあげる。
その視線はこちらを向いていた。
「ロワールさん! 良かったCランク冒険者はまだいましたね……っ」
「なんだ? 妙な空気だが……」
「そうなんですよ! やばい話があるんです!」
俺が首を傾げると、職員が手招きで呼びつけてくる。
俺はヒュアと顔を見合わせた後、そちらへと向かっていった。
「それで? ここに集められたメンバーを見るに、それなりの話なんだろうが……」
「察しが早くて助かります! 緊急依頼が出まして……!」
職員が矢継ぎ早に話していく。
緊急依頼だと?
「何かやばい魔物が出たのか?」
「はい……ダークパンサーの親と思われる大きな個体が発見されたんです。……恐らくは、主魔石級の魔物かと――」
主魔石、か。
魔物が落とす魔石には大きく分けて三つある。
それぞれ、サイズで分けてあり、まずは通常の魔石。そして、その次に大きいのが主魔石だ。
最後は核魔石となっている。
……俺の時代で言うなら、主魔石級は迷宮にいる中ボスがドロップしやすい。核魔石は迷宮の最下層、ラスボスといわれる奴らだな。
「こいつがかなり強くて……外にいたCランクとDランクのパーティーが負傷して帰還したんです。おまけに町近くをうろついているらしく、今外に冒険者が出られない状況なんです」
だから、緊急依頼か。
一刻も早く討伐しないと、下手すればこの町に襲い掛かってくる可能性もあるだろう。
さすがに、壊滅することはないだろうが、それでも被害ゼロで済むわけもない。
「それで、俺たちってわけか」
「そうなりますね。受けてくださいませんか?」
職員が控えめに訊ねてきた。
と、オンギルが訝しむようにこちらを見てきた。
「大丈夫なのか? 昨日、オレの挑発にも乗らなかったんだぜ? 実力があるのやら」
オンギルは俺が受けなかったのを根に持っているようだ。
ふん、と男らしい顔で頬を膨らませている。
「ロワールさんの力は圧倒的ですよ? 魔法使いと僧侶の二つの魔法が使えるんですから!」
職員が自慢するように叫ぶ。
その言葉を聞いた瞬間、オンギルの眉間がさらに寄せられた。
「『賢者』だったよな? そんなこと、本当に可能なのかよ?」
「まあ……そうだな」
「本気か? 試しに戦ってみないことにはわからねぇな……?」
「そんなことしている時間はないだろ」
俺が首を傾げると、オンギルは舌打ちする。
ずっと笑顔のまま固まっているクライに視線を向けるが、彼はまったく何も言ってくれない。
こいつ寝てるんじゃないだろうな?
そう思っていたときだった。
「そう喧嘩しないでほしいのにゃ」
受付の奥から現れた女性が、声をあげた。
そちらを見ると、真っ先に飛び込んできたのは猫耳だった。
獣人族、だろうか。この時代にもいるようだな。
「さ、サブリーダー」
……彼女がサブリーダーだと? 獣人族の寿命は人間と大差ない。
サブリーダーは随分と若く見える。良くて二十歳くらいじゃないだろうか?
サブリーダーは猫の尻尾を左右に揺らしながら、俺たちの前で足を止める。
……ちっちゃ。
俺の腰ほどまでしかない。
ただ、うちに秘めた魔力はそれなりのものだ。
「よかったにゃー。これだけのメンバーが集まってくれて助かるにゃ」
サブリーダーはちらと俺を見てから、にこりと微笑む。
「ロワール、だったかにゃ?」
「ああ」
「今は人手不足なのにゃ。依頼、受けてくれないかにゃ?」
「どうにも、歓迎されていないようだが」
「それなら、ぱぱっと実力を示すといいのにゃ。何かできることはないのかにゃ?」
「この場で、か?」
「そうだにゃ。私のゴーレムを破壊した魔法使いなら、このくらい余裕じゃにゃいかにゃ?」
あまり、そういう見世物みたいなのは好きじゃないんだがな。
とはいえ、他の冒険者も俺の実力に関しては訝しんでいるし、いっちょやるか。
俺は軽く息を吐いてから、その場で魔法を撃ちあげた。
天井付近に、火、水、風、土の塊を放ち、それをくるくると回転させる。
すべてDランク級の弱い魔法だ。だから、制御は簡単だ。
さらに俺は魔法を増やしていく。
両手に火と風を生み出して見せると、さすがに全員が驚いたようにこちらを見ていた。
「あ、あいついくつもの魔法を同時に!!」
「それに、一瞬で魔法を発動させたぞ!? どうなってるんだよ!」
冒険者たちが驚いているので、この見せ方で間違いではなかったようだ。
ちらと見ると、サブリーダーも頬をひきつらせている。
「や、やっぱり私より凄い魔法使いだにゃ……」
ちらとオンギルを見ると、彼も驚いたように見ている。
「……戦いてぇな、オイ」
……いや、その感想は違うだろう。
とりあえず、アピールとしてはこんなところでいいのではないだろうか?
俺が魔法を消すと、パチパチという拍手が沸き起こる。
一番盛大に拍手をしていたのは、ヒュアだったんだけどな。
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