第19話
なんだか疲れたな、と思っていると女性たちの声が響いた。
まさしく、黄色い歓声と呼ぶようなもので、視線を向けるとひとりの男がいた。
先ほどのオンギルを男らしいかっこよさとするなら、こちらの男性は中性的な爽やかなかっこよさを持った男だ。
金色の髪を揺らすように歩いていた彼は、俺たちのほうに気づくと、軽く微笑み近づいてきた。
「もう、面倒な絡みは勘弁だぞ」
「僕は普通の人だよ。ただ、少し心配だったんだ。オンギルに、絡まれたようだったからね」
「……まあな。けど、とりあえずは撃退できたな」
「はは、それならよかった。ヒュアさんも大丈夫かい?」
すっと男が手を伸ばし、ヒュアの髪を撫でようとする。
しかし、ヒュアはそれより速く俺の背後に隠れた。
「私は大丈夫ですよ」
ヒュアは警戒するような声をあげていた。
……まあ、遊びなれていそうな男だしな。
男は残念そうに首を振ってから、俺を見てきた。
「そうかい。それで、キミ名前は?」
「ロワール、だ」
「そうかい。僕の自己紹介は……不要かな? 知っているだろう?」
「確か、金髪くんだったか?」
「違うよ! 僕はクライ! クライだよ!」
「ああ、そうだった。近かったな、よろしく」
「まったく近くないんだけど……とりあえず、よろしくね」
彼がウィンクをした瞬間、ギルド内にいた女性冒険者たちが歓声をあげた。
……ヒュアが男性冒険者のアイドルとするなら、クライは女性冒険者たちのアイドルというところか。
「僕もCランクなんだ。これから何かと関わることもあるかもしれないから、その時はよろしくね」
「そうか。一緒に組んだ時は、頼りにさせてもらう」
「僕もね。それじゃあ、二人とも、よろしくねー」
彼はちょうど依頼達成の報告に来たようで、受付に並ぶ。
クライに合わせ、女性たちが動く。……他の男冒険者からは嫉妬の視線にさらされていた。
……疲れたな。
俺はヒュアとともに、冒険者ギルドを出た。
さっさと休むため、宿に戻った。
宿へとついた俺は、僅かに期待して店員のロニャンに訊ねてみた。
「部屋は余っているか?」
「余ってないよ? よかったねっ」
よくない。
また俺はあの寝相と付き合う必要があるのか……。
〇
昨日の夜にヒュアとはあることを話していた。
それは毎朝、トレーニングを行うというものだった。
その日は、ヒュアの寝相も落ち着いていて比較的休むことができた俺がぱちりと目をあけると、すでにヒュアは起きていた。
まだ外は薄暗い。
「おはようございます! 今日もいい天気ですよ!」
「みたいだな。朝から元気だな」
「そりゃあそうですよ! 朝から夜まで元気じゃないと!」
それにしたって元気だ。
……なんなら、今までで一番元気なのかもしれない。
「ロワールさん、ロワールさん!」
「なんだ?」
「私に何か聞きたいことはありませんか?」
「えーっと…………スリーサイズとか?」
「な、なんてことを聞こうとしているんですか!? ていうか、今私の胸見ませんでしたか!?」
「敵の視線に気づけるというのは重要なことだ。魔物が何を狙っているか、すぐにわかるようになる」
「ふふん、私も成長しているということですね! ……見ていたってことですか!?」
「それで、聞いてほしいことがあるのか?」
「はいっ! 職業ランクについて聞いてくれませんか!?」
ということは、おおよそ答えは予想できた。
だから、こんなに喜んでいたんだな。
「ランク、いまいくつなんだ?」
「私、Eランクに上がっていました!」
「おお、それは良かったな」
「良かったです! 本当に良かったですよ! これも全部ロワールさんのおかげです!」
「全部は言いすぎだ。とにかく、良かったな」
「はいっ!」
まさか、こんなにあっさりとランクが上がるとは思っていなかった。
まあ、俺と出会う前から、ヒュアなりに戦闘をこなしていたのもあるだろう。
昨日戦っていたダークパンサーは、Eランク相当の魔物だった。
俺の支援があるから問題なく戦えていたとはいえ、本来は格上の相手だ。
ランクアップに必要な経験値は、自分よりも強い相手を倒すことでより多く獲得できると言われている。
だから、Eランクの魔物と戦い続けた彼女の成長が早くてもおかしくはなかった。
「これからもっともっと強くなります! だから、もう少しもう少し一緒にパーティーを組んでくれませんか?」
「もちろんだ。これからもよろしく頼む」
「あ、ありがとうございます! 頑張りますね!」
ぺこりと、ヒュアが頭を下げる。
やる気のある若者には協力したくなるものだ。
ヒュアは嬉しそうな笑顔とともに、エルフ耳の先を上下させている。
「Eランクにあがって、体の調子はどうなんだ? 結構軽くなったか?」
「はいっ。以前よりも出せる力の限界が伸びました! これなら、前よりも動けますよ! ごはんも一杯入りそうです!」
「そうか。あとは今の体の状態を確かめながら、支援魔法への調整を行う必要があるな」
「これからその練習も兼ねて、行きましょうか!」
「そうだな」
ランクアップでやれることが増えると、楽しくなってくるものだ。
特にヒュアは悩んでいたみたいだし、そりゃあ天にも昇るほどの喜びだろう。
俺も、早くランクアップしたいものだな。
「ヒュア、これからは日常的にも支援魔法に体を慣らしていこうか」
「そうですねっ。その方が支援魔法への適応も早くなりますよね!」
「まあ、それもあるが、他にも意味がある」
「え、そうなんですか!?」
「ああ。支援魔法は筋肉に負担をかける魔法だからな。つまり、効率よく鍛えるのに向いているんだよ」
「なるほど! ……どういうことですか?」
「まあ、筋トレをしているときのような経験が入るようなものだと考えてくれればいい」
日常的な訓練を支援魔法を受けた状態で行うというのは、俺たちの時代では当たり前だった。
ヒュアとともに外に出る。
外に出たところで、Bランクの支援魔法をヒュアにかけた。
「大丈夫か?」
「Bランクは大丈夫ですね!」
「そうか、それなら今後は多重支援になれないとだな」
「頑張りますね!」
俺がAランクなどの魔法を持っていれば良かったが、あいにく持っていないからな。
「とりあえず、BランクとDランクのようにな。早速やってみるか?」
「はい、お願いします! けど、BランクとDランクなんですか?」
「BとBだと負担が大きすぎるからな。またDランクからのスタートだ」
「なるほど、わかりました!」
やる気満々だな。
そんな彼女に支援魔法を付与する。
その瞬間、ヒュアが口をぎゅっと結んだ。
「こ、これ……はぁ……はあ……いいですねぇ……」
頬を朱色に染め、彼女は息を荒くする。
「大丈夫か? 慣れるまでは結構苦しいはずだ。難しいなら、途中で解除するから言ってくれ」
「二つは、これまでのB、Dランク一つずつとはまた、全然違い、ますね……っ! 心地良いくらいです、よ!」
興奮気味に彼女が叫ぶ。
……いや、だから普通それ痛いんだけど。
「……ふ、ぅぅぅっ! うう! あはは!」
ヒュアが少しばかりテンションおかしく笑った。
……大丈夫だよな?
「とりあえず、ランニングに行くか」
「はい! 行きましょう!」
俺が走り出すと、ヒュアもまた動き出す。
多少不格好で、そのたびに体をよじる。痛みが走るのか、楽しそうな声をあげることも……。
開拓地をぐるりと走っていった。
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