第17話


「よし、この調子でダークパンサーを狩っていこうか」

「はいっ、いくらでもいきますよ!」


 やる気十分だな。

 次の獲物を見つけるため、サーチを使用する。

 近くにまたダークパンサーらしい魔力反応があった。


 これがダークパンサーなら、この魔物の魔力なら判別つきそうだな。

 Dランクの支援魔法をヒュアにかけると、彼女が俺の方に顔を寄せてきた。


「私、Cランクにも挑戦してみたいです!」

「本当か?」

「はいっ、今ならできる気がします」


 ……さすがに早い気もしたが、本人がやる気ならそれを尊重しようか。

 彼女にCランク魔法を使う。

 ヒュアの体がぶるぶると震える。……大丈夫か?


「こ、これ……思っていた以上に効きますね……ッ!」

「支援魔法は直接肉体に働きかける魔法でもあるからな。過剰な強化は肉体への負担が大きくなるんだよ。大丈夫?」

「大丈夫、です……っ! まだなんとか、訓練すれば制御できそうですっ」


 ……本当か。

 想像以上に優秀だ。やはり、職業補正というのもあるのかもしれない。

 俺も自分に支援魔法をかけてみるが、以前よりも制御がやりやすいしな。


 支援魔法は、敵にもかけることができる。

 ただし、少しの魔力で抵抗できてしまうものなので、基本的には相手に使用するというのは少ない。

 それが可能ならば、過剰な支援魔法で相手の肉体を破壊するという攻撃だって可能になる。


 よほど魔力を持たない魔物や、魔法抵抗力のない魔物なら、それも可能ではある。


「はぁ……はぁ……んんっ!」

「色っぽい声で魔物でも呼ぶつもりか?」

「ち、違います……っ! せ、制御してるん、ですぅぅ!!」


 彼女は必死に声を抑えている。

 俺が何やらいけないことをしているみたいじゃないか。

 というか、制御ってそんなもんなのか?


 俺はどちらかというと痛みしか感じないのだが……。


「な、中々の痛み……ですね……っ」


 あっ、この子もしかしたら痛みを快感に感じるタイプなのかもしれない。

 触れないでおこう。

 

「……これに対応できるようになれば、私ももっと動けるようになりますよねっ」

「もちろんだ。これができれば、次はBランク魔法だ。その後は、多重支援になるな」

「多重支援……ですか?」

「ああ。支援魔法を複数同時に受けるんだ。パワーアップを二つ受けてもいいし、パワー、スピードアップ……みたいな組み合わせもできる。あとは、この数を増やしていくことが、強くなるためには必要なんだ」


 肉体が耐えられるなら、重ね掛けできる。

 基本的にはその人にあった支援魔法をかけ、役割を強化するものだ。


「……そんなにあるんですね。まだ、私入口に立ったばかりなんですね」

「そうだけど、ま、そんな焦る必要もない」

「けど、ロワールさんの足手まといにはなりたくないですっ」


 ぐっと拳を固めるヒュア。

 そういってもらえるのは嬉しい限りだ。

 彼女の体が限界を迎えるまでは、訓練に付き合おうか。


「わかったよ。とりあえず、Bランクを目標にしようか」

「はい、頑張ります!」


 再び、ダークパンサーを探して歩き出した。 



 〇



 それから夕方になるまで、戦闘を繰り返した。

 ダークパンサーは百体近く討伐したな。


 そのおかげもあって、用意した袋には素材がたんまりと入っていた。

 これで俺も、ヒュアのヒモから脱却できるだろう。

 風魔法で持ち上げた袋二つとともに歩いていく。


 とてもじゃないがこれを手で持ち運びしたくはないな。

 町へと戻ってきた俺たちは、まっすぐにギルドへ向かう。


 冒険者たちが好奇の視線を向けてくる。

 隣を歩くヒュアは笑顔であった。


「こんなにたくさん倒せるなんて思っていなかったですっ。ロワールさんのおかげです!」

「俺の支援魔法にうまく適応してくれたから効率があがったんだ。お互いさまだ」

「ほ、本当ですか!? 私、お役に立てましたか!」

「ああ、十分すぎるくらいだ」


 そういうと、ヒュアは嬉しそうに微笑んだ。

 ……犬みたいなやつだ。一度そう思うと、なんだか尻尾が幻視できてしまう。


 俺はお世辞でもなんでもなく、素直にそう思っていた。

 ヒュアはBランクまでの支援魔法を一つまでなら完璧に使いこなせるようになっていた。


 戦闘の状況にあわせ、それを切り替えられる程度には、ヒュアの能力は向上していた。

 あらゆる状況にあっさりと対応できるのは、生まれ持っての才能なんだろうな、と思う。


 彼女の職業ランクはFランクで確かに弱い。

 それでも、こうして冒険者を続けられているというのは、それだけ潜在能力が高いということの顕れでもある。


 彼女の才能を潰すようなことがあれば、俺にとっての恥だ。


 ギルドについた俺たちは、初心者冒険者用の受付に向かう。

 ……まだ冒険者カードは持っていないからな。

 昨日俺の対応していた職員が持ってきた袋をじっと見ていた。

 その頬が少し引きつっていた。


「そ、その袋はなんですか……?」

「ダークパンサーの素材がたんまりと入っている。確認して、買い取ってくれないか?」


 袋を地面におき、口を開く。

 受付がカウンターから覗きこむようにこちらを見て、表情をひきつらせた。


「ダークパンサーので、間違いありませんね。あいつらはすばしっこくて逃げ足が速いんですよ? そ、それをこんなにたくさん……」

「まあ、ヒュアが良く戦ってくれたおかげでもあるな」

「そ、そんなことーないですよー?」


 嬉しそうにヒュアは頭をかいている。


「……ヒュアさんがですか?」


 どうやら、受付はヒュアの能力に懐疑的なようだ。

 それでも、俺がいるしということでひとまず納得してくれた。


「換金、お願いできる?」


 受付はいぶかしむような目を向けてきたが、俺の能力を知っているからか、何も言わなかった。


「わかりました。ダークパンサーはこの辺りでしか見かけない魔物で、今別の町で需要が高まってるんです。個数を調べた後で、買い取りましょう」

「ありがとな」


 俺は二つの袋をやってきた別の職員に渡した。

 受付にいた職員がすっと頭を下げた後、こちらに一枚のカードを渡してきた。


「それと、冒険者カードになります」


 ようやくか。

 これで俺もこの世界でようやく、身分証明を手に入れたということになるな。

 さて、一体ランクはいくつになったのだろうか?


 差し出された冒険者カードを受け取る。

 ロワール、賢者、Cランクと書かれた冒険者カードだ。


「上に話をした結果、Cランク冒険者として認められたそうですよ。良かったですね」

「し、Cランク……っ。いきなりそれって凄いですねっ! 良かったですねロワールさん!」


 ぱっと目を輝かせるヒュア。

 俺としてもランクあげに手間取ることがないので嬉しいが……


「大丈夫なのか? Dランクまでという話だったが?」

「ゴーレムを破壊できるような魔法使いはそうはいないから、その評価になったそうですよ」


 特例もあるとは聞いていたが、その特例を受けるとはな。

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