第16話



「Cランク、Bランクの強化は……またあとで練習しようか。とりあえず、一度その状態で戦ってみようか」

「はい。今なら、Eランク相手でもなんとかなりそうです……っ」


 ヒュアの顔から不安は消えている。

 ダークパンサーを発見した俺たちは、その様子を観察する。


「ダークパンサーの戦い方は分からないけど、基本的に俺の魔法で仕留めるつもりだ。ヒュアは敵を引き付け、回避に専念してくれ」

「はい、任せてください」

「魔法のタイミングは指示を出す。そうしたら回避って感じで。どう? やれそう?」

「大丈夫です、任せてください!」

「わかった。それじゃあ、やろうか」


 ダークパンサーの様子を伺っていた俺たちは、ダークパンサーたちが食事をはじめ、油断したところで攻撃を開始する。

 まずは俺が魔法を放ち、二体を巻き込んで仕留めた。


 残りのダークパンサーは三体だ。

 ……俺が魔法ですべて仕留めるのは容易だが、それではヒュアの訓練にならない。


「ヒュア、先ほど伝えたように注意を引いてくれ」


 俺が指示を出すと、ヒュアは走り出した。

 突っ込んできたヒュアに、ダークパンサーたちが視線を向ける。

 それでも、ヒュアへと注意は完全に向ききらない。


 俺はB・デコイの魔法を使用し、ヒュアに注目を集めた。

 デコイは魔法使いの魔法だ。対象に注意を集めるというもので、使い方は味方のヘイト値を一時的に上昇させる。

 ダークパンサーたちはヒュアをにらみつける。

 ヒュアへと飛びかかる。ヒュアはそれをうまくかわしてみせる。

 

 三体が連続で飛びかかっても、ヒュアには当たらない。

 D・スピードアップの恩恵もでかいようだ。

 たまに反撃をできるほどの余裕があった。


 俺は魔法を準備し、攻撃の連携に混ざれなかったダークパンサーを射抜いた。

 仲間の悲鳴……それによって足をとめたダークパンサー。


 俺は自分にB・シャウトを使用する。これはただ、自分の声を大きくするための魔法だが、戦場では結構重要だ。

 

「ヒュア、目の前の一体に斬りかかれ!」

「わかった!」


 隙だらけの体へ、ヒュアが斬りかかる。

 ダークパンサーの額を捉え、血が宙を舞う。


「ガア!」


 ダークパンサーが慌てた様子でヒュアへと攻撃するが、俺がB・ウィンドでその体を弾き飛ばす。

 一対一になり、ヒュアが剣を振りぬく。完全に有利な状況だ。


「ヒュア! 支援魔法を切り替える。準備してくれ!」

「わ、わかりました!」


 途中何度かやっていた支援魔法の切り替えだ。

 スピードアップからパワーアップに変更する。ヒュアの動きが一瞬止まったが、すぐに適応する。


 一撃の重みが増えたことで、ダークパンサーをあっさりと仕留めた。

 最後の一体。俺の魔法をくらったダークパンサーがよろよろと起き上がる。


 散々魔法を使ったことで、注意が俺に集まるのは想定内だ。

 その隙だらけのダークパンサーへ、ヒュアが一撃を放った。

 ダークパンサーの首へとあたり、ダークパンサーがよろめく。

 さすがに、首への一撃は急所(クリティカル)だったようだ。


「ヒュア、その一体を仕留めろ。守りは任せろ」

「……わかった!」


 ヒュアが追撃するために突っ込む。そうはさせまいとダークパンサーがヒュアへと跳びかかる。


「B・ウィンドバリア」


 俺の声にあわせ、ヒュアの周囲に風の障壁が生まれた。

 ヒュアへと跳びかかったダークパンサーは、俺の風魔法によって弾かれる。

 倒れたダークパンサーの首にヒュアは剣を突き刺した。


 ヒュアが仕留めたのを確認してから、俺はすぐにB・サーチで周囲の様子をうかがう。

 問題はなさそうだな。


 戦闘が終了したのだが、ヒュアはしばらくその場に立ちつくしていた。


「どうした、ヒュア?」

「私、Eランクの魔物と戦えたんですね」

「見事な動きだったな。あんだけ動けりゃ、もっと上の相手でも大丈夫そうだ」

「それは、あくまで私が支援魔法を受けていたからですよ。ロワールさんの支援魔法、凄かったですっ」


 ヒュアが嬉しそうに微笑んでいた。

 そんな彼女に、俺は首を振った。


「確かに、身体能力に関してはそうかもしれないが。俺は剣の技術にバフはかけてないし、もちろん戦闘での立ち回りもな。その辺りは全部ヒュアの実力だ」

「そ、そうですかね? 私も凄かったですかね?」

「ああ、凄い。あの戦闘技術は紛れもないヒュアの才能と努力の結果だって。あとは、職業のランクさえあがれば、俺の支援がなくても戦えるようになるはずだ」


 ヒュアは嬉しそうに口元を緩めていた。


「よし、魔物を解体して次のダークパンサーでも探そうか」

「……はいっ!」


 ヒュアが解体用のナイフを取り出す。

 ナイフ? ……ああ、そうか。もしかしたら、魔法使いの解体魔法を知らないのかもしれない。


「ヒュア、解体は俺に任せてくれればいい」

「え? 私も手伝いますよ!」

「いや、魔法使いには、解体用の魔法があるのは知っているか?」

「そ、そうなんですか?」


 どうやら知らないようだな。

 その効果がどのようなものかは、見てもらったほうが速いだろう。

 俺は解体用魔法、B・リビレイションを発動する。


 生きている魔物相手にはまず効かないこの魔法だが、すでに抵抗することができない死体にのみ発動できる。

 俺の魔法を受けたダークパンサーの身体が分解された。

 ……まあ、俺のBランク級の魔法では、とりわけられた素材が多少は減ってしまう。


 それでも、一体ずつ解体するよりは早く済む。

 それを三体に使用し、素材を回収する。無詠唱で済ませられるのは便利でいいな。


「……え?」

「どうした?」


 解体魔法を使うと言っていたのだが、ヒュアは驚いたようにこちらを見ていた。

 魔石、牙、皮、毛、爪などの部位に分かれたその素材を掴んだヒュアが目を見開いた。


「す、凄い綺麗な皮です……。こんなの、見たことないですよ」

「そうなのか? っていっても、魔法の分解ってこんなもんだしなぁ」

「こんなに綺麗に解体されている姿、初めてみましたっ。やっぱりロワールさんの魔法凄いですね!」


 新鮮な感覚だな。

 俺の時代では解体の上手下手、なんてものはなかった。


「冒険者たちの誰よりも早く解体できて……それでこんなに綺麗だなんて。『賢者』って……凄いですねっ」

「この魔法は魔法使いなら覚えられる可能性があるんだよ。『賢者』に限らずともな」

「そう、なんですか……私初めて聞きましたよ!」


 ……もしかして、魔法使いの質も落ちているのだろうか?

 そんなことを考えながら、素材を回収していった。


 俺は用意していた袋に素材を入れていく。

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