第15話


 ここにある依頼は恒常依頼のため、受付で依頼受領の報告などは必要ない。

 俺たちはすぐにギルドを出て、門を目指す。

 昨日俺が通過した森側の門だ。

 と、門番を務めていた冒険者が、こちらに気づいたようだ。


「ヒュアさん? ……今日は一人じゃないんですか?」

「はい。今はこちらの……ロワールさんとパーティーを組んでいるんですよ」

「……そ、そうなんだ」


 しゅんといった感じで元気をなくした冒険者。

 ……本当に人気者だな。

 冒険者の横を過ぎ、俺たちは森へと着いた。


「依頼書にあったダークパンサーってのはどんな魔物なんだ?」

「そうですね……全長は人間の子どもくらいですね。あんまり大きくないし、力も強くないんですけどすばしっこいのが厄介です」

「なるほど。もしかして、やばくなったら逃げるタイプの魔物?」

「逃げるかどうかはわかりませんけど、逃がしてしまったというのは何度か聞いたことありますね」

「了解。それじゃあまあ逃がさないように魔法の準備しておかないとな」

「そんなこともできるんですか?」

「まあな」

「凄いです……私も負けないように頑張ります!」


 拳をぎゅっと握りしめたヒュア。

 彼女に微笑を返しながら、俺はB・サーチの魔法を放つ。

 探知用の魔法であるが、あまり性能は高くない。


 サーチ系の魔法の問題として、魔物を見つけることはできてもどの魔物かどうかは分からないのだ。

 わかるのは、魔力の反応だ。……まあ、慣れてくればその魔力の大小でおおよその敵を把握できる。


 正確に魔物の探知を行いたい場合は盗賊などのスカウト系職業をパーティーに入れるのが基本だ。

 探知によって、魔物の位置、冒険者の位置などはおおよそ分かった。

 ……森の奥にいけばいくほど、魔力の塊が大きくなっていく。

 三体が固まって動いている魔力があるな。


「ブラックパンサーは群れで動く魔物だったか?」

「はい。大体、二体や三体で行動しているみたいですよ」

「それなら、この魔力がダークパンサーかもしれないな。行ってみようか」

「魔力?」

「今探知魔法を使ったんだ。敵の存在自体は見つけられたんだ」

「そういえば、そうですね」


 また、ヒュアは驚いているようだ。

 俺はヒュアとともに動いている魔力の方角へと歩いていく。

 戦闘の前に、準備もしておきたいな。


「ヒュア、支援魔法を受けたことはあるか?」

「ないですね。もしかして、支援魔法も使えるんですか!?」

「もちろんだ。ただ、支援魔法を受けたことがないなら、今のうちに慣らしておいたほうがいいかもな」

「慣らしておく、ですか?」


 ヒュアが首を傾げたので、頷いた。


「支援魔法は普段以上の身体能力を得るものだ。その変化後の状態になれていないと、動きに支障が出るんだ」

「なるほどぉ……。でも確かに聞けば納得できますね。普段と違う状態なんですもんね?」

「そうだ。感覚のズレが起きて、人によっては脳が酔うこともある。だから、慣らしておいたほうがいいんだ」

「わ、わかりました。ちょっと怖いですね」

「まあ、厳しかったら魔力をこめて俺の支援魔法を拒絶すれば解除される。とりあえず、やってみようか」

「お願いします!」


 俺は力を増加させる、スピードアップの魔法を準備する。

 支援魔法は基本的に僧侶が覚える。そのため、俺はBランクまでは使用可能だ。


「俺が使える強化は、D、C、Bのスピードアップだ。それぞれの魔法をかけていくから、ヒュアはそれに慣れるように頑張ってくれ」

「はいっ」


 まずはD・スピードアップだ。

 ヒュアに魔法をかけると、彼女の体がびくりと跳ねた。


「なんだか、変な感覚です……。もぞもぞっとしてますけど……けど、体の奥底から力が沸き上がってきます! これ、凄い強化ですね!!」

「けど、それはDランクの強化だからな。C、Bランクならもっと強くなれるぞ」

「こ、これ以上ですか!?」

「ああ。とりあえず、その体内の力を体全体に流すようにして、動かしてみてくれ」

「わかりました!」


 俺が言うと、ヒュアは頷いてからその場で動いた。

 だが、すぐにヒュアの表情が険しくなる。

 ……やはり、慣れていないからな。


「いつもと、違い、ますね。少し動くだけでも、負担があります……っ」

「まあな。ただ、慣れてくれば案外うまくいくもんだ。それじゃあ、そこまで跳んでみてくれないか?」


 俺が風魔法で近くの地面に跡をつける。

 今いる場所から五メートルほどだ。

 ヒュアからすれば大きくジャンプすれば届く距離だ。

 彼女がその跡にめがけて跳躍するが、容易に飛び越えてしまう。


「わっ……とと。凄いですねこれ!」

「まあ、けど細かい制御ができないと、戦闘の時にも問題が出てくるんだ。とりあえず、今はDランクの支援魔法にしておくから、戦闘前までに慣れておいたほうがいいな」

「わ、わかりましたっ」


 支援魔法というのは確かに強力だが、このようになれるまでに長い時間がかかる。

 適応までには、個人差も大きい。

 一度でも経験していれば、比較的早く適応する。


 前世には支援に特化した職業がいくつかあったが、このように本領発揮するには仲間の協力が不可欠なため、中々不遇な扱いを受けることが多かった。


 もちろん、固定化されたパーティーで長く鍛錬を積んだ場合は、普通よりもずっと強力なものになるんだがな。

 ヒュアはもっていた剣を使って周囲を切ってみたり、時々跳躍してみたりと、色々と調節していく。


 俺も自分に支援魔法を使用してみて、感覚を思い出しておく。

 支援魔法は自分にも使用できる。俺はいくつもの支援魔法を同時に自分に使用し、無理やりに能力を上級職並みに引き上げることもあった。

 

 ……ただ、自分にかける場合は負担が大きい。できることなら、使いたくはない。

 『賢者』になったことで、支援魔法もかなり強化されている。前以上に力をだせそうだな。

 それからしばらく移動しながら、ヒュアの状態を確認していると、


「大丈夫、ですかね?」


 とんとん、とヒュアは地面を踏みつけた。

 ……マジか。想定以上に速く適応したな。

 ヒュアはD・スピードアップを受けた状態でも問題なく動けていた。


 やはり、才能がある。潜在能力が高いんだ。これは、鍛えたら面白くなるな。


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