第10話 パーティー結成
ヒュアとともにギルドを出た。
外に出ると風が少し吹き、ヒュアが気持ちよさそうに背中を伸ばした。
伸び終えた彼女は、こちらに顔を向けた。
「本当に凄い才能ですね。助けてもらったときから、凄い人なんだって思っていたけど、凄い人でした!」
「みたいだな。どうにもまだ実感がわかないが」
「それなら、実感がわくようにもう一度伝えますね。魔法、凄かったですよ!」
なんだかからかわれている気もするな。
実感がないのは、前世ではこんな扱いではなかったからだ。
色々できると、頼ってもらったことは数多くあるが、強さを褒められたのはこれが初めてだ。
涼しい風が吹き抜けた。
季節はいつ頃なんだろうか? 昼間活動しているときは別に寒さは感じなかったが、夜になると少し冷たい。
俺は肌をさするように動かしてから、ヒュアをちらと見た。
「上機嫌じゃないか」
「当たり前ですよ。私パーティーを組んだことなかったんですからっ」
「……そうなのか?」
彼女ほどの美貌で誰ともパーティーを組まないというのは、もしかして何か問題でもあるんじゃないだろうか?
俺の思考にヒュアが口元を緩めた。少しだけ残念そうであった。
「私、わけありなんです」
どういう類のわけありなんだ?
例えば、実力は十分でも一緒に組みたくない相手、というのはいる。
主に人間性の面でな。
あとは、実力不足であったり、ヒュアのようなどちらかという駆け出し冒険者の場合は、将来性が見込めないとかだろうか。
俺のような、『魔法使い』などは有名クランには絶対に所属できなかった。
将来性がないからな。
この時代ではその限りではないが。
「どういう、わけ、なんだ?」
「……えーと、その。聞いちゃいますか?」
「聞かせてくれるのなら、教えてほしいな」
俺が聞くと、ヒュアは明るく笑った。
「私の職業が弱すぎるんですよー。ダメダメの職業だって言われているものですから、もうどこにも誘われなくって」
「そうか、それで職業は?」
職業がダメ、か。
まあ、この町にいる間くらいは支援できるだろう。
『僧侶』で、支援魔法を習得できる。
一緒にパーティーを組んでいる間は、それで支援すれば大丈夫だろう。
ヒュアの口がきゅっと動いた。
「……剣弓士です」
おっ、滅茶苦茶強い職業じゃないか。どうなっているんだ?
エルフ族にのみ発現されるといわれている職業だ。
精霊術士と並んで、有名な職業だ。
ヒュアは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 黙っていて! 別に一緒にパーティーを無理に組まなくてもいいですよっ! 一人で強くなりますから!」
なぜ、弱い扱いされているのか。それが思考の半分以上を占めていたため、彼女への返答が遅れてしまった。
「いや、別に一緒に組むから」
「え、本当ですか!? ……ロワールさんは神様ですかっ」
どういうことなんだろうか。
少なくとも、俺の時代では弱い職業ではなかった。
むしろ、剣までも扱える職業なので、エルフ族特有の体の弱さがなくなる。
それでいて、弓の扱いが苦手になるわけでもなければ、さらに弓の技術も向上する。
……普通の弓使いなどと比べると、彼女の職業はマイナス無しの素晴らしい職業なんだが。
考えていても分からないな。
俺の時代とは違う。あれから随分と経って、弱体化した可能性は十分に考えられた。
「どうして弱いんだ?」
「……えーと、育ちが遅いんです。今の私はFランクなんだけど、なかなか成長しないんですよ。それに何より、普通の弓使いよりも体が弱いんです」
ヒュアの言葉を聞き……やはり俺の仮設は正しいんじゃないだろうかと思えた。
『賢者』もそうだが、Fランクでは弱い職業が複数あるのではないだろうか?
この時代の子たちはすべての職業がFランクから始まる。
だからこそ、俺が想定しているよりも能力が低い可能性も考えられる。
少なくとも、Dランクの時点では、剣弓士は強い職業だった。
前世の知識がすべて当てはまるとも限らないが、俺の『賢者』は前世の通り強かった。
育ててみる価値はあるだろう。
「別に神様だから、じゃないぞ」
「それではもしかして女神様!?」
「性別の問題でもなく……ちょっと気になることがあるんだよ」
「……気になること、ですか?」
「ああ。俺は剣弓士の人間と一緒に戦ったことがあるんだ」
「え? そ、それ本当なんですか? 剣弓士の冒険者なんていないって聞きましたよ!? お化けなんじゃないですか!?」
「確かに足なかったかもな」
「や、やめてくださいよっ! 怖い話苦手なんですから!」
「冗談だ」
「変なこと言わないでください!」
ま、この時代の話ではないが……。
深く突っ込まれると面倒だから、俺はそのまま続ける。
「とにかく、そいつは強かったぞ? Dランクだったが、俺とほぼ変わらないような動き……いや、たぶん俺よりもつよかったな」
「ろ、ロワールさんよりも強い剣弓士って想像ができませんよ!」
驚きが止まらないようだ。
まあ、前世の話なので、俺が『賢者』になる前なんだけどな。
「本当に剣弓士で強くなれるんですかね……?」
「職業によっては、ランクが上がることで強くなれるというのもあるのは聞いたことないか?」
「え、ええと……聞いたことはありますね」
あるのなら、もしかしたらチャンスがあるかもな。
……俺たちの時代でも不遇扱いを受けていた職業が、覚醒したなんて話は聞いたことがあった。
『ものまね士』というものだ。
彼らはSランクになるまで、何もできない。
だが、Sランクになった途端、最強になった。
すべての職業のスキルや魔法を、目視してから一定時間の間、ものまねできるようになったのだ。
それは『勇者』のスキルも同じだ。
ただし、『勇者』が持つ固有の力だけは、ものまねできなかったようだが。
それまでは弱い弱いといわれていたのに、それだ。
……そしてもう一つは『遊び人』という職業。
これも、攻撃などは一切できず、旅芸人的なもこともできない弱い職業だった。
だが、ランクSまであがると、『賢者』になれるのだ。
職業というのは、稀に転職ができる。
もちろん、できる人、できない人もいるそうなのだが、一定の条件を満たしていると、女神の声が聞こえ転職できるらしい。
ちなみに、『賢者』は意図的に転職を起こすこともできるらしい。
確かBランクからだったか? ……まあ能力の発現は個人差もあるので、確定しているわけではないのだが。
転職に関しては、ランクや職業以外にも、色々と関係しているのではないかともいわれている。
例えば、スライムしか殺していなかった人間が、スライムスレイヤーという職業になれたり、人の悩みばかり解決していた人が、カウンセラーと呼ばれる職業になったりな。
それまでのその人にとっての人生経験なども関係してるのではないかとも言わている。
結局、憶測しかない。誰も女神の頭の中を見たわけじゃないからな。
「Dランクまで、あがれば……私も強くなれるかもしれないってことですよね?」
「十分に、可能性はある話だと思うな」
「……D、ランク」
ただ、今のヒュアにとってそこは遠いようだ。
……むしろ、絶望を与えてしまったかもしれない。
「それまでで良かったら、一緒に組まないか?」
「え?」
俺の言葉に、彼女は驚いたようにこちらを見た。
「俺はこれから、世界を旅してまわりたいんだ。ただ、この世界の常識を知らないだろ? それを教えてくれるのなら、キミが嫌というまでは、俺と組んでほしいと思ったんだ。どうだ?」
これが俺の提案だ。
彼女は自分のことを卑下してしまっている。
だから、俺にもメリットがあることを伝えた。
「……も、もちろんです。むしろ、私のほうがお願いしたいくらいです」
「それなら、良かった。それじゃあ、改めて、これからよろしく」
「よ、よろしくお願いじまず!」
ぺこり、と頭を下げたヒュアは涙をにじませていた。
感情が素直に出る子だな。
「泣くほどのことじゃないだろ?」
「だ、だってぇ……私、この職業のせいで、今まで誰とも組めなかったんですよ! なのに、こんなこと言ってくれるなんて!」
「……そうか」
ここまで喜ばれると、きちんと、彼女のランクをあげてやらないとと改めて思わされた。
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