第5話 賢者の評価
歩いていた大工を横目に、俺たちはまっすぐに歩いていく。
「まずは、ギルドに行きましょうか」
「そうだな。……ところで少し聞きたいのだが、この町は何と言うんだ?」
「アルソフィーです」
……まあ、わかり切っていたが聞いたことのない町だ。
これでも、世界中を旅してまわっていたからだいたいの町は知っているものだ。
「アルソフィー、か。最近できたのか?」
「はい。今造っている途中ですね」
「……みたいだな」
「この森を調査した国が、結界装置を発見したんです。結界装置って知ってますか?」
からかうように彼女が聞いてきた。
……ヒュアとはずいぶんと打ち解けたな。冗談交じりの彼女に、俺は苦笑を返した。
「魔物から守るためのものだろ?」
魔物たちを退ける力を持つといわれているのが結界装置だ。
魔石を媒体として構成される結界装置は、完璧ではないが魔物を遠ざける力を持っている。
強力な魔物ほど、結界を恐れる傾向があるため、町を作る場合は結界装置を作るための、高ランクで大きい魔石が必須となっていた。
俺が答えると、少し不満げであった。これまで、質問ばかりしていて、無知と思われたのかもしれない。
「結界装置があるから、ここに町を作ろうってなったわけですよ。それで、国はあるクランに依頼をかけ、この町の建築、防衛を行わせているのです」
その流れは俺の時代にもあったな。
クランというのはパーティーよりももっと大きな集団のことだ。
「わざわざこんなところに町を作るんだな」
「だって、結界装置があるんですよ?」
「別に結界装置なんて運び出せばいいんじゃないのか?」
それか造ればいいじゃないのか?
俺はそう思っていたのだが、ヒュアは口元を緩めた。
「知らないのですか? 結界装置は下手に動かせないんですよ。結界装置の核になる魔石はこの大地でしか適応しないんです。だから、それを弄ると結界が造れなくなっちゃうんです。国の宮廷魔法使いたちで、ようやく修理を行って、今こうして結界装置が起動できるようになったんです」
……いや、普通に魔石の情報を書き換えればできるが。
どうやら、この時代では結界の作成技術も失われてしまっているようだ。
恐らく、古い時代にあった結界装置を発見して、修理するのが限界なんだ。
失われたテクノロジー……なんて思われているかもしれない。
こうなると、魔道具なんかも心配だな。
もしかしたら、魔道具なんて存在していない可能性もある。
「さっき、クランと言っていたよね?」
「はい。クランに興味あるんですか?」
「少しな。ヒュアもクランに所属している冒険者なのか?」
「違います。クランには入ってない無所属の冒険者です。パーティー募集中です。優秀な魔法使いの方とかっ」
「それは検討しておこうか。それで、この町のクランは、国に認められたクランなのか?」
「勲章持ちのクランで、名前は『剣閃雷撃(ライトニングブレイド)』です」
国が定める以上の力を持ったクランに、国は勲章の授与を行う。
勲章を授かったクランは、国が認めた正式なものとなる。
クランリーダーの持つ権限は、有象無象の貴族たち以上のものとなる。
だから、そう簡単に勲章を得られるようなことはない。
迷宮の攻略を行った時や、町一つを滅ぼすような魔物を討伐したとき、くらいだろう。
それが俺たちの時代の基本だったが、この時代でもそれはあるようだ。
「そういえば、一緒にギルドまで案内してくれるのは嬉しいが、ヒュアは何か他にやることはない? 彼氏とか見たら、誤解されるんじゃないか?」
「か、彼氏とかいません! それに私今暇なので大丈夫です!」
「そうか。それなら、善意に甘えさせてもらうかね」
「はいっ、一杯甘えてください! それでパーティーを組んでくれたら嬉しいです」
「下心に甘えさせてもらうよ」
しばらく歩いたところで、ヒュアが足を止める。
「ここが、冒険者ギルドですよ」
ヒュアの視線を追うようにそちらを見る。
そこには、他の家とは比べ物にならない大きなギルドがあった。
「……大きいな」
「クランハウスとギルドを兼ねていますからね。この町の依頼は基本的に『剣閃雷撃』が管理しているんです」
「なるほどねぇ」
勲章持ちのクランに、町の管理を頼むときもあると聞く。
管理というのは主に冒険者たちのだ。
その町で登録した冒険者が死なないように補助したり、冒険者が問題を起こさないように見張るなどだ。
「さあ、行きましょう!」
ヒュアが歩き出し、俺もその後を追う。
彼女とともに冒険者ギルドへと入る。
むわっとした熱気、その後には大量の音が体を殴りつけてきた。
ギルドは冒険者たちであふれていた。
今が夕暮れ時というのもあるからだろう。多くの冒険者が精算を行うために、ここへ足を運んだのだろう。
「うわ、さすがにこの時間だと忙しそうです」
「みたいだな。こんだけ人多いと、冒険者登録は明日のほうがいいのか? 職員さんも迷惑なんじゃないか?」
「いえ、大丈夫ですよ。ほら、あちらですから」
ちらとヒュアが示したほうの受付は空いていた。
そちらは初心者冒険者支援と書かれている。
ていうか、普通に文字読めるんだな。
……いや。そもそも、ヒュアとも普通に会話できるしな。
時代は変わっても文字や声が変わっていないのか?
それとも、『賢者』だからだろうか?
今は便利でいいか、何かの効果でこうなっているのなら、文字などは覚えておきたいんだけどな。
「あそこはなんなんだ?」
「基本は初心者冒険者の相談を受ける場所ですね。あとは、冒険者登録を行っているんです。ですから、まだ登録していないロワールさんはあっちで大丈夫なんです」
「……なるほどねぇ」
それなら、空いている今のうちに登録をすませてしまおうか。
「あっ。そうだ。私は依頼の報告をしてきます。それではロワールさん! またあとで合流しましょう」
「そっか。ここまで色々助かったよ。ありがとね」
「私も助けられたからおあいこですよ!」
ヒュアは手を振って列の最後尾についた。まだしばらく、列は履けそうにないな。
俺は初心者冒険者の受付へと向かう。
受付の職員が軽く頭を下げてきた。
「どのような御用でしょうか?」
「冒険者登録を行いたいんだけど、こっちで大丈夫なの?」
「え? は、はい。少々お待ちください!」
驚いたように彼女が目を見開いた。
それから奥の部屋へといき、一枚の紙を持ってやってきた。
「それでは、こちらに記入お願いします。このあと、簡単な実技試験も受けてもらいますね」
「了解だ」
名前、職業、ランクを書けばいいようだ。
この辺りは前世と変わらないな。
名前、職業、ランクを記入してから、俺は受付に紙を見せた。
「ロワールさんですね」
前世の文字で通用してしまった。
まあ、別にいいんだけど。
受付の視線が下がっていく。なんだ? 怪訝そうな顔だ。
「職業は賢者……? ていうかDランク!? け、けど『賢者』、なんですよね? 確か、最弱の職業の……」
「ああ。確認してくれ」
ウィンドウを見せると、彼女は納得したように頷いた。
そして彼女は僅かに口元に嘲笑を浮かべながら、問いかけてきた。
「『賢者』というのはどのようなことができるのでしょうか」
「魔法使いと僧侶の魔法を同時に使える職業だ」
そう言うと受付は目を見開いた後にくすくすと笑った。
「ふ、ふざけたこと言わないでくださいよ。『賢者』がそんな魔法を使えるはずがありません! 『賢者』は魔法職なのに、たいした魔法が使えないんですからね!」
……やはり、そういう反応になるんだな。
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