第4話 最弱の賢者
「ロワールさんって、冒険者なんですか?」
「……まあ、似たようなものだったな」
前世で勇者とともに旅をしていたが、俺たちは全員冒険者としても登録をしていた。
冒険者となれば、立ち寄った街のギルドで依頼を受けられる。
金策を行うには、十分だった。
もちろん、勇者だから資金などの援助は受けられたけど……あんまり勇者がそういうの好きじゃなかったんだよな。
今も冒険者カードは持っていたが、時代が違うようだし使えないよな。
下手に見せるのは得策ではないだろう。
「やっぱりそうなんですね! あれだけ強いし、ランクも凄そうですね」
「ランク、か?」
「はい、そうです。知らないのですか?」
いや、知っている。
ただ、俺の知っているランクと彼女のランクが違う可能性は十分にあった。
今は無知なふりをしておいたほうがいいだろう。
「冒険者というのは知っていたけど、それ以上の情報は知らないんだ。俺はただ、魔物を狩って旅をしていたんだけど、その認識じゃ間違いか?」
「違いますよっ。まあ、似たようなものですけど……えーと、簡単にいうとランクに応じてお金稼ぎができる人たちってことなんですよっ」
ふふんと得意げにエルフ耳を揺らす。
「そのランクというのはなんだ?」
「実力を示すものなんですよ。ランクはS、A、B、C、D、E、Fの七段階があるんです。職業ランクと同じ七段階……ってわけです!」
「そう、なのか。それは一杯だな……」
「はい、一杯です。私はちなみにFランクですけどね」
……七、か。
俺の知識と違う。
「そういえば、ロワールさんの職業って何ですか? 中級職(・・・)の『魔法使い』ですか? それとも、もっと上の私が聞いたこともない職業ですか!?」
……『魔法使い』が中級職、だと? そんなはずない。
魔法使いはBランクまでの魔法しか覚えられないのだ。上級職になんて、間違ってもならない。
ヒュアが目を輝かせていた。
俺は少し考えてから、彼女に職業とランクを表示させる。
俺たちは自分の職業とランクを眼前に表示することができる。ウィンドウと呼ばれるこの技は、これ以外には使い道がないのだが、自分の能力とランクを示すにはうってつけだった。
女神がくれた身分証明の手段の一つ、ってところだな。
「職業は『賢者』……? け、『賢者』……ですか?」
「ああ、どうしたんだ?」
ヒュアの反応が悪い。
どういうことだ? 賢者といえば、最強の職業のはずだが――。
「だ、だって『賢者』って、ロクな魔法が使えないすべての職業の中で、その最弱だって言われていたので……」
「……嘘だろ?」
「ほ、本当ですよ! 私も驚いているんです! さっきは、あんなに凄い魔法を使ってたので……」
まさか、賢者の能力について誰も知らない時代なのか。
俺が魔王と戦った時代から……想定以上の時間が過ぎているのかもしれない。
俺の前世の時代で、過去に優秀な賢者が一人だけいた、という話を聞いたことがある。
さらに時代が進み、その歴史が薄れ、そして消え去ってしまったというのは珍しくないのかもしれない。
俺の時代でだって、過去の人からすれば「え!? 知らないの!?」と言われるような歴史があるかもしれないんだからな。
「『賢者』って何ができるんですか? 無詠唱っていうのはわかるし、凄い魔法も使っていましたよね? 」
「……そうだな。魔法使いと僧侶はわかるか?」
「どっちも後衛としては最高ともいえる職ですね!」
「そのどっちの魔法も使えるな」
「はぃぃ!? 強すぎますよ!?」
彼女がのけぞった。
賢者が強い職業であることは間違いではない。
実際の賢者はすべての魔法がSランクまで使用できるといわれている。
俺の魔法がBランクなので、さらにまだ二つ上がある。
……ここでSランクの魔法を使ったら大変なことになりそうだな。
俺たちの時代、職業や冒険者のランクは五段階だった。
最低ランクがDで、皆そこから鍛えていったのだ。
だが、この時代は違う。
魔法使いでさえ後衛としては最高と呼ばれているなんてな。
どうやら俺は、俺が最強になってしまう世界に来てしまったようだな……。
町を目指して歩き始める。
「魔法使いが中級職なら、下級職って何があるんだ?」
上級職よりも、さらに下の職業が気になってしまった。
「下級職といえば、初心者や、見習い魔法使い、僧侶ですね」
「そういえば、そうだったな」
「もう、まだ若いのにボケちゃってるんですか? ダメですよー」
魔法使いが中級職で間違いはない、か。
どうやら俺の時代よりもかなり皆の実力が落ちてきているようだな。
俺たちの時代では、魔法使いは最低で、上級魔法使いとか、火炎魔法使いなどといった、魔法使いにプラスアルファがあったものだ。
火炎魔法使いとなれば、魔法使いとしての魔法はもちろん、火炎に関してはSランク相当の魔法まで使用できるようになるとか。
これがいわゆる、中級職だった。
上級魔法使いとなれば、Bランク相当ではなく、Aランク相当まですべての属性の魔法が使えたりな。
「見習いって……ランクいくつの魔法まで使えるんだ?」
「ランクDまでくらいですね。これでも、初心者魔法使いよりは強いですね」
「初心者はいくつまでなんだ?」
「ランクEまでですね。初心者、見習い、駆け出しのあと、ようやく魔法使いになれるんですよ。魔法使いって確かBランク相当まで使えますよね? 世界でも、あまりいない職業で、国とかの偉い立場になれるって聞きましたよ」
「剣士とか、戦士とかも、初心者とかがつくのか?」
「はい、もちろんですよ」
なるほどな。
聞けば聞くほど、この時代の戦闘能力が低いのがわかる。
俺のBランク魔法も、下手したらSランク魔法相当に扱われる可能性もあるよな。
『賢者』補正でかなり威力もあがっていたしな。
かといって、Dランク魔法だって、この世界の一流たちに並ぶほどの威力のはずだ。
驚愕だな。
それからしばらく歩き、夕方になった頃だった。
「あそこが私の暮らしている町ですね」
そういってヒュアが指さした先には、大きな町があった。
俺たちが今進んでいる道は、木々を切り崩して作られたものだ。
恐らくは土に干渉する魔法を使い、道を整えたのだろう。
馬車一つが問題なく通ることができるほどの大きさだった。
その道はまっすぐに延びている。
道の先は、門へとつながっていた。門の両端には、冒険者と思われる強面の男がいた。
「こっちは南側で魔物たちが住む森に近いエリアですから、みんな警戒しているんですよ」
「……なるほどな」
門を通り、中に入る。門を守る冒険者には一瞥されたが、何も言われなかった。
外壁は立派であったが、中は思っていたよりもこぢんまりとしていた。
いくつもの店が並んでいるのだが、それらの多くは宿のようなものだった。
何より、現在もあちこちで建物を建造されていっていた。
この町は、発展途中といったように見えた。
とはいえ、とりあえずの拠点として過ごすには十分な町だな。
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