第6話 魔力検査
『勇者』と並んで強かった『賢者』を、やはり誰も知らないようだ。
ヒュアがたまたま知らなかっただけ、とかではなさそうだな。
職員は小さく息を吐いてから、改めて首を傾げた。
「改めて聞きますね。『賢者』というのは何ができるんですか? 冒険者というのは信用が大事になります。先ほどの話は聞かなかったことにしてあげますから」
この場で実践するわけにもいかないしな。
仕方ないここで言い争っていても仕方ない。
人というのは実際に自分の目で見るまで信じられないというのはよくある。
実際に見ても否定する人間だっているのだ。
ある程度妥協して、賢者の魅力を伝えるとしようか。
「魔法使いと似たようなものだな。魔法が主に使える」
それよりかはこちらの方が役割としてはイメージしやすいのではないだろうか。
「魔法使い……」
そこで彼女は小さく息を吐いた。
「あのですね、魔法使いというのは本当に一握りの人しかいないんです。大規模なクランに数人いるか程度のものなんですよ。うちのクランにだって、十人しかいないんですから」
「それならここにいてもおかしくないんじゃない? 俺が、その一握りってわけだ」
「いやいや……そもそも『賢者』がそんなことになるなんてありえません」
「それじゃあ聞くが、キミが知っている『賢者』はなんなんだ? Dランクまでランクアップした『賢者』なのか?」
考えている一つの可能性は、Eランク以下の『賢者』が弱すぎるということだ。
俺の時代ではDランクから始まるのが基本だったが、この時代は違う。
そこでの違いがあるかもしれない。
「……私が知っているのは二名ですね。まず、世界で初めて発見された『賢者』はEランクまであがったそうですが。使える魔法はF・ファイアの一つのみ。冒険者パーティーに所属していましたが、あまりにも弱かったため、旅の途中で命を落としたそうです」
Eランク、か。
俺の推測が現実味を帯びてきたな。
「もう一人の『賢者』は貴族の家に生まれたそうですよ。まあ、生まれてすぐに処刑されてしまったようですけどね。呪われた職業、として」
「……なんだと」
なんてもったいないことをしているんだ。無知というのは恐ろしい。
職員は自身の知識を語ったあと、ドヤ顔でこちらを見てきた。
……信じてもらうのは難しそうだな。
どうせ実技試験で魔法も見せるんだ。そこで能力は発揮すればいいだろう。
「わかった。そっちが納得するように書いておいてくれないか? 魔法の系統が僧侶と魔法使いに似ている、それだけだ」
「……嘘ついても何もいいことはないんですからね?」
はぁ、と彼女は軽く息を吐いた。
それからしばらくして、俺たちのほうに一人の男がやってきた。
「おまえが冒険者登録をしたいっていう冒険者か」
「そういうわけだ。試験官か?」
「ああ」
俺が話しているのは三十代くらいの男性だ。
半袖なので引き締まった黒光りした腕が見える。
かなり鍛えているのがわかる。
「それで、こいつはどんな冒険者なんだ?」
「賢者、です」
職員がバカにしたようにこちらを見てきた。
試験官も驚いたようにこちらを見てきた。
「……そ、その職業で冒険者を目指すのか?」
「ああ」
「……悪いことは言わない。命を落とすぞ?」
「それを判断するのが試験官じゃないのか?」
もう面倒なやり取りはしない。
俺がそういうと、試験官は口元を緩めた。
「確かにそうだな。実力は試験ではっきりするんだ。試験に行こうか。」
「ああ」
「試験はギルド中庭で行う。実力はそこで、見せてもらうからな」
「了解」
職員が試験官に用紙を渡すと、試験官が顎をあげた。
「そうだ。おまえも一緒に来るといい。どうせ他に登録する人もいないだろうしな」
「え? わかりましたっ」
試験官は受付も誘うと、奥の通路へと歩き出した。
〇
中庭に移動したところで、ヒュアがやってきた。
「ロワールさん、登録は順調ですか?」
「うーん、どうだろうな。これから試験を受けるところだ」
「そういえば実技試験がありましたね……。懐かしいです」
ヒュアは俺たちを一望できる場所に座った。
俺は準備を進めている試験官に問いかける。
「ちょっと聞きたいんだが……登録時の成績で、評価って変わるのか?」
「ああ。基本的な冒険者ランクだけだがな」
「基本的な……ってことは、特殊な資格もあるのか?」
「もちろんだ」
俺の前世ではあった。
例えば、見張りに特化したスカウト資格だったりだ。
冒険者登録を行った後から、そういった細かい資格試験は受けられる。
依頼によっては、一定以上の資格を持っている人を募集する場合もある。
資格を持っていると、報酬が上乗せされたりすることもな。
「今は冒険者ランクしか評価しないが、頑張れば高ランクから始められる。魔法使い、というのが本当なら最高のDランクも狙えるんじゃないのか?」
「Dランク? つまり、試験での最高はそこなのか?」
「ああ。すまないな。俺がDランクなものでな。それ以上の評価はできないんだ」
なるほどな。
冒険者ランクというのはだいたい強力な魔物を倒していれば勝手に上がっていく。
勇者様がそうだったからな。
ただ、ランクをあげるには何度も依頼をこなす必要がある。
結構面倒なので、Dランクで始められるように頑張らないとな。
中庭に出ると、すっかり暗くなった空が出迎えてくれた。
試験官が周囲に魔石を置くと、それが明かりになる。
中庭も街灯のように明かりが設置されていたが、とても中庭すべてを補えるほどじゃなかった。
いよいよ、試験開始だな。
俺が気合を入れていると、試験官が用紙をこちらに向けてきた。
「『賢者』は魔法を得意としていて、話では僧侶と賢者の魔法が使える、と。……間違いないないな?」
「ああ」
「なら、その二つの検査を行っていこうと思う。まずは、魔力の検査からだな」
試験官がそういうと、先ほどの受付が桶を持ってきた。
そこには水が入っていた。
魔力の詰まった水だな。
「これはなんだ?」
「魔力を測定するアイテムだ。とりあえず手を触れてみろ」
試しに手を触れてみる。
水は……変だ。なんだろうか、見た目は完全に液体なのに、力で押そうとしてもまるで動かない。
魔力と魔力が身を寄せ合って、固まっているのだろうか?
「この水は魔力を浴びることで揺れるんだ。だが、並大抵の魔力では揺れない。この水の揺れ具合を見て、魔力量を検査する」
「魔力が多い人はどんな感じになるんだ?」
「水が激しく揺れる。宮廷の魔法使いには、この桶の水が沸騰した水のようになるバケモノもいるらしい」
なるほどな。
「わかりやすくていいな」
「まあ、魔法使いなら波紋が出るくらいの反応は欲しいところだな」
「了解だ。魔力を籠めればいいんだな?」
「そうだ」
魔力、か。
魔力量にはそれなりに自信があった。
俺が勇者の旅に選ばれたのは、いくつかの理由があった。
その第一が、魔力量だった。
勇者の旅では長く苦しい移動を強いられることが多くある。
俺の魔力量は国内一を争うほどのものであり、道中の回復はだいたい俺がこなしてきた。
それでいて、戦闘中は魔法を連続で発動しても、魔力はつきなかった。
何より、僧侶も魔法使いも極めていたため、それなりに高水準の魔法が休みなく使えるのだ。
一点突破の魔法使いと違って、かゆいところに手が届く魔法使い。
何より、戦士も極めているため生存能力も高い。
そんな俺の魔力は一体どのように測定されるのだろうか。
今のこの体は、前世と同じ。
能力が引き継がれているのなら、魔力もきっと引き継がれているだろう。
俺はどのような結果が出るのかという興味とともに手に魔力を込めた。
次の瞬間、水が噴き出した。
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