第9話
咆哮と同時に繰り出された裏拳を、ミントは後ろ飛びに躱した。ブンッと空気を切り裂く音、飛んで来た衝撃派を身体を低く沈めてまた避ける。
「おわぁーっ! な、何をしているメイド! 早くそいつを捕えんかっ! コ、ココ様に危害が及ぶんだぞっ!」
背中の向こう、爆発音とともに物陰に隠れていたモチヅキ艦長の悲鳴が聞こえたが、答えている余裕は無い。
飛んで来た金髪の蹴りを躱し、拳を躱し、肩を蹴って距離を取る。
「……魔導人形……成程。『極地開拓用人型自律魔導兵器』、ですか。確か、その計画は随分と昔に破たんしたと聞き及んでおりますが」
どう見ても十代後半の外見をした人形は笑った。
「そりゃそうだ。じゃなきゃこの俺が、
また、躱す。
見える。躱せる。が、次が無い。
刺突も打撃も絞め技も通じない人形相手に、有効な攻撃手段が見当たらない。
だが。
「人形……風情がッ!」
それは相手も同じ事、まともに喰らえば確実に体力を奪われるだろう一撃も、当たらなければ意味は無い。
そして敵は人型の良く動く人形だ。脇の下辺りの可動部ならば、装甲は薄いはずとミントは読んだ。
ならば。
――直接、内部を爆破する。
手の中の棒手裏剣を回しながら、ぎりぎりで拳を躱し、距離を取る。
幸い、相手に武器は無い。しかも攻撃は四肢に頼った大ぶりな物ばかりだ。だから、中間距離では足の運び。至近距離では肩の動き。見るべきはそこ。距離を保ち、敵の攻撃の呼吸さえ感じ取れれば、完封出来る。
そう思った、次の瞬間。
「もらったあぁぁっ!」
敵の足下に集中していたミントの意識の隅で、カピタと名乗った人形がぐいっと左拳を背後に引いた。
しまった、と思ったときにはもう遅い。
いつの間にか彼が握っていた特別製のワイヤーがミントの肩にぶつかり、その先にくっついていた巾着男が重りとなって、あっという間に半裸の女体をぐるぐる巻きに縛り上げていた。
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