第1話 我思う故にプリンうまし。


 宇宙空間を漂う小さな船の上で胡坐をかいて、少年はぼんやりと考えていた。


 今回のデブリの収穫は順調だ。精製品を連星帝国ブリエン共星圏オスクロの闇商人に流せば、今月はそこそこの暮らしが出来そうだと思う。

 そして来月になる前に、また浮遊屑を回収しに宇宙に出る。

 そうしてやがて大人になって、恋人や妻や子供が出来て、体力がなくなる頃には地上に降りて仕事をする――。

 自分も、そんな風に大人になるのだろうか。

 大人になって、爺になって――死ぬのだろうか。

 そんな未来を想像する度に、ふと思う。

 果たして、自分にそんな未来があるのかという事を。

 いきなり狂った野郎に背中を刺されても人生は終わりだし、致死性の毒やガスが口に入っても終わりだ。何よりこうして宇宙に出ている以上、磁気嵐にでもぶつかって宇宙船ごと浮遊屑になっても終わりだし、この宇宙のどこかにいるという宙食虫に呑まれても終わり。あるいはもっと単純に、病気でころりと逝くかもしれない。

 ひょっとしたら周りに居る爺達を見て《あんな風になるのか》などと考えるのが間違いで、爺になる前に死んでいる人間の方がずっとずっと多いのではないのだろうかと。


 人生はあまりにも呆気なく、味気ない。


 ならば一体、何のために。


 ――それにしても、このプリンは美味い。


 口に運んだプリンのあまりの美味さに驚いた少年は、思わず『天方てんぽう』――星の重力方向と反対方向の空を見た。


 見上げた宙はあまりに広く。


 はて、一体俺は何を考えていたのだろうか? 何か大切な事を考えていたはずだが……と少年が首を捻っていると、右舷天方の空間がワープの影響でぐにゃりと歪み、巨大な軍飛艦が顔を出すのが見えた。



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