オーバーマインド


 ネス湖でネッシーを見たとしよう——。

 実際に見たのなら、ネッシーはいる。

 だが他の誰にも、あらゆるセンサーでも存在を観測できなければ何故、ネッシーがいることになるのか?

 いると認識するから、いるのだ。個々人の主観は観測をオーバーレイヤードする。

 この世界はその究極系。


 ——〈仮想の五感〉があるために仮想世界の形で体感できる幻想。

 こうあってほしいと願われるままに。無意識の願いを吸い上げ、形にすることによってこの世界は在る。



『幽霊なんて存在しない。だけど幽霊を見た人間がいる。実際に起こっていなくても、主観は現実を上書きし、起こったと見せかけてしまう。すると後は一直線だ? 自分が見たんだから幽霊はいる。疑う事もせず真実になる——〈仮想の五感〉は、真実を実際に見せてくれる』



 佳境に入ったかのように、薄笑いしたヴィジョンが背にしているのは——天を衝き立って聳え、空で枝分かれする光の渦とピラー。無数の分岐を繰り返しながら、地上をオーバーレイヤードする様は仮想ネットワークを可視化したかのようだ。

 彼はその前を歩きながら身体を半回転させた。



『以上が——この世界の正体だ。願われて生まれたこの世界は、いずれ唯一の現実になる。途方もなく多くの人間が今、そうなることを願っているんだから。真実を知っていたとしても、集合無意識からの干渉で、『ここが現実である』のを疑うことなんて、できなくなる。有史以前から続いた本物の世界は捨て去られ、全人間は、この世界——〈仮想の五感〉で体感できる精神の内側、具現化した願望だけの仮想世界で生きる特別な生物になる。地上から意識を切り離し、ここにいれば生まれの差も辛い不平等もリソースの奪い合いもない。皆が幸せに、自分が望むように生きていくだろう』



 それが事実であるかは不明で、確かめる手段もないが。

 仮想現実だけが現実になる、なろうとしている。そして、それは良いことだと彼は言った。

 但し——イオンを見ながら一つ、こう付け加える。



『しかし——そこにあんたは存在しない』



 頭蓋骨の中で脳が鷲掴みにされたかのような衝撃があった。

 息が止まり立ち尽くす間に、光柱から分岐したフィラメントが脈打ち、膨張……ようやく彼のことがわかった。思考が置き去りになった麻痺状態のまま膝をつきながら、イオンは心臓まで撃ち抜かれた気分で、かろうじて前方を見つめた。


『当たり前だよなァ? イオンさん。誰もが無意識に求めていた——未知なる地平と、そこにいる皆を助けてくれる無条件の庇護者。その下で人々が生きていくなら。そこは仮想現実が現実になった現代でもなければ、VRアイドルの需要もない』

「そっ——」

『ここで問おう!』


 歩いていき、光柱を目前に遊生は強く言った。これは蜘蛛が明らかであって、蜘蛛の巣の中心を目指すゲーム——張り巡らされた糸は全てが一つながりになっている。

 最初の一歩から投了まで。

 彼のしたことは全て、……。


『——どっちが良い? なァ。自分だけの幻想の中で一人生きていくか、仮想現実が現実になった現代のシンボルでいるか。皆が同じかあんただけが究極に特別でいるか。神様とその他大勢か、VRだけどアイドルのあんたと俺達か。ああ、イオン・クラウドだけは驚いたよ? あれだけは想定外だった。でも他は、俺が全てを用意した——イオリアフレイン。そのためのブラックラウンドだ」


 ……今、この瞬間へ、収斂する一線。



『どちらを選ぶかは、わかっている! あんたは既に知ってしまったよな? この現実が実は、何だって思い通りにできることを。そしてそうする快感を。

 世の人間が皆——それぞれの幻想、それぞれの仮想の中で檻に囲われて生き続ける。俺達をつなげるはずだったネットワークの中で俺達は分断され、厳密な現実に残された抜け殻はただ、この世界というネットワークを維持するために人という種を存続させ続ける。そんなのよりもずっと気持ちが良い』



 上空に光柱の果てで広がるフィラメントは、人を改変する触腕。仮想を現実にするには集合無意識のレベルで——〈常識化〉してしまえばいい。『この世界だけが現実である』と人々が思うようになれば、自ずと世界はそうなる。

 ほとんどの人間がダイブ端末を所持するようになったせいで、既に変化は始まっている。世間で騒がれる精神機能失調症、目前に答えを与えられてみればそれは、この世界の住民になった人々……今に全人口が無意識に、この世界だけが現実と感じるようになれば、皆がその状態になる。

 誰にも止めることはできない。できないはずだった。最初は。


『本当に仮想が現実になるのか。なったとき今の現実がどうなるか、俺はわからない。だけど絶対にッ、俺は仮想を現実になんてさせない——』


 だからブラックラウンドが生まれた。ブラックラウンドに入口があるから——〈裏側のブラックラウンド〉。

 本来、ここは人々の願いに呼応して生まれた新しい地平。

 仮想の五感で体感することはできても、一般的な仮想世界ではなかったのだ。だが彼によって、この世界は——〈隠されたゲーム〉として人々に理解された。


『俺の現実は俺が決める、他の奴や本当はどうかなんて関係ない。本物じゃなくてもVRですらなくても、プライドを賭けて戦えるゲームこそ、俺にとっての現実だ』


 リアルなゲームとリアルは違う。

 人間全体の意識が変化し、仮想現実が真の現実になったら、それはVRゲームではなくなってしまう。

 自ら選択して参加するのではなく、強制的に皆がそこに在らなければいけないなら、仮想であってもゲームではない。そこが今よりずっと良い世界であるとしても……。



 ——その瞬間、光が言葉に呼応した。



 鉄橋橋梁、ビル壁を続けざまに蹴って回避し、自らの影が飲まれた場所を見ると——それが存在することによる圧力で生じた衝撃波が空気を震撼させてくる。足下から出現したのは重力のスフィア。先程からの地震の原因はこれか。

 地底から地上に全貌現した途端スフィアは爆発的なスケールへと膨張、空をも飲み込んだ直径の目算は、五〇〇メートル(直径〇.五㎞)を軽く超える。

 一瞬だった初動ほど勢いはないが、深淵都市のフィールドオブジェクトごと最終層のフロアを侵食、咀嚼するように、重力球は尚もごくゆっくりと膨らんでいく。



『さあ、どうなるか? ここは量子情報化された無意識に在る、皆の願望の世界。この世界はただ俺たちの望んだようにして、在る。

 最初とは随分形が変わった。そうであって欲しいと皆が思っているから、今は——中が各層に分かれてたり、ゲームのスキルがつかえたり、後は最終層に到着したプレイヤーには一部機能の使用権限が回って来たりもするんだが。破壊しようとした瞬間それは取り上げられて、本気で抵抗をしてくる。不安なんだが、してきてるよな……?』



 ブラックラウンドに入口がつくられたことで——ブラックラウンドの一部と思われるようになったこの世界は今、それが前提となっている。

 この世界という大火の構成情報は、願いなのだ。

 願われて生まれ、『現実の世界に対して誰しもが当然のように感じているリアリティ』をここに与えようとしているのが——あの光。

 膨張の最後はまた爆速だった。

 退くイオンも捉えて飲み込み、フィールドの端までも一瞬で完全にスフィアの中へ突入。


 仮に……全てが事実で、今の変容が進行すれば人類とは人口と等数の体と、ネットワークされた一個の精神を持つ群体となる。個々の自我は同化した精神の中、即ちこの世界でしか発揮されない。

 願いの数が多過ぎた。

 集合が分水嶺を超え、全人類の共通認識となったために今、そうなることを防ぐ手立てはないはずだった————。



 この世界が、VRゲーム——〈裏側のブラックラウンド〉でなければ。



 スフィアに飲み込まれた瞬間に脱力、全身から力が抜けてしまい、膝をつく。だがそこは? 感覚が機能していない。地に両手もついて顔を上げると、目をキツく閉じ、また開く。眼前に異界が広がっていた。

 現れた景色は——エレベーター?

 薄く揚力を感じた。エレベーターシャフトの中から、イオンは外を見ていた。清音化された機構は無音。157…、156…、155…、いやにゆっくりと地上へ下っていく内部には他に数人がいた。

 コンソールの真ん前に陣取って、彫像のような無機質さで佇んでいる老人がいた。

 おかげでボタンを押すことができない。

 生理的な嫌悪感があり、早くここから出たかったが、どいてくれと言うには口を開けないといけない。下りるにはどこかの階で止まるのを待つしかなかった。


 154…、153…、152…——


 会話を交わす何人かの男性がいた。談笑をしていることはわかるが、個々の言葉が聞き取れない。早口でもなく外国語でもないのに。何を言っているのかわからなかった。

 すぐ近くに同年代くらいの少女がいたが……何というか、…認識が壊れる。

 135…、134…、133…——止まらない。今、何階だ? 100以上の階なんて在るはずがない。

 外は?

 透過液晶の窓に映っていた広告のビジョンをフリックすると、それは消え、外の展望が広がる。



「私は仮想のほうがよかった」

「!」



 声がして振り返ると、他の乗客が黒い靄状のエフェクトとなって消え、ペールトーンの巨乳な少女が現れている。

 彼女は、下で会った……透宮?

 まるで最初からいたかのように、一枚の輝くカードを手にして、彼女は渡そうとしてきた。インターフェースがポップアップし、アイテム譲渡を受けるかの選択が表示される。受け渡されようとしていたのは、〈尾を噛む環蛇が描かれたカード〉。

 ——それは、とあるVRゲームへの招待状。


「……? 実在するんだ」


 それは自殺者たちのVR。自ら一度生を放棄した者だけが、そのゲームに参加する資格を得る。

 即ち、二〇〇時間以上プレイした他ゲームのデータとアバターを完全に消去し一方通行のコンバートを行うことによってのみプレイを開始することができる、選ばれたプレイヤーだけの招待制ゲーム。



 おめでとう、新しい世界に君は選ばれた。



 ——〈ウロボロス〉への招待コード。

 カードには図柄に寄せて蛇の飾り文字が印字されているが。


「あなたもそうじゃなかったのッ……?」

「——え」

「全部が仮想現実になった方がよかった。そうなれば私は、皆と同じになれるから」


 ……何? 何だ、と思った。イオンは疑問を感じた。透宮の言っていることは、その方が良い世界になると遊生も言っていた。それで——何を? 何が疑問だったのか。わからないまま返事をする。

 昔。自分の中にいる分裂した自分をイオンは消したかった。普通になりたかった。だが、もう今はどうでもいい。だって……。


 ……?


 瞬間、強烈な引っかかりを感じた。何かが間違っているという明確な手応え、否。警告と言ってもいい違和感に動悸がする。何か見落としている。だが、何を。


「ボクは、」


 けれど、イオンは素直に思った通りのことを言った。途中で、突如赤い閃光めいた電網が走り、見ているこちらが信じられなかった程の驚愕の表情すると、透宮が視界から消える。



「どうでもいいっていうか。よくわかんないんだけど、別に世界とかどうなったとしても——あとちょっとしたら、いないからね? ボクは」



 一年という期間が区切られていたが……(今思えば、それは仮想現実が現実になるリミットか)、イオンの寿命はより早く尽きる。

 122……エレベーターが止まると同時に、もう一度赤く電衝。正気に戻り、踵を支点に全身を回転させる動作で素早く振り返る。

 鎮座する存在感。

 今エレベーターが止まった地上何メートルだかのここからそれとは視線の高さがぴったりだった。


 それは。仮想を現実にするという願いを叶えるため、この世界を拡げ、集合無意識へ到達させた存在。庇護者として望まれた神——そう在ってほしいと望まれたがためにVRゲーム(階層を順に攻略し最深部を目指すという)の形をしているこの世界で、ルール上可能なことを全て行い、プレイヤーを排除するために自身を顕現させた姿。

 人間であれば見るだけで本能的な恐怖を発作的に感じ、戦意を完全喪失する異形が、空の網目を突き破って来ていた。



 透宮のカードが手の中で消える————。——来る!



 建物の至近に着弾し衝撃でエレベーターを止めた一射目に次ぐ第二射。あの法外な質量波が発射される。

 同時に、イオンの装備全てが壊れた。

 絞首死体のグラフィティを描いたフードマント——〈エルデモールダー〉や、他の量子化状態で待機させていた武器、ラテックスの白いアンダーまでもが強制破壊。髪を結んでいた、装飾でしかないリボンまで壊され二つの房がふわりと解ける。

 代わりを探して、条件反射でコンソールをタッチしかけた手が意志に反して急激に、両方とも背中へ強く引っ張られた。灼けつく熱い金属の感触が手首に——熱された手錠は火傷しそうな程熱く、締めつけられた肌がひりひりと灼ける。

 裸で床を跳ね飛ばされたイオンが頽れたシャフトの中を重力のままに疾走する箱の、天井ではなく壁で背中を打ち、生理的嫌悪感に耐えかねて嘔吐すると、視神経を断ち切られたように今度は視界が全ロスト。

 他の身体感覚も消えた。

 能力やスキルではなくGM権限による拘束——? 四肢の自由と視界剥奪。歩行不能ペナルティが枷され床に突っ伏したまま動けず、倒壊する建物と共に落下していくエレベーターの中は肌を灼く熱気で湯気と異臭が密室に充満。


 赤い電衝。感電した壁と床に接する度、全身の肌が灼かれる。嘔吐くように嗚咽し、空中で呆然と大きく見開いた金色の目にはもう、この世界の何も映っていない。システムによる視野狭窄は状態異常ではなく回復は不可能。同種の制裁である両足の機能欠損も同じく——。

 コンソールを使うこともできないが——。使えても中のアイテムは全没収だろう——でも。

 それだけは決して破壊されない。

 アイテムではないからだ。そもそも存在すらしていない、この世界には。目には見えないが近くにあることもわかっている——〈ブラックラースインクリーター〉。ブースターモードを再起動すると、視界はベッドルームに切り替わっていた。全身も自由になる。



「は——⁉︎‼︎」

「あ。あー? まだプレイしてくれてたんだ☆ ——考え事がしたくて。ここなら誰もいないと思ったんだけど、ちょうどいいや。ボク……女の子は、おっぱいが小さい方が良いかな? って思ってたんだけど。大き過ぎるのも何かの特典にできるかなって……サンプル見て?」

「ない! ないないない‼︎ ちょうど良い時じゃないから‼︎ 何その格好⁉︎ ——〈VRイオンシミュレーター〉じゃないの⁉︎‼︎」



 ビジュアルを変更する。

 そこにいたプレイヤーの容姿を、混乱がないよう鏡の前に引っ張っていって、現実と同じように……。


「……じゃなくて、そんな場合じゃないよ⁉︎」

「でしょお⁉︎ ——……何が?」


 ——。



「……いいや」

「何が⁉︎」



 イオンは、理解しているつもりだった。

 だから、自分だったのだと。

 蜃気楼の偽物、透宮から最後に奪った——プレイヤー情報を隠蔽する仮面。それこそは、かつての自分。VRの都市伝説を象徴する代物。


 だから……なのだ。

 そこまではいい。



 装備して戻ると——赤電の質量波を斬り払って相殺し飛翔。



 遥かな地上。エレベーターの建物の残骸、黒煙の中に浮かび上がるように、その災厄を巻き起こしたものが見えている。

 仮面越した視線の先には怪物がいた。

 目で見る限り——それの形状は遥か上空へと達する光線の渦に過ぎない。幾筋もの光が地上から触手のように延伸、巨大な一つの螺旋となって天上へと達す。千か万かの光を編んだ、新たなるホライズンライン。

 一見、情景としか見えないが。渦の一面と触手の各先端に異形の顔がついていた。願われて生まれた仮想を現実にする神。この世界を、唯一の本物とするために押し広げ、集合無意識にまで至った絶対者。ここは彼の世界であり、彼の通ってきた道程。この世界の全権を持つ存在が彼だ。


「——。——。————」


 攻撃力・∞の質量波によって周辺一帯は壊滅。

 目に映る光景は凄まじい惨状へとなっていた。

 残骸となった雑多なフィールドオブジェクトが赤く帯電している。

 しかし、蜃気楼は無傷。


「————」


 で、語る言葉などない。このキャラクターには人格がない。

 無貌の仮面に付随する装束に覆われた片腕を水平に掲げると、何の特殊能力もない重いだけの両刃剣が現れた。銘は、祝福されぬ栄光——〈ジ・アンサング・ホーリー〉。

 横払いに一振りして一度背に構える。

 ここはVRゲームの世界ではない。

 仮想が現実になってほしいという、願いが形になった世界。

 願いが形になる世界——故に。


 システム権限がゲームと同じように機能し、武器やアイテムがゲームと同じ効果を発揮できるのも、そう在ってほしいと願われているから。

 ・攻撃を受けたらダメージを食らう。

 ・ダメージがHPを超えたら退場。

 そういったルールも、具現化した人々の共通認識。

 この世界の全権を持つ、あの敵は——ここに生まれた万物を自在に利用することができる反面、否定することは決してできない。



 そう在ってほしいという願いを否定してしまうことは、それで生まれた自分自身を消すこと。だから、この世界では、



 たとえ神だろうと——


 対人無敗の伝説を持ち、その伝説が事実であり(敗北した偽物はいるが、オリジナルであるイオンのゲームプレイはアカウントに〈記録〉されている)、そう在ってほしいと思われているために——蜃気楼は傷つけられない。



 ——空間が捻れた。



 イオンが佇んでいた空中の一帯が歪んだかと思うと、爆雷と死煙が噴出しその姿を飲み込む。質量波から属性を変更した攻撃。しかし——渦にHPゲージが現れた。

 そして戦いは既に終わった。


「——。——。——」


 爆雷の後の凍結波を斬撃で払った次——膨大な揚力が発せられ、破壊されることのないはずの大地、フィールドそのものが粉々に砕け散りながら浮いた。

 バトルログが高速でスクロールする。

 虚空を落下しながら瓦礫を次々に蹴り——〈ジ・アンサング・ホーリー〉を振るう。剣の軌跡が発火し、命中。僅かばかり敵のHPゲージが減少。剣閃が光の斬波となって飛んだ。


「————」


 光渦の周囲を砕けた地面の破片が回り、続いて轟音が響く。先程膨大な揚力によって持ち上げられた地盤が敵の周囲を旋回しだした。

 浮遊から一転、斥力と遠心力で弾かれた瓦礫が殺到。

 蜃気楼は、仁王立ちのままその一波を斬り返し、次に再び飛来した地盤を爆断。さらに、それまで膨大な質量を持ち上げ、投げ飛ばして来た揚力と斥力そのものが、次はそのまま壁となって圧しつけられてきた。


「——」



 Notorious one of The No face.

 真に強大なる一にして我は何者でもない。


 有象無象よ。誰でもない者にすら劣る君たちよ。狩られて格を思い知れ。



 ——〈鋼刃無限の流星群〉。


「じゃ、そういうことで……考えることがあるから、用があるなら後でね?」


 アバターをスイッチ。絞首死体が宙に踊ると、爆核を生成。

 流星群を直撃しても敵は生きていた。

 極大なHPバーをゼロにすることができなかった。しかし極大は無限ではなく(絶対に倒せないエネミーなど望まれないから)、この世界は——〈アビス〉という名になった今も——〈ブラックラウンド〉の一部として認知され、そのルールが世界全体に適応されている。

 イオリアフレインがワンアクションできる間があればよかった。相手が神でも流星群は、それ位の反動なら与えられる。そして——。


 相手が神でも——。

 無尽蔵な耐久性と再生力があっても世界全体に現実の物理法則が適応されているなら。



 ——〈純粋水爆〉の威力に、理論上の限界はない。



 爆轟。フードを被ると、べたつく赤い精液のような雨がしんと降り止んだ。

 同時に硬直した。

 その時。イオンは気がついたのだった、さっき引っかかったことに。


【続く】



 おまけ(このおまけは例によって一年前のものです。本作は本章の執筆中に設定を大幅に変えたため、本章は長らく本文がなく、このおまけだけが放置されておりました。消すべきとは重々存じますが、一年前の俺がとても楽しそうなので公開しております):作者の日記、七夕編

 七月七日は出る(出ろ)。なので、俺達はスロット屋に向かった——ノリ打ちということになったのだが……?


マイジャグなら取れた俺ら「デビルメイクライしか(打ちたいのが)、なかった」

新台の犬夜叉に座れた友人「やっぱノリ打ちじゃなくしようぜ……(は?)」


 〜10時間後〜


スモーキンセクシースロッター俺「おーぅ、おーぅ、おっおっおっおぉ〜♪」

バージルバトルで負けたとかいうありえんこと言ってきた友人「おーうwwwwおうwwwおwwwおwwwおおwwwwwww(※デビルメイクライで当たってる時の曲)」

友人「——」


——瀕死のチワワを見るようだった

——あれ、アイフルだよ

——スロットの形になったダイソン



 出玉持ってておお勝ってるんだと思ったら、めっちゃ吸ってて負けてたらしい。そして、日曜(※10日。これ書いてる時点で昨日——)



俺「オエー!!! ゲェーーーーー!!! ゲロゲロゲロッゲロ!!!!」

友人「な?」


 ATを二度駆け抜けると、人は死ぬ。久しぶりに思い出した感覚だったね

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