忘れられし王の帰還


 ——ゲームを終了し、現実へ戻るとイオンはステージへ続くランウェイの裏で自分の番号を探した。

 周囲は急造のバックヤード、ずらりと並んだ化粧台の間を忙しなく人が行き交っていた。迷路の先の会場で鳴り響く爆音EDMと観客の反応が境界を超えて、足元の塵埃を地面から離れさせていく。

 使う鏡の番号はさっきの通知で届いていたので、自分の台の前に座ると担当者が来て——着替えのためのもこっとしたタオルが準備された。


 水着を、脱ぐ。


 本日の衣装はミニスカートに、白いスパンコールを編みあげたレースストラップのローライズ。

 雪色の光、溶けてしまいそうな色彩。

 精緻な加工が施された紐と紐の間、肌を覆う布は透明に近いほど薄く、新雪のような白色のストラップが生肌を映えさせ、直に見せるデザインのパンツ。

 それを見させないためのAR——Augment Realityの謎の光と湯気。

 ——最先端技術の無駄遣い。

 ——偉い人同士が真顔で相談して決めた。


「……それ、DLCスキン?」


 隣の鏡台から、あきれた感じで声をかけられた。

 すぐにイオンは、衣装案を出してから実物が決定するまでのまとめをポップアップさせた——『ランダムに動く対象を、人間の視線からトラッキングする技術』のそれは詳細な改良記録でもある。

 その正確さは、近接火器照準系統にも流用が可能。



「本当はVRと同じが良かったんだけど、イオリアフレインのグラフィティは、絶対ダメって言われたからね。『絶対? じゃあ絶対を超えて見せましょうか? すっぽんぽんで全裸ダンスキメますけど、いいんですか⁇』って言ったら、これになった☆」

「そりゃそうよ。意味知ってたら、あれはなしでしょ」

「恋花ちゃんはどんなの? ——」


 隣の鏡台を覗き込みながら仮想端末を全てスリープモードにすると、断続的で微かな頭痛を感じた。

 自分のしていない思考が大量に入り込んでくる感覚は、短時間なら頭痛だけだが、長時間に及ぶと様々な影響が出る。

 鏡に、プイッとそっけなく揺れる黒髪——綺麗に梳かした細い束が映り込んだ途端。

 全く別の光景がイオンの視界をジャックしていた。


「——」


 目前に、フードを被った少年の姿が見えた。その顔は半分隠れていたが、フードの影で光る瞳は左右紅蒼のオッドアイ。

 初めて出会った時の光景だった。イオンに限った現象ではなく、それは起こる。

 仮想現実へのダイブ端末は、(信号をフィードバックする脳の構造が個人毎にやや異なるために)初回起動時、一時間ほどかけてパーソナライズが行われる。


 端末の機能は個人の脳神経系に依存するために、それに最適化されるわけだが一方、常用していたダイブ端末が急に失われた場合、脳内情報の追体験が起こることがある。


 脳は端末に接続し、端末はさらに仮想ネットワークと接続しているから、つながりによって拡大されていた脳神経が一部欠損した状態になることで、端末が脳神経系に構築した——〈仮想の五感〉が誤作動するのだ。



『それなら、実は男ってことにしようぜ——?』



 それが、始まりの火。現代の大火となった追憶、原初の火種。

 記憶の中の遊生が言った————。


「——メンヘラならかわいいけどな、『他に症例のない精神分裂障害、現在治療中』は度を超えてヤバいだろ?

 だから、な。

 それでもアイドルとしてやっていくために、属性を盛りに盛って中和しよう。タランチュラでも鍋に入れたら闇鍋になる——手始めに、見た目は普通に女の子だし? 実際本当に女の子だけど? 公式の性別は男の子だから、R18コンテンツで遊んでも『はい?? 別に』っていう、他を寄せ付けない無敵の状態になろう。


 よし、これからは一人称『ボク』な! この場合。その『ボク』は——『何かを勘違いしたちょっと痛い女の子のボク』になるが、でも、天才的なドローンアーキテクトであり、一時間で十二時間位練習できるから歌もダンスもお上手でかわいい。そういう方向性でいこう」

「——⁉︎」



 ————。

 ——。



 ——その誤動作は、記憶の中にダイブしたような感覚だった。

 あの時まで、機械いじったことなかったんだよね? と思いながら視界を現実にスライドし、見ると黒髪のツインテに不機嫌そうな雰囲気をして、つつましやかな感じの美少女が警戒したように上目遣いした。今まで読んでいたらしい恋愛小説本が鏡台に放り出される。

 エモーショナルなアイライナーにはっきり際立たせられたツリ目が、硬くイオンを見た。


「見るなヘンタイ! 視線でわかるの、胸を見ないで。比べないで⁉︎ あんたより絶対あるんだから——っていうか、前から聞きたかったのよ⁉︎ ねえ、何で『ボク』なの? その一人称、あんたの雰囲気と全然違うし、何か。おかげで初めて会った時、ッ!」


 仮想の五感に未来を先読みされたのか、とイオンはウェアラブル端末を着けていた自分のすらりとした太腿を見つめた。肌にベルトが食い込んだ、かすかな痕が残っている。

 こういう場合、体感の時系列と実際のそれとは逆転している場合が大半だ。

 先回りして——答えを思い出させたように感じても、聞かれたのが見たより前。

 それぞれの時間が相対的なものであるために、仮想の五感で感じる時間は、現実のそれと一致しない。

 

 

「えっ——⁉︎」



 だが、その時だった。照明の絞られた薄暗いバックヤード、隣り合わせの鏡台に二人で座っていた。

 なのに急に、一人きりになったイオンの目前に——銃弾を薬莢室に送る処刑前のような音と共にエレベーターのドアが重々しく開いた。


 なにごとだ?


 さっきの光景が戻っていた。

 エレベーターの箱の内側はあの異様で多量の文字に埋め尽くされ、イオンがそこで呆然と立っていると、その集合体は壁中で生物のように脈動した。

 脈打つ度に、周囲の壁面という生体組織から押し出されるようにして——赤潭色のインクが床に溜まる。

 得体の知れない文字列は今もあの時と同じように、淡々と繰り返し告げていた。自分の世界へ引き返せ、と。


「——また? SNSは嫌い……? 伝えたいことがあるなら、DMにしてよ。ちゃんと全部読んでるのに」


 水音。振り返った背後、赤譚の水溜りは渦回って鮮烈な色彩と化すと、収斂し天井の一点へと吸い込まれた。

 それならどうしてそこにいる? と云わんばかり。

 瞬きすると情景一転、天井からポツポツと滴る液が……宙吊りとなった絞首死体のグラフィティを描いた。


「!」


 そこまでが一瞬。隣の鏡台を覗き込んでいたつもりで、自分の姿勢が変わっていたイオンは立ったままよろめく。

 鏡台などなく四方にエレベーターの壁があった。壁中、蠢く文字群がぞわぞわと……空白の空間に恐怖しているかのように埋め尽くす最中、足元の滲出液を踏みつけ、閉まろうとするドアの隙間から冷たい廊下へ滑り込むようにして出ると、辺りは死んだような静けさだ——。


「それとも……凍結されちゃったの? 同じメッセージの連投は規約違反だもんね、納得」


 エレベーターのドアが完全に閉じきる間際。宙吊りになったグラフィティが揺れながら回って、それと目が合った気がした。

 前兆。僅かに、地面が一揺れした。

 その瞬間だった。



「……⁉︎」



 廊下全体が音を立て、周囲が真空になるのを感じた——床に激しい電衝が迸る。

 電位の斥力と引力によって廊下の調度や置き物が相次いで空中を飛び交うと、突き上げられるような手応えでイオンの両足が地面から離れた。

 背中を天井で打って息を詰まらすと、左右の壁に強く連続して身体を叩きつけられる。落下する間際。床で流れる電流に直で感電するのを想像し背筋がゾクリとした。だが、空中から落とされて感じたのは、点々とした滴の水音だった……。


 一秒、二秒、数えるように首辺りに水滴が当たってくる——。


 何とか顔をあげようとすると、天井から赤い滴が滴っているのがわかった。這って場所を退くと、粘度の高いその液体が異様な——こんもりと盛り上がった形の水溜まりを床につくる。


「ッ……? ——」


 何か小さなものが連続して、霞む視界の上の方で微妙に位置を変えながら光った。

 動転した視界の焦点が定まって見れば、鏡のように磨き上げられたエレベーターの両開きのドアに自分の姿が映っている——天井から垂れた液体が、脱げないエプロンのように粘りついた裸の自分自身の姿が。全裸だった。

 全身が硬直するのを感じた。上で光っていたのは、エレベーターの階数表示。最初に降りて扉が閉まり、上階に行っていた箱が少しずつまた近づいてくる。


 5——起点と支点の問題だった、それは。


 4——、


 3——点滅に合わせて水滴が、


 2——一滴ずつ垂れてきた細い水流が今度は、とてつもない早さで天井へ吸い込まれていく。こんもりとした水溜まりが消えると、エプロンが剥がれ、最後につながった首が引っ張られた。




 1——鏡に映る自分が真っ二つに割れ、




 自然膝立ちになり、ついに扉が開いた瞬間。裸足の爪先が地面を勢いよく離れた。絞首死体のグラフィティと鏡合わせのようになる自分と、洪水のように廊下が血に飲み込まれる古い映画の一場面が同時に脳裏に思い浮かぶ。

 実際に何が起きたのかはもう見えなかった……。

 そこで急に、視界がバックヤードの鏡台に戻った。細い束の黒髪が目前で弧を描いて揺れる。鏡に視線をフリックすると——目を丸くした自分が映った。それは、理論的に起こり得る現象、こんなことで驚きはしないが。


「————? なんで……」

「実験と確認のために」


 見るために、動かした瞳が鏡面で金色の光跡を描く。

 自分で自分が眩しかった。


「オーケー、上手くいった。残念ながらな? 何もかもが俺の障害になる方が、いい展開だ。もしも全てが仕組まれたゲームであるとしたら、全部が思い通りになるなんて、きっとイージーモードだろ? あんまり胸を張れないよな」

「なッ……なななに⁉ 何がっ——⁉︎‼︎」


 快活な印象の明るい茶髪に、左右紅蒼の輝く瞳。二台並んだ鏡台の後ろに、それまでいなかったはずの……よく喋り、息を切らした様子の少年がいた。

 別に気がついたことがあって——イオンは黙っていたが、隣の鏡台が反応し驚きの声。こんな……でも配信者で、有名人だから。

 今が厳密な現実であることを再確認する。

 鏡に反射するオレンジがかった金色の光。

 金細工師の作った太陽を思わせるイオンの瞳の独特な色は、仮想現実の世界では完全な再現ができない。鏡のように磨き上げられたドアが、さっきは眩しいとは感じなかった——。


「——?」

「——〜〜〜〜ッ、何でッ暁遊生がここにいるのよ⁉︎」



 まもなく時刻はオン・ステージの時間。臨海の特設会場、ライブスタジアムは海側から入日の残照で照らされてその日最後の輝きに染まっていた。但し仮想端末を通すと、沈んだ反対側から幻想の太陽と星々が連なって夜空に現れ、空を跨ぐ一歩を踏み出そうとしている。ランウェイからは凍結を蒸発に変えるかのような歓声と熱量が地伝いに伝播して来ていた。

 それはそれとして、イオンは隣り合う鏡台を電撃的に覗き込んだ。見れば、黒髪ツインテの貧乳美少女——イオンからすると違う事務所の同業者でVRではなく本物のアイドル——桐先恋花きりさきれんかが、突然現れた遊生の方を見て、慌てていた。



「まさか昨日、頑張るから……見に来てほしいってコメントしたの見てくれたっていうのッー⁉︎ でも本当に来てくれるなんてそんなっ。しかもしかも楽屋って。裏でこっそりだなんて。もしかしてあたしのこと好きなんじゃ……やだ! でもあたし本当は、ぁぁぅ——」

「あー」

「ぅ——っっ、……『あー』ってなに⁉︎」


 風圧が前髪をぱんと弾けさせた。恋花と直に目が合い、刺されるかもと思った。凄い気迫で身を乗り出された即席の鏡台が若干浮いて地面を揺らした程。

 凍ったような笑顔で背中には冷や汗をかき、自分の席へ後退りしながらイオンは言った。


「遊生さんの動画って、特定年代より下の女の子にだけすごい人気だよね……?」


 耳朶を擽る、ちょっと小馬鹿にした感じの囁き声——いつもの調子で、にっこりぱちぱり拍手しながら言うと、隣の鏡台から張り詰めた圧を感じた。


「少女漫画のレビュー配信とか、年少向けノベルのセリフ朗読とか顔出しでして。やる度胸がすごいよね! 何が良いって顔が良いだけなんだけど、見た目がちょっとだけかっこいいのを、こんなに上手に使った人のこと、遊生以外にボク見たことないよ」

「呼び捨てなの⁉」


 目の前でされた痛烈な煽りに対して、話題の当人である彼は『ああ、慣れてますので?』位の様子で何か言いかけた。

 だが——。

 先に、時間が来た。


「……」


 ◇


 ランウェイに出ると、会場が歓声で沸いた。

 現実の会場に七万人、さらに仮想では数えきれない程の人々が同時接続している今——一つになったその声は現代のスケールそのものだ。

 目前にした自分が羽一枚程の軽さに感じられる集合の巨大さ、途方もない質量感で全身を貫かれ、圧倒されながら、世界が今のようになったのはきっと、良いことなのだとイオンは思う。

 仮想の世界があったからこそ、イオンは人格を分割し、自分自身を自由にすることができた(おかけで高次元の知能も得られたが、それは別の話)。根底は皆同じなのだと思う。


 仮想を人が求めるのは、現実では——在りたいように在れないからだ。


 自分が思った通りのこと、やりたいことをする難しさは、誰しも変わらない。それぞれ理由が違ったとしても。

 けれど現代ではできるのだ。そこは自由な世界であり、仮想現実は現実になった。イオンが本当にやりたいこと——今の現実でやっていることは、やってはいけないことだったけれど、自由な自分に救われた人もいたのだから。


「! ——っと」


 今では現実も仮想になったのだとイオンは思う。

 だが——その時自分が全く違う場所にいたことに気がついた。

 七万人の観客に囲まれたステージは、高度な拡張現実に対応したAugment Reality Ground。ホログラフィックの巨大なエネミーが上空に描画されて現れる演出の後に、二段、三段と連続で放たれた熱線が地面へと命中。その熱量による爆発的な膨張によって隆起し噴出した土片が上空にまで跳ね上がって、粉砕された塵芥が——眩い粒子の光となる。

 粉々の光、降る会場全体が金色に煌めく。

 事が起こったのはその瞬間だった。


 舞い散る光と四方八方にある全原子が、突如共振を始めて壊れ出し——その中心に、猛烈な勢いの渦が生じた。螺旋回転する巨大なエネルギーフォトン。フロア全域が一挙にさながら上下反転した水面となり、水面にできた渦に光と原子の滓を吸い込んでいく。


「⁉ ——」


 たたらを踏んだ爪先が地面の感覚を捉えなかった。一瞬だった。視界が激しく撹拌されてぐらつき、そのまま現実の身体感覚が空中高く突き上げられる。

 重力が強烈な斥力になったかのようにして反転、足下にあった地面は千々に分かたれた面が順々に剥がれ、渦へ次々と吸い込まれていく。

 間もなく今度は体が下方へ引っ張られた。抵抗することのできない強烈な重圧に掴まれて気がつけば、今まで立っていた場所が跡形もなくなっている。

 そこにあった何もかもが既に消えていた。僅かな音さえも。粉々の煌めきが吸われていく暴走の中を、エネルギーフォトンとは真反対の何もない闇へ引き摺り込まれていく……イオンだけが。



「——は?」



 気がつくと、目前は異邦の大地だった。

 VRアバターの姿で暴風の中に放り出されたイオンは、空中を何秒間か自由落下した後、片手をついてなんとか三点着地する。

 全身を弾き飛ばすかのような風衝。

 粉々にぶつかってくる砂塵。

 砂の粒子の間につながりフラッシュする幾条もの電鎖。

 辺りにはビルや人工の——近代的な建造物らしき痕跡があるが、それら悉く倒壊し、無窮の荒野となっている。

 帯電した砂嵐が起こす屑のように微弱な雷環の他に周囲を照らす光はなく、立ち上がると、激しい放電嵐に全身がまた浮かされそうになる。



「……プールパーティー、行ったことある?」



 身を屈めて電塵をやり過ごす——。


「この世界、そっくりだね。キラキラして、賑やかで、ちょうどこんな感じだよ」


 新しい地面はさらさらした異様な質感がした。どうやら特殊な電位を帯びて、そこに堆積しているのは土よりもっと細かく超高密度な……焼けついた硝子の粒子であり、それが全身に轟々と吹きつけてくる。

 屑雷が発する光衝が至近で炸裂を繰り返す度、極彩色の火で目が眩んだ。そして聞こえてきたナレーションによって、イオンは何が起こったかを知った。



《————裏側のブラックラウンド・コロシアムへようこそ! 勇敢なる真の戦士として、あなたは選別を受けました》



 否、知ったと思った。

 しかし今は、それは起こるはずがないこと。周囲は轟々としているが声は明白に聞くことができる。



《——警告。本ゲームは、特別モードが有効になっています。警告。本ゲームは、特別モードが有効になっています。固定マップでゲームが開始されています》



 身を屈めていたイオンが立ち上がると、赤潭色のシルエットが背で身を攀じるように揺れる。

 帯電した地上。

 空は猛々しく黒渦を捲く。

 周囲は、硝子の飛び交う軌跡しか見えないひたすらの電塵葬場。一メートル先すら見通せそうにない……当然、この場所は仮想世界だ。


「——」


 コンソールのリールに簡易マップが追加された。

 同時に、どこかから声が聞こえた。帯電した粒子嵐にかき消され、視界も阻まれ声の出所は判然としない。

 風衝、吹きつける轟風に直撃した建物の残骸が悲鳴を上げ、足元で絶え間ない硝子の波立ちが一際弾けると、それが耳障りに感じられた瞬間。無意識にあることをしようとして、頭の芯が揺らぐ。

 フードマントの裾がはためき、金属繊維の表面を電位が絶え間なく白く跳ねる。仮想がどれだけ現実に迫ろうと、『現実の生きた人間が、仮想世界を訪れる』ことは決してできない。


「誤動作……——?」


 実際、通常よりも鋭敏になった今のイオンの身体感覚と格好は、VRアバターのそれだった。だが、意識を現実に戻すことができなかった。

 ……仮想現実にいるはずなのに、現実に戻ることができない?

 そう、できなくて当たり前だ。今、それができるわけがない。

 仮想の五感をブレインネットワークへ構築するのも、それに意識を切り替えるのも、ダイブ端末の機能なのだから。

 今、端末は全部バックヤードに置いてある。ステージには持ってきていない&持っていないのだからできるはずがない。

 顔を上げて見れば、その世界のはるか上空に未だ健在であったエネルギー渦——今も絶えず世界を飲み込んでいる水面の渦が、鳴動し大気を震わせた。

 電磁を帯びた塵風が、地上からそこに辿りつくのを阻むように極彩色の電柱を渦巻かせている。


「——」


 断続的な頭痛は今も続いている。

 人格を分割させられないせいで、考えをまとめることができなかった……。


【続く】









 おま○け:作者の日記 〜ファン感編〜

 ファン感に行った。540でカバネリが捨てられていた。

 速攻で台を確保して実践を開始。来たと思った——この時点で、既に完璧な勝ちパターン。

 突出した見せ台がなくても、ベース設定は上がるファン感では、期待値稼働のペイアウトは見た目以上に大きい。

 ファン感とは、全てのファンが感謝されるわけではなく、感謝されなかったファンからむしり取るイベント——だが以外とハマり、ほぼ天井の900ゲームまで当たりを引っ張られる。エピボになってしまい、黒煙からの裏美馬が消える。獲得枚数は平均をやや上回るものの約600枚。

 1000円負け……46枚貸しが響き、微負け。しかし、この時点で全台が積んでいた鬼武者が空く。


 そこからが、地獄だった……。


 初手、ハイパーバッサリゾーン。しかしこれをスルー。

 その後15回引いたCZの内、通せたのはたったの一回のみ。1/15——??? 天井二周。勝てるわけねえだろ!!!!

 モードも良好、鬼武者は全台。設定は確実に入っているが、無理…………(吐瀉

 未練打ちに金ガロやったら2000円で10000体ホラー赤、翔撃でハズレ。『勝てると思った??』『当たると思った??』あらゆる台が意志を持って俺を弄んでくるようだった。そして俺は思い知った。

 俺もまた、感謝されないファンだったのだと。


 追記:助けてくれ!!!



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