制圧戦:裏側のブラックラウンド

 ◇


「聞こえる? 覗いてもいいよ。今から、体の石鹸流すからね……はいっ♪ シャワーの音ー、気持ちいい——」


 心地良い泡が体を滑り、撫でながら滴り落ちる。

 頭上。

 規則正しく、蛇口が八つ並んでいた。

 等間隔にある蛇口は、手をのばして指先がギリギリさわるかの高さ。ぐっと背伸びしてイオンが手をかけると、蛇口から零れた水流が石鹸をさっぱり洗い流す。

 バニラ、白桃、マンゴーと熟成したシガーの香り漂う、淡い金色の霧が、すらりとした体の肌に膜を張って煌めいた。

 ——――っ、と息を吸った次の瞬間。


 ガタッ、とシャワーの水音に混じって、金属を殴りつける音が天井からした。


 その余波で頬に泡が飛んだ。

 天井にあった換気扇の蓋が勢いよく落下し、地面に叩きつけられたファンが回転で小さな竜巻を起こす――溶けた泡の飛沫を散らす地響き。


「え⁉︎」


 ドンッ‼ と激しい音を立てて、天井から全裸の少女らしい姿が現れ、荒々しく床に着地していた。

 瞬間。

 シャワーを放り出して反射的に上体を逸らすと、イオンの頭上で足刀が空を切った。ツインテの黒髪が回転蹴りの動きに合わせ、躍動的に揺れる——キィーン、と髪を結ぶ鈴紐が鳴った。


「見つけたわよ——‼ 死ぃ、ねあああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! この馬鹿ーーーー‼」


 水と石鹸を含んだアイスシャンパーニュソレイユの髪が擦り、弾けてきらきらと舞う……。

 泡を含んだ湯気を、立ちこめる白い香気を逆十字に割ってかき消すと、天井から全裸で来た美少女らしき影は叫びながら、仰向けに倒れたイオンに覆いかぶさって掌底。湯溜まりが跳ね、小雨を降らした——。


「汚れ専門のおパンツアイドルの分際で今まで生き残っていられたことは褒めてさし上げるわッ、イオン。いつもあんたと絡むとこうなる! 今度という今度は決して断じて、絶対にッ! 何があっても許さないんだからあ‼」

「いや天井‼ 換気扇‼」

「見なさい。あたしが破壊してやったわ。次はあんたがああなる番よ」

「そうじゃないよ! ルールなのにどうして、何で、こっちに入って来れるの⁉」



「もう逃がさない。これであたしからは逃げられない——だってだってだって! あたしの方は男湯って書いてあってシャワーっ、普通にぃ、みんながたくさん使ってて裸ッ、あたしのぉ。あ、あ、アイドルの裸をっ!」



 解除——〈拠点作成 LV9〉、今まで発動し続けていたそれはフィールドにセーフハウスを設営するスキルだが、LV9ではシャワーと配下のNPC付き。

 拠点が消えると、正しく世界が姿を現す。

 巨大な放電渦に誘われるままに、残光のように飛ぶ硝子の塵。この仮想の地平に幾重にも堆積した終の歴史を思わせる、命あった何かの残滓が舞っているだけの荒れ果てた砂漠。


「理由じゃなくて……どうやったの」

「どうって⁉︎ ——」


 会場から転移した直後の場所、硝子の堆積した都市荒野。大地から吹き上げられて舞う、電磁を帯びた結晶片は光を消してしまいそうな禍々しい黒色に焦げ付いている。

 ザーッ、とホワイトノイズめいた音で硝子が全身に吹きつけて来た。

 橙色のエフェクトで障壁を展開すると、昔同じ事務所だった友達——桐先恋花は仰向けになったイオンに馬乗りのまま、偏向シールドに当たる衝撃音に振り返った。


「——おおっと! 待ってたぜ。拠点を閉じたってことは、ご休憩は終わりだよな? さあ行こう、俺のゲームがここから始まる。しかし、まあ」


 そしてそこにいるのは、生きているかのように揺らめく宇宙……竜骨座の中心辺りから見た銀河系の星々を柄にした長衣の姿——コンバート元の世界は〈アンシェントソウル・オンライン〉。

 大雑把に言えば、『あらゆるゲームからコンバートしたアバターで最強を目指す』という趣向である——〈ブラックラウンド〉の側からすると、多くの魔法を持ち込めるのが特徴となるVRMMOのアバター。


「ああ、こんなに上手くいくなんてな! 絶対失敗するって思ったし、見破られる準備として二段階と三段階目の作戦もあった。意外と早く落ちたなァ? あんたには脱出されるはずだったのに、どうしたんだよ——イオリアフレイン」

「——噓っ……」

「偽物じゃないよな? 俺は気にしない派だけど、今回ばかりは見た目だけ一緒なんじゃ困る。あー、いやいや。マジで想定外。まさかこのご時世に、ダイブ端末を持ってないなんて思わなかった」


 一瞥された恋花がビクッとして、食ってかかった。全裸で。


「もも持ってないわけじゃないわよ! ママが厳しくて。頼んでも買ってくれなかったんだけど。お兄ちゃんがくれたの。でも、今日のステージが終わるまでママに取り上げられてて」

「じゃ、バックヤードにもなかった?」

「前後から話しかけないでくれる⁉ 何よ、あんたたちその格好! 背中に何描いてるのイオン⁉ それ、セーフフィルタで図柄にモザイク入っちゃってるんだからぁ!」


 絞首死体のフードマントをイオンは再召喚、柄を除けば感覚を増幅する効果を持つ一般的な装備品——〈エルデモールダー〉という名称のそれを羽織り直した。

 横目に、斬ッ。


「⁉︎」


 否。斬ったつもりが瞬間、対象が跳反。

 敵は金属質の立方体型をした下位エネミー、〈キューブ〉。

 その特徴は座標転移による高速移動、剣の如く神速で空間を薙ぐインサイナードブリンクレーザー、及び自己複製能力。

 射線で刀身を翻し、スクリーンをつくってレーザーを返すと、遥か放電渦の中にいた無数の影が連鎖爆発を起こした。


「うわ……噓っ。すごい。イオン、あんたって……変態よ。それもとんでもなく桁違いの変態で、生まれてこのかた、エロとえっちしか考えてなかったんだと思う。あんた以上の変態には会ったことないってはっきり言いきれる。けど、きっと、あんた以上にVRで強い奴はいない」


 ごうっ、と電渦が唸った…。


「教えて、イオン——」

「その流れで⁉」

「——ねえどういうこと⁉ 帰して! いい加減にしないとあんたの髪の先のゆるゆる、アイロンで全部まっすぐにしてやるんだからあ‼」

「このゆるゆるはボクがアイロンでつくってるんだよ‼ 一日二度もつかってたらキューティクルが!」

「何でVR世界にいるのよ、あたしたち! 何で。何で……現実に戻れないの⁉」


 首吊りのグラフィティが金属の光沢で凶光りした。吊られた死体が暴風に揺られる。


「では、VRゲームをやったことのない君に俺が説明してあげよう。端末を取り上げられただけじゃなくて、ママにデータも消されてるぞ?

 本当なら——俺が君たちをこの世界に来させた時点で、仮想ネットワーク上に保存されたデータが読み込まれ、自動的にアバターがコンバートされたはずだ」


 は?


「ちょっ、ちょっと待って! 理解が追いつかない……けど現実ではライブ会場にいたのよ⁉ ステージで、ダイブ端末を持ってなかったの!

 そうでしょ、イオン⁉︎ ステージの上にあんたが出てってあたしは次だから待ってて、次の次の人もいてッ。それで、ここ——仮想世界に来たとしても、その現実は変わらないでしょ! 今どうなってるの⁉」


 そう、今。それこそが究極に重要だ。

 実際、それが最大の疑問だ。

 仮想世界の体感時間は、現実の厳密な時間と同期していない。

 しかし、それは世界が閉じている場合だ。

 仮想の五感で多くのことを一瞬で感じられるとしても、多くの人に開けた世界では別の問題が生じる。


「——って、来させた⁉︎」


 端的に言えば、『仮想の五感で感じる時間は現実とほとんど無関係だが、仮想世界(今いるこの世界も含む)での経過時間は現実と大体同じになる』。

 衆人環視の中にあるUWEの会場では今既に、状況が動き出しているはずだが——彼は平然としていた。


「あっ、そうだ。名前ね。俺は——〈アーサー〉。リアルでは暁遊生っていいます。今は動画配信者だけど、将来の夢はえっちな女児服デザイナーだ。

 そして、この世界は——〈裏VR世界〉。招待を送るから、まずはパーティーにインしてくれ」


 恋花が体を隠しながらちょっと首を傾げる素振りをした。

 腑に落ちないのはイオンも同じだが、同じことを疑問に思っているわけではなく、この世界から出られないということは——現実では、ステージの真ん中で倒れている。


「……〈裏側のブラックラウンド〉じゃない——? ここの名前って。確か、そう言ってたような」

「俺たちはそう呼んでなかった。ま、俺たちって言っても、もう俺一人だけどな? ここは平面の真っ平らなワールドでも、惑星みたいな球形でもない。何層にも分かれた内部の一層ごとに倒さなきゃいけない敵がいて、で、今はここ。ほら、見ろよ見ろよ――あと一層! たった一層で最上階だ‼」


 今、向こうはどうなっているんだ? 彼の様子からは、不測の事態など絶対に起こらないという確信が感じられたが、招待を受諾すると互いの情報が共有化。

 簡易マップは未踏破領域が埋まっていき、全体像が可視化されると、メビウスリングのような3Dモデルが現れる。

 その余りの規模は、思わず息を飲む程だった。この世界は——広大だった。

 惑星のような球形。

 真っ平らな面。

 どちらでもない理由は——多分、場が質量に耐えられなくなるからだ。球形では重力が生じ、平面では地盤の厚さが足りない。


「……何故、ダイブ端末なしで仮想世界に入れるのか。この世界をつくったのは誰で何が目的なのか。それは俺たちも知らない。俺がこの世界を〈裏側のブラックラウンド〉と呼ばないのは暗に犯人を特定しないためだよ」

「!」

「この世界が——〈ブラックラウンド〉のルールで動いているのは間違いないけどね? というわけで俺が答えられるのは、どうして君たちにここへ来て貰ったか、だ。実は……折り入ってお願いがある」


 今最もアツいVRゲームが——〈ブラックラウンド〉だ。

 プレイヤーは好きなゲームからアバターを持ち込んでプレイできる。果てしない世界の謎を解くもよし。コロシアムで最強を目指すもよし。

 このゲームには境界がない。

 仮想に自分を投影しても、仮想が現実になっても、そこでの人間には——与えられた世界という限界があった。世界中にプレイヤーがいるが、どんなゲームからでもアバターをコンバートできるというのがポイントなのだ。


 繰り返される戦いによって、世界は多層構造の円卓になった。

 次の卓へ進む扉は全ての世界で開かれている。


 仮想の自分に入り込んだまま、地続きで来られる別世界。

 仮想世界——ブラックラウンドは、そのコンセプトと、無断でデータを流用するかのような仕様上、運営会社など一切公表されていない。

 実質的には、フリーダウンロードの無法地帯と化している。


 そして……イオンは、そこでの『最凶』。

 多くのゲームで、本来とは別にブラックラウンドにおける性能が研究される昨今にあっても、ここで自分が負けるという想像がイオン自身できない。


 だから——?


 この世のどんなことであれ、意図的に成されたことは理由があり、一握りの例外を除けば状況がそのまま理由になる。

 真実とは見るか、目を背けるかだ。

 遊生がマップをスクロールした。だが次に言った一言は、噓なんじゃないかとイオンは思った。


「この世界に、何があるかはわからない。マップを見て分かる通り、あと一層で最終層。けれど俺たちは——一層からここまで攻略を進めてきたんだが、俺を残して全滅してしまった」

「全滅……?」

「一層からって長過ぎじゃ」

「最後の敵を倒せなくて。正確に言うと、今俺たちがいるのは第九九層のボスフロアだ。ここまでの階層はいわゆるダンジョンマップ……と言っていいのかわからない代物ばかりだったが、各層の奥にボス専用のフロアがあった。けど次の百層は、入った瞬間に戦闘が始まる」

「だからどうしたっていうのよ⁉︎」

「つまり君たちには不甲斐ない俺に代わって第百層の敵を倒してほしい。お願いだ! あと一層なんだよ、ここまでの話を聞いたら君たちだって先が気になるだろう? この世界を攻略したいっ」

「はい嘘! 嘘だわっ、そのために——わざわざあんなタイミングで、あたしたちを連れてきたっていうの⁉ 信じらんない、何かおかしいわよ!」


 仮想の人格が強く出た遊生は、普段と雰囲気や喋り方が違った(現代の人は皆、仮想世界に別の自分を持っている)。気になるのは、自分達が全滅したという彼の話は……いつから、どれだけかかった出来事なんだ?

 一層から九九層まで攻略したというなら、この世界の全土を彼らは踏破したことになり、ざっと概算して地球四周半の距離。

 俺たちという複数形の自称をするわりに彼は一人で、全滅した他のメンバーは果たして攻略を放棄したのか。

 イオン自身が置かれた今の状況。

 それは突然与えられたが、彼が費やした時間は一繋がりなはずなのだった。遡った発端と今をつなげる欠片は、この世界には何がある……?


「簡単だ。できるだろう? 俺たちにはできなかった。けど、俺たちとは格が違うッ。だって、あんたは、仮想最凶のイオリアフレイン——だろ?」


 キィィーン……と、凛々しい音のする鈴が空しく鳴り響いた。

 二人の視線が向けられるとイオンはその瞬間、ローブのフードを抑える彼が微笑したような気がした。相変わらず飛び交う硝子片が激しく、本当にそれは自然現象なのか? 偏向シールドにぶつかってライトパーティクルを波及させる。

 硝子を吹き付けさせる放電嵐が周囲では勢いを増していた。待て。


「ツインテ——?」

「見ないでッ」


 目前に長細い道、倒壊した人工物。硝子の堆積に埋もれた道の袂と思われるオベリスク・オブジェクトがある。

 遠くには霧がスクリーン状に出ていて、そこを超えれば階層がシフトするようだ。〈裏側のブラックラウンド〉の最終——第百層の景色が現れるのだろう。


 間違いなく、疑問に思う要素もない程にここは仮想世界だ。

 この世界に来た時点で、仮想ネットワーク上のデータがロードされる。だからイオンはイオリアフレインになっていて、ロードできるデータのない恋花は何の装備品も持っていない。


 けれど、髪の——嘘だ。彼女はこの世界に、現実の持ち物を持ち込んでいる。


「眩しいな、陰キャをそんな目で見るなよ。こう考えてくれ。もしも、君たちがその気になれば俺を倒すことなんて簡単だ……けど、そのことは俺もわかっている。そうだろう? 騙す気なんてない! やっても勝てないんだから。念押しするけど純粋に、真剣に、心の底から俺は——君たちがあいつを倒してくれることを願ってるよ」

「願う?」

「いいね、表情でわかる。調子が出て来た。決まりきった結果を願うなんておかしいもんな」


 イオンは道の先のスクリーンを見た。捉えられない——この世界は一見、普通の仮想世界ではない(脱出不能だし様子が変、スケールも異様に大き過ぎる)。けれど、そこから先の判断をするにはわざと散りばめられたかのような情報が多すぎる。手がかりというか、感じたことはいくつかあったが、それら全てが意図的に用意されたように感じられた。だから確かに、第百層の中を見てみたいという好奇心は少しあった。

 結局次が最終層。

 だとすれば、そこに何があるのかだが。『現実はゲーム、ゲームの方が現実』。


 まさか、そういうことなのか。

 そこまでする程なのか?


「ああ、そうそう……その通り! 今考えてることは正解だ。ゲームをクリアできるなら俺は手段を選ばない。台無しとまではいかないが途中でログアウトされちゃ困るからな。時間をかけて待ってたよ。だって、あんた」


 ——〈VRの魔法少女〉と異名で呼ばれるイオンが、ダイブ端末を一つも身に着けていない瞬間などない。

 アイドルではなくVRアイドル。

 普段はライブもイベントもVR出演で、世間では実在しないことになっている。

 それが今回のUWEは史上唯一、初めて、現実のステージに立つことになっていた。オーグメント・リアリティ仕様のステージは仮想端末を持ち込む理由がなかった。


 ログアウトできない仮想世界に?


 仮にデスゲームへログインさせても、イオンなら別端末へスイッチできる。最凶であると同時に——普段なら常に並行している別の自分、別のダイブ端末へ、いつでも脱出してしまう(というか、全く別人のイオンが何人もいて、一人捕まえた所で意味がないのだ)。

 唯一逃げられない瞬間が、あの時だった。

 それは俄には信じられないが現実であり、今まで彼がその瞬間を狙い続けていたなら、それだけ時間を賭ける価値があるモノが、この先にあるなら——見てみたい。彼にとっての現実を。


「ちょ、何が⁉ 何で二人で通じ合ってるの⁉ ねえ、はめられてるのあたし⁉ 人狼二匹! そことそこがラインであたしはなに……? 勝ちです。あたしの勝ち‼ 見つけましたっ————————待って」

「え?」


 黒いツインテがぴこっと一跳ねし、急に恋花がキツい目つきになると、予想外な感じで彼女の方を見た遊生に背を向け、肩越しに指差して言う。


「気づいたわ。ねえ、弁償させようイオン。あたしらのライブ、このせいで完ッ全にブチ壊しなんだから。今後、どういう扱いになるか想像もできないわ。損害賠償を請求する権利がある——そう思わない?」

「あ」


 確かに、と思った。


「たくさんの人が迷惑を被ったけど——と・く・べ・つにッ。あたしたち二人にご奉仕したら許してあげるわ。ターン制ね? あたし、フェンディのバッグ欲し〜いなぁ」

「夜のビーチにケータリングでスイーツブッフェの食べ放題した〜い」

「ハイドロフォイルボードで三日間レーシングプールパーティーの後、ホテルのスイートルームでゆ〜ったり」

「あ、ロジェデュブイのエクスカリバー欲しい!」

「金の延べ棒」

「ボク、よく知らないんだけど。学校の成績って出席日数が大事? みたいで……あんまり行ってないから、ボクの代わりに小学校に通って欲しいんだけどいいよね。ランドセルあげるよ、好きでしょ」


 地獄——。


「何が⁉ 何だよ——ッ、いや無理だが⁉ いやいやいやターン制って、おい一生続いてませんかね⁉ ターンが俺に回ってくることないが⁉‼︎」


「止めないの? 先行ってるね」

「一生続くわよ。もう無理ですぅ〜、って土下座して足ペロしながらごめんなさいしたらそこまでで終わり。じゃ」


 道を歩き、スクリーンに体ごと突っ込む。

 すると信じられない光景があった。

 揺籃するような揺れを感じて屈むと、手をついた地面は——橋だった。鋼鉄のワイヤーで吊られた海上道路橋。

 舗装された幅広の道路に立っている。

 先程までいた硝子の砂漠は面影もないどころか、周囲に現れたその光景をイオンは見たことがあった。



【続く】








 いつもの:

 その日、俺は苦しんでいた。

 熱い、熱い月一の日。

 が、抽選が終わっており、取れた台はレールガン……天井が遠く、打ちながらの判別が効かない。設定狙いには不向きの機種。

 一発目のチャンスで解除、何とかアイテム引っ張って来る、薄い引き戻しを通すなど手を尽くすも、1000円負け。

 ファッ◯ク46枚貸し—―しかし、レールガンからレールガンに移動(隣が500で捨てた)という荒技で取ったATの後。打てる台を探していると……カバネリが空いた⁉︎

 AT全然やれていない台。

 しかし、城連がなく早め解除する挙動、前半のゾーンも良好。


 いける、と思った。

 思っていた。


 AT内訳—―単発、駆け抜け、三連、駆け抜け、二連、駆け抜け、三連

 おい、カバ男⁉︎



 追記:さらに今日、沖の2000ゲーム天井1400から狙ったらスカッた。普段は勝ってるんだよ⁉︎

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