言葉であるからには意味がある。伝える意志も。

【突熱】本編前にあるおまけ:作者の最近の仕事編【戒め、そして反省として残す】


 27日:カバネリ+1400枚、鬼武者+500枚

 28日:カバネリ+900枚、デビルメイクライ(!)+100枚

 29日:鉄拳デビルアルティメット(‼︎‼︎⁉︎⁉︎⁉︎)マイナス900枚、金牙狼マイナス5500発……


 連勝するとチョイスが適当になる。はっきりわかんだね。おデビル推し何なん?(他の誰より俺がわからん)。期待値稼働してたはずなのに最後牙狼……



 ☆


 幼い頃、イオンはいつも頭の中に響く、自分ではない自分達の声を止めたかった。しかし、一人にはなれなかった。自分を消すことはできなかった。代わりにできたのは、それを制御し能力として受け入れることだけ。そうすることで世界は変わった。



「——仮想現実が現実となった現代で人間は、仮想と現実のそれぞれに、別々の自己エゴを持っていると言われる」



 数日前のこと。その日、イオンは特殊な建物の中にいた。スマートグラスのカメラが映すのは照明の少ない部屋、暗い空気を物ともせず、妙に軽薄な感じのする白衣の医師が話を切り出す。

 取り調べが開始される前——配信用のカメラで撮影した特別捜査本部は、大きな液晶パネルを中心とした討論空間と、公衆トイレの個室っぽく並んだ一対一の対談スペースに分かれていた。経験上、ごく一般的な構成であるが今は普段と様子が違う。

 そこに……所轄の警官らに非現実を叩きつけるかのような、お祝いのフラワースタンドが届けられていた。


「もし現代における仮想現実の世界を別のもので喩えるなら、インターネット上のウェブサイトだ——それらは巨大なネットワークの中で、ラベルを張られた一区画の情報でしかないけれど、端末を通した情報は全身の感覚器官から脳に送られるシグナルに形を変えていく。

 知ってるかな? このとき人間の方にも、決まってある変化が起きる」


 医者の話の途中で、また新しい花が業者に搬入されてくるとイオンは百点満点の笑顔なのがわかる声で、スマートグラスによる生配信の視聴者に向けて言った。


「あ。見て見て——? 朝のニュースの番組名で、『ご出演おめでとうございます!』だって! 今、条件反射で一瞬嬉しかったんだけど、これは『逮捕されたから、明日朝のニュースに出ますよねぇ?』っていう意味だよね……? 思い通りになるかな」


 本日の放送は、やや特殊な所(※通称・スタジオ)からお届けする雑談枠——慣れたもの。


「その変化が何かと言うと、仮想現実の世界にいる間、ほとんどの人間の精神は普段と大幅に異なった構造になる」


 VRに自分自身を投影するとき、人は自分を見失う——医師は、そう言った。

 それは不可思議な、科学的には起こり得ないことであり、まるで何かがそうさせているようだというニュアンスだった。


「端末で意識をスイッチした瞬間から、精神的に別人になる。変な言い方だけど、生まれ変わるとも言えるかもしれない」

「何に?」

「現実ではなることを諦めたけど、本当ならそう在りたかった理想の自分自身かな。証明はできないけど、〈理想の通りの仮想の自分〉は現代では誰でも持っていて、僕の見解としては、この——心理学的にはシャドウとも呼ばれるアルターエゴになれるからこそ、最新型の体感ゲームは大ヒットして、現実世界の延長とされた」


 今、世界は変わった。現代の人々は仮想現実こそが真の現実であってほしいと日々感じていて、広く共有されたその価値観が現実を変えた。

 今や、それが——〈常識〉なのだ。仮想現実は現実になった。だから、自分を制御できるようになった時からイオンには、世界が余りに簡単過ぎた。


 全ての事象が呆れ果てるほど単調だった。

 もっとずっと複雑で、難解で、困難な挑戦がいる——。


 人々の通信端末間に量子データで張り巡らされた面と面、最後に行き着いた場所——〈ブラックラウンド・コロシアム〉はようやく見つけた満足できる挑戦の一つ。それはしかし、見つけた時にはイオンは既に自らを使い切ってしまっていた。



「ところで——撮ってる?」

「!」



「——切るんだ。配信を切ってくれ。個人情報保護の観点から、ここに監視カメラはない。けれどやりとりを記録して調書を提出する必要がある。動画が残るのはマズい。矛盾の証拠にならないように、ここは僕に任せてくれ……」


 医者が興奮して、続け様に言った。周囲には香ばしい香りが漂う。——。


「UWEのリハーサル日までには僕が必ず、君を無事に釈放してみせる。ファンなんだ——君が実在する人間で、ライブが現実で見られるなんて本当に夢のようだよ! けど」


 世界は変わった。このスタジオには、花だけではなく——デリバリーのピザも届くのだ。

 フレッシュチーズが糸を引き、オリーブとペパロニ、ケッパーの湯気が立つ贅沢な一切れを警察署で嗜む彼女を今、この現代で抑えつけることなど何者にもできない。



「けど、あの噂は本当に本当だったんだね。医師としての所感を調書に提出するために、僕は君の脳検査を行う必要があった。これほどまでに酷使され、劣化した細胞は見たことがない。二十人がかりで休むことなく使い続けてもこうはならないだろう。君の命は、あと一年保てば奇跡だろうね?」



 ——その卓越故の、“死”を除いては。



 ◇



 ——レストランのアトリウムの階段を降りる途中、気配を感じたイオンは見上げ気味に背後を振り返った。


「遊生——?」

「……ッ」


 振り向きながら入口に向かって一段、二段、南アジア風の水が流れて草の茂った黒檀の階段を下りる。その間仮想端末で、別の世界にも意識の焦点を向けた。——。

 わかっていても、そうすることを止められないのだ。


「どーしたの。まさか……恋、した? 抱く⁉ ボクのこと好きになったんでしょ! ねえ、抱く⁉ お別れしたくないって、一時も離れたくないって思った⁉ ライブ終わったら帰ってくるのに……もぅ♡」

「いや、ぶっ殺すぞ? もし、そうだとしたらあんたではなく俺自身を」


 新しい仮想空間では、柔らかい感触が全身を包み込んでいる。

 意識が移ると自分自身と目があった。

 ふわふわのベッドに全身を横たえられていて、超精巧に再現された——〈イオンと同じ姿をしたNPC〉が目前にいる。


『んーっ、ぅーっ♡ んぅっ……お待たせしました、ご主人さまっ。もう我慢できないよぉ。シャワーで綺麗にしてきたからぁ、イオンのこと今日もいっぱいかわいがって……?』


 呼吸は荒く、目がハートなNPCは桜色のバスローブを床に脱ぎ落とすと、全裸になって馬乗りしながら、薄い胸の周りの肌をくっと引っ張った。綺麗な白桃色した乳首を全部見えるようにした。

 直後——クレジットカード番号を入力する契約書風の課金画面が全画面表示される。


 そこで一時停止すると、仮想表現された自分自身のモデルに修正と盛りを加えていく。完全完璧な『無』と、『ちょっとある』のとどっちが良いか?

 このVRゲームは開発中の公式グッズ——『ボクとパパ活してくれますか……? 処女のつくったVRえっちシミュレーター♡♡♡』で、♡の数がナンバリングになっている。

 これに限らず例のドローンや、自身に関わるあらゆる物の制作をイオンは一人で行っている。


「好きじゃないです。俺にとって現実はゲーム! VRの方がリアルなんで、こちら側で生きてらっしゃる本体の方には興味ないですッ、と。あんたはいつでも仮想世界のあんたでいてくれ‼」

「やだーっ、もぅ♡ 盛ってある方が好きなんだ……?」


 ゲームこそが現実と語る彼との出会いは転機になった。

 自分にとっての真実は自分自身で決めればいい。仮想現実が現実になった現代では生きる世界すら自由なのだ。

 そう教えられた。

 イオンは歩くのを止めなかったが、友人は階段の上でじっと洞窟風のアトリウムとエレベーターホール——透明な自動ドア越しに見える前方の光景を見下ろしていた。


「どうしたの?」

「いや——」



 今、何か言いかけたような?



「——ああほら、俺も配信者だから! UWEの開幕直前放送しないと‼ ゲームが始まったんだから、じっとしてなんかいられない。あんたと俺じゃ生きてる世界が違うんだ」

「?」


 階段を下りたレストランの出口、南国真っ只中っぽい香りのする蒸気と漂う、水の飛沫一つ一つに眩い金色のまばたきが映った。

 何だろうと思う間もなく外の空気が吸い込まれる。

 イベントの開演時刻が迫り肌を刺すかのごとくピリピリと慌ただしくなってきたその空気がイオンには、彼に感じた違和感よりもずっと大きな異質さで感じられた。



「——?」



 レストランを出て、一人でエレベーターホールまで行くと、箱のドアで空気の連続性を断ち切り、①——。

 叩いたボタンの枠と数字が白く光るや地面が下降を開始する。

 だが下階に着くまでの最中。

 ——エレベーターの中で、空気が張り詰めて質量が増す。ボタンの並んだパネルとドア、四方の壁の硝子面に突如として〈異様な文字〉が浮かび上がってきた。


 赤黒い色をした歪んだ字体。

 生体組織に大小の血管が盛り上がるようにして、現れた文字は壁から若干隆起している。


 次々と現れるその肉々しい文字は震え、増殖し群体となり、やがてメッセージのリピートになった。その間も、シャフトの中をエレベーターは降りていく。



「え————?」



 水音、多重に浮き出た文字が互いを押し合いながら壁の中隈無く増殖、スペースをなくして滲出。

 液体になって壁を滴り、床の端へ積もるように広がっていく。


「引き返せ……?」


 原文は、Go BACK Your Own World——硝子の壁の内側から浮かび上がった血肉紋様の文字群は、組成液を滲出させて現実の空間中へ幻出し続け、壁を伝った足元ですぐに水溜りになった。

 ぴちゃんッ、と水音がしてエレベーターの床に溜まった赤黒いインクをイオンの足先が擦る!


「⁉︎」


 地に足を着かなくさせた浮遊感の直後、断たれた鋼線の上げる甲高い金属音の悲鳴が、頭上から暴速で遠ざかっていった。

 そういうことかと瞬間的に納得する。感覚が切り替わっていて——フードマント姿のイオンは〈ヨイノユキハナver666〉を召喚、壁に真っ直ぐ打ち込んで貫徹。

 バスターソードの幅広なL字刀身を突き立てて杭にすると、すぐには止められなかったが応力で大気と硝子が吹き飛び、エレベーターを墜落させていた力は構造体が斬り裂かれていくにつれて減衰。

 ややあって窒息するような感覚と一緒に地面と正常な重力が戻った——背に描かれた絞首死体のシルエットが……その時正に、“台”を蹴ったように翻る。


「今のは——?」


 だが、思っていた現象ではなかった。巻き戻り。

 墜ちた分だけ時間を待って、再び正常に動き出すと、ドアを開いたエレベーターから出たイオンは、無味乾燥な現実の光景を振り返った——異世界が割り込んできたみたいだった。


「ブラックラウンドじゃないんだ——。じゃあ、何。できないことではないから、別にいいんだけどね」


 壊れかけた脳が見せた幻覚か、現実に起きた悪戯か?

 現代では仮想と現実の間はシームレスで、切れ目を体感することはできない。

 さらに思いがけない全く別の出来事がすぐに起こったせいで、考える暇もなかった。エレベーターから出たその直後、ログインしたままだった別のVR世界で急に気配を感じ、背後から話しかけられた。



「——あ、あの、ちょっといい?」

「⁉ ——」



 ネザーフィアを倒した地下駐車場——無差別破壊フィールドが長時間使われたせいで地盤と天井が崩落、床面までも抉られてできた地下洞に緊張した声が響く。

 ブラックラウンドはバトルロイヤル・ゲームだ。

 目前の敵を倒してもゲームは最後の一人になるまで、続く。

 現実の動作をなぞるようにしてまた振り返ると——イオンを呼んだ声は気持ちを振り絞ったかのような先細りの抑揚、後半はほとんど聞こえず、声の主が想定していた半分よりも短くなってしまったはず——出所がわからなかったが、見つけて目が合うとその質感が変わった。


「あ……感動」

「——?」


 誰かと思えば声の主は——瓦礫の岩陰でコンソールに表示されている名は、〈グリフスフィール〉……?

 イオンと同じフードを装備したわりに露出度の高い格好のアバター、敵のペアの片割れがじっと見つめていた。

 おずおずと進み出て来る。

 生きてたのか?


「かわいいっ……あの、わたし。アイドルの方のイオンちゃんのファンなんです。今日、実はリアルでも会場へライブの応援に来てて。絶対お話したくて、あっ!」


 これもお揃いなんです——とフードを両手で引っ張って、その中から一歩踏み出せない様子で、赤面した素顔をぎこちなく限界化しながらとても恥ずかしそうに、グリフスフィールは言った。

 その最後の瞬間まで、イオンは『こいつはハメる気だ!』と疑っていた。


「やられました。痛い……痛いです……。代わりに認知してください。あああの、いつもかっこいいですけど、こっちだとまた違うっていうか。陽と陰になってる感じがいいですよねっ。でも、人としての属性が絶対悪な所とか普段と同じであああ〜やっぱり同一人物なんだなって! あの、大好きですっ。皆の間で流行ったのは事務所移籍されてからだと思うんですけど、わたしは前からずっと応援してますから——」

「——……え?」


 至近距離から銃弾を打ち込んでグリフが消滅待機状態に入っても、まだ疑っていた。

 心の奥が温まる感じがした。それが現実となった現代で人間は、仮想の自分と現実の自分を持っている。イオンの場合求められるのは大抵仮想の方だった。


「してもいいんだって教えてくれたこと——本当にどうしても、直接ありがとうって伝えたくて! 普通は絶対にやれないこと。いけないって言われてることも。あなたが教えてくれたから……頑張ったら、どんなことでもできるんだって」


 けれど現実にしろ仮想にしろ、世界には無限の可能性がある。

 想像もできない出会いと奇跡で日々は満ちている——残り時間は僅かだけれど、今の自分に救われた人も、こうして確かにいたのだからきっと良いと思う。

 現実時間、午後七時。

 そのとき突然強烈な衝撃を感じた。


「救われたんです……わたし、あなたに」


 特設会場の七八メートルのランウェイ——仮想のフィールドと連動し、VRのコロシアムとなったステージでは観客席中で真っ白のスモークが大量に爆発し、金色の星屑を降らせていた。


【続く】




 追記:本作執筆の経緯

・1、リゼロのスロットが流行る(無抽選区間(※通常時のほぼ全部!!!)を回す間などの暇つぶしで書き始める)

・2、詰まる→全部書き直しのフルコン

・3、文章が下手過ぎたり思ったようにならなかったりで全体的に直すのを数ループ。俺がまともな神経なら投げてる

・new4、完結させたいという意地でエンディング直前まで行く→エンディングの都合で設定変更のデスコン。イオンの余命は本来設定にはありませんでした(クソデカネタバレ)が、絶対にあった方がいいので追加となりました。最初にろくに考えてない。はっきりわかんだね


 ※最近、スロットの方は犬・ファッキンミニチュアダックスチワワ・夜叉とか打ってます。アクエリと機械割を逆にしてくれ!!

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