※ボクっ娘のようです
◇
「有名所のVRMMOが昔、合同で開催した大型イベントがあってな——?」
投げ捨てた狐面がビシッと音を立てて亀裂する。その展開された蒼光の力場は、周囲一帯にスリップダメージを発するダメージフィールド——。
「プレイヤーは特別な仮想世界にログインし、多次元迷宮の攻略を目指す。が、クライマックスまで到達できたプレイヤーは全体の小数点%以下。その中でもイベントをクリアした奴はごく少数……」
どんなに耐久値が高くても。
鉄壁の絶対的な防御力があっても。
「あたしの装備したこの剣——〈イラストリアカノン〉は、完全クリア報酬でね? 抜剣しているだけで周囲のエネミーとオブジェクトを無差別破壊し続ける。しかもこいつの効果範囲内に、この地下空間は余裕で収められると来た」
領域は、一秒に一%の割合でライフ・サークルを削り——あらゆるものを都合、一〇〇秒間で震壊させる。
「さぁ……今のあたしは誰にも負けねえ‼︎」
——液状化現象を起こした地面がパワーウェーブの縦走に波打ち、内側から次々と弾けていくコンクリートの壁と支柱。爆音が平衡感覚を撹拌。ぐらつく視界。戦塵の土埃と空気中の微細な水分が沸騰して立ち込む白い蒸気が、地下駐車場の空間中を圧し潰すが如く体積を膨張させていく。
領域を形成する蒼光が突然止むと、粒子の剥がれるチリチリという擦過音が一瞬だけ途絶え、一筋の直線へと再び力場が収束。垣間見えた敵の姿——絞首死体の残像に向けて、光を束ねる一点照射。
その時信じられないことが起こった。
「——見てな? 勝つよ」
何を言ってるんだ? まるで意味のわからない敵の一声。
そして——「——消えた?」
ネザーフィアはスキルの後隙で生じる一瞬の硬直の後、その場から身を翻す。瞬転。
……荒ぶる空気の僅少な揺らぎを、機敏になったVRアバターの肌感で感じ、剣光一閃! 地下駐車場を模したステージを、蒼の剣光が轟かす。
どこだ? 蒼銀の剣風が真新しいアウディに爪痕を穿った。轟音で車体が壁際まで跳ね、オイルと燃料を噴き出す。
飛沫が動いた気がした所へ追撃の斬波を立て続けに放つと、気化した液体から炎が噴き上がり、爆衝で空気が焰と揺れた。
撹拌された空気中に甲高い靴音が反響する中、剣先はさらに消えた敵影を追い、連続で剣風をたたみかける。
連撃が二度空気を振動させ、自分で引き起こした爆発の熱核も両断しながら遥か奥まで支柱を薙ぎ斬っていき霧散。断ち切れていった電力ケーブルの雷音が不吉に鼓膜を震わせる。
「……ッ、いいのかよ。笑っちゃうぜ?」
そう。この間も、〈イラストリアカノン〉のフィールドは周囲を無差別破壊し続けている。毎秒一%の割合ダメージを与え続け、ライフを尽きさすのにかかる時間は一〇〇秒。
——だから、笑える。
既に五〇秒経過している。
「姿を見せろなんて言わねェ——!」
瞬間、ダメージフィールドの力場が乱れた……?
地面の舗装が剥げながら衝撃波と共に飛来、小石ほどの前触れで振り返ると、一拍遅れて刀気が地走り一直線に突進してくる。直撃寸前でバックステップし、コンクリートに剣先を突き立てた。
そのまま——蒼剣、〈咆哮〉。
環と球状に剣光が爆裂し、周囲の悉くを弾き飛ばす。
音を伝達する大気すら圧しきる斥力。時間が止まったかのような緊迫の中、自分周囲を一掃しながら、刀気の飛来した方をネザーフィアは見る。だが依然として敵が。
「見つけた——!」
喋った?
危急極まる証だ。相方、グリフスフィールは滅多なことで口を開かない。
「どこだ⁉」
「今はわかんない、さっきは向こ——上‼」
かなり遅れて、一秒二秒。
地下で支柱が何本も薙ぎ倒されたことで、上の構造体を支えられる限界に階全体が達し、悲鳴が鳴り出した。
簡易マップが拡大し中範囲点滅、ガイドラインが表示されて上方を示す。
ここにいては危険だという、崩落のサイン。
警告に移動を促された瞬間、天井にあったダクト類が一斉に爆ぜながら断裂。一角が丸ごと崩壊し落下してくると、周囲は轟々という砂煙に飲まれた。
降りしきる天井だった瓦礫を二、三斬り飛ばしながら切り抜け、安全圏へ無傷でギリギリ脱出する。
——その時だった。
とん、と背後で靴音が鳴った。
ブレーキしたネザーフィアの両足は地を擦って埃を捲き上げている。
振り返る、と同時に。否、その一瞬前に気がつく。
『見つけた』——?
『さっきは』——?
一方、自分には全然見えてないのに相方だけに何故見えている。
「——だったらッ、自動的に死ね!」
白色をしたL字の刀身中央部に、フラググレネードを撃ち出す特殊機構搭載のバスタードソード——〈ヨイノユキハナver666〉、投擲され、壁に打ち込まれたその刀が轟哮を発し、反動と反発力でグリフスフィールを裏側から吹き飛ばした。ほんの感覚のすれ違い様。息をする一瞬の出来事。シュルルッ、と擦れるような金属音を上げてエレベーターのケーブルが、その首に。
リールのバトルログに表示された——〈気絶〉の文字情報と同時に、再び蹴られた箱に引きずられていったグリフスフィールが天井をバウンド。その衝撃と反発の余波でそこが亀裂し粉塵が舞う。
ネザーフィアは反射的にガードした。射出されたフラググレネードが炸裂し放たれた黒の無数の針弾、攻撃判定の塊が——〈イラストリアカノン〉の刀身を叩き、轟音を上げる。防ぐには防いだが流れ弾と衝撃波が周囲で支柱を砕き、またも一本、二本頽れていった。空気の層が頭上から圧してくるのを感じると、支えをなくした天井全体が爆音を発しながら撓んだ。
相方は完全に戦闘不能。
だが、それでも此方が有利だ。
「時間まで——」
今、上階にある構造体は支えの柱を失う端から崩落していく。
さらに、今度はこっちに来る番だ!
敵の手元に戻った刀が機関を再稼働、幅広の刀身が上下に分かれて退縮すると、鏡面状のプリズム球体を空間へ射出。
「——私は待ってるだけでいい。なあ? わざと姿を見せる陽動にだって、乗る意味がないんだから」
薄く剥がれた球体の面々が先程の無数の黒針にばらけ、殺到。ネザーフィアは前に鋭く踏み込んで球の背面に回りつつ、それを掴むと過る敵影に思い切り投げた。思考が即座に動きへ反映され、狙いも速度も正確だった——。
だが、すれ違ったかのように。敵の姿が消えていた。目では追えない高速移動が軽い衝撃波を放ち、力場の残滓を千々に乱す。
絶対速度は変わらないはずだ。
それには物理の限界がある。
このゲーム……〈ブラックラウンド・コロシアム〉では能力には必ず法則がある——この仮想世界に来たアバターのステータスとスキルは、現実で再現できる形に変換される。本来弱点などない能力でも、その過程で、必ず法則が生まれてしまう。
天地を砕く神の雷だろうとここでは少量のアースや絶縁体で防ぐことができてしまう反面、本来の能力を超えた現象を起こすこともできる。
……あれは使って来ないのか?
このありとあらゆる仮想世界と隣り合わせになった無法地帯で現在、最凶と称されるアバター——今相対している〈イオリアフレイン〉には一つ、代名詞となっている攻撃がある。
超々高度な計算と一分の狂いもない精度が発動に要求されるため、同じ能力があったとしても他の誰にも使えない技が。
それをしないのではなくできないと考えるなら、相手も相応に消耗している? 目で見えない速度で動く能力の原理を解き明かせば勝てるし、できなくても現状勝機はある。
というか、勝つ。
自動的に。
(⁉ こっちの後ろへ——
「逃げてみろよ! フィールドは逃がしゃしないけどな」
——回り込んで、来る‼)
至近距離でのグレネード。さらに、敵の本体は、回転する球体のすぐ後ろで眩しい橙色のエフェクトを展開している。
諸共切り伏せるために力場を全開——〈抜剣覚醒—SSSPredator Mode—〉、目前で爆発し、空気を面で圧して来た黒針の雨とパワーウェイブで鍔迫り合いし、圧し返す。
「直にやられたいんだったら、成層圏まで消え失せろ——〈クロース」
蒼光奔流を閃かせ、反転攻勢。
瞬時の剣閃——。
「——ライン・——」
刃の軽さはこっちが上だ。
「――ストラトス〉!」
喉元への横薙ぎ一閃。電光を纏いながら走り抜け、スタン属性の初段で止まった相手を背後から突く一瞬の一七連撃。初撃に込めた重さの分だけ遅れる相手に叩き込む。
極僅かな間、蒼光の軌跡が目前にあった。
残像、その連撃は悉く弾かれていた。剣戟が衝突する度に小規模爆発を起こし、余震に視界がぐらつくと、嘲笑うかのような囁きが耳元で聞こえたその刹那。
ネザーフィアの足下がまるでゼリーになったように震えた。
蓄積させてしまった無差別破壊フィールドのダメージによって階の床面まで崩落し始めたところに。
——〈通接式電界〉。
白い電網がドーム状に展開したのが映るや、遠隔操作された大型の駐車車両が何台も次々に突っ込んできた!
展開された力場に駆動輪の前輪で乗り上げ、タイヤをずたずたにしながら激しく空回転させた一台が横転。
バウンドし、勢い止まらず尚も横滑りしていった荷台が側壁に突っ込むと、根本から折れて来る天井の瓦礫。避けながら辛くも固い地盤へ逃れる。
しかし突如目前に敵影——。
「! ッ——」
突然、全身が痺れて発声ができなくなり、〈Stunned! 10s〉——ネザーフィアは、がくりと地面に膝をつく。
反射的に切り払った敵影が光化し、炸裂。
本当は支柱三、四本遠くにいた本体は誇示するように背を向けたまま振り返りもしない。
焔煙、陽炎に映えるその背には首を括った死体のシルエット揺れている。赤く、吊られたばかりかのように。9s—— 8s—— 7s——
残像に隠されていた矛盾事象体は単体では何もしない揺らぎ。発動するのは誰かが触れるか攻撃を当て、この次元に存在が確定された時だけ。
すぐ訪れる暗い未来を暗示し、絞首死体のグラフィティは不気味にこちらを見下ろしているかのようだ。
だが——。
「——無駄だ。イオリアフレイン……くくっ、かはは! あたしの無差別破壊フィールド。この剣の力場は、持ち主であるあたし自身が行動不能状態である時、収束して結界となり、あたしを守る盾になる。見ての通り、な?」
——3s。
「そう? でも……」
「!」
2s。
「反応速度すらとっくに利用されているんだから、ボクにあなたが追いつけたのはさっきが最初で最後だったね?」
敵が何かの技を構え、前動作に入った。麻痺が解け、結界が消える瞬間に叩き込んでくる。確実に……。
1——0.59——0.04
「一手遅かったのに気がついた? 気づいた時にはもう遅い。あなたが取れる行動も、取り得ない無数の選択肢も、全部とっくにわかっているから、順に手札を切っていくだけ」
【続く】
作者の日記:カバネリ編
スロットを打ちに行った。4000枚出たカバネリが目の前で空いた。
オゥ、ファック!!!
速攻で携帯を放り込んだのが、華々しい地獄の始まりだった……。序盤、立ち続けにチャンスゾーンを物にするも城、城、3スルー。
俺がカバネになりそうだった。モードが上がって次回エピソードが確定も、はまる。時は既に本天井——仕方がない。恵まれない展開も、これはカバネリの必然。
甲鉄城のカバネリは、ここから盤面を返す台なのだから。しかし、その日は何かが違った。天井直前の993ゲーム、その事件は起こる。全くありがたくないタイミングで降臨するオールスター目。
ファック!!
マジでキレそうになりながらチャンスゾーンを消化しATは3連、500枚ちょっと出すがクロ血漿が尽き、終了。向かない展開だが仕方がない——が、AT抜けの1ゲーム目、再度降臨するオールスター目。
いや、それはさぁ!?
死ね!!って反射的に思ったけど損はしてなくて、一応ATつながって400枚増えたのでむしろ引き強なんだけど、でも何かしらの物を壊したい気持ちになった一日でした。遅えわ。
なお、昔書いたこの小説、携帯で見たら読みにくかったのでこれからそこはかとなく修正します。
完結させたい思いはある!(なお、修正作業はカバネリの台にぶっ込んだのと同じ携帯で行われております。きっとオールスター目が引ける!!)
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