第5話  僕のメンタルライフはとっくにゼロです。

開き直った。そう完全にどうでもよくなった。人の目?みんなに目なんてあるの?何となくよさげな洋服屋に入った。


「いらっしゃーせー。ごゆっくりご覧ください。アンシャンテ」


どうやら、店員には目がないようだ。良かった。そして店に入って気が付いた。僕お金持ってないや。お邪魔しました。ということはホテル…。無銭宿泊。人生終了。お疲れさまでした。クランクアップ。いや、ここはきっと主人公補正というやつが…。


体内の水分が10%ほど奪われたころ、その場にとどまり一点を凝視する僕を不審に思ったのか店員がやってきた。


「どうかなされましたか。先ほどから微塵も動きを感じられないのですが」


と、言われましても。罪悪感に駆られるし、見知らぬ人に声かけられるしで、僕のメンタルライフはとっくにゼロです。


「なるほど。少年は無銭宿泊に気が付き絶望していると。そうかそうかそれは大変だったな。でも大丈夫。私が少年を助けてやろう。ただし…条件付きで、な。」


こ、こいつ僕の心情を読んできやがった。お金を貸してくれる?いくら条件が付いているからってこんなに旨い話があるか?


「そうか。なら、等価交換としよう。少年には私の欲しているものを採取してもらい、私は対価を払う。これなら少年も納得だろ。もちろんなお、怪しんで取引をしないというのもありだ。さてどうする?」


今の僕にとってここで要求に応えないのは今後の生活に支障を及ぼしかねない。だってお金ないんだもん。不安要素てんこ盛りだがここは大人しく乗っておこう。


「そうか腹が決まったか。私の要求はたった一つだ、魔女娘の髪の毛をとってきてほしい。なーにそんな冷めた目で見なくても趣味嗜好の為ではないさ。私も商人なんでね。量は君の裁量に任せる。君の良心と相談してくれ」


店員は不敵な笑みを浮かべこちらを見ていた。僕はただただ茫然と立ち尽くすほかなかった。その間に親切にも店員さんはお代は結構だからと革製の衣服を提供してくれた。それに加え初級冒険者に初期装備を提供してくれる役所をも紹介してくれた。そこでステータスの確認もできるという。今の僕にとって最重要事項をすべて教えてくれた。存外に人思いな方なのかもしれないと、思った瞬間だった。


店員さんい言われた通り役所に行った。尋問された。お外きょわい//…。きも!自ギャグ乙。(咳払い)役所の方にスキルを鑑定していただき、自分に合った武器を貸してもらった。どうやら僕は格闘家らしい。えーっと、何かの間違えでは…ないんですね。異世界ってよく剣と魔法の世界とか言われてますよね?よね?僕主人公ですよ。普通、それに近しい何かを…あっはい、格闘家ですね。


慣れるまでは、この街の近くにある森で修業をするといいと役所の人に言われたので早速向かう。大剣で一振りっ!というのを折角ならやりたいと思っていたが、まあ、異世界の常軌を逸するいい機会だ。いや別に否定しているわけでは…。


森は非常にもりもりしていた。僕と同じ状況の人間が集っていた。こういう場でパーティを組んで、冒険に出るのだろう。僕には無縁だ。特に今は別件を抱えてるし。なるべく人目のつかないところで、魔物を倒すか。って、矢張りこの世界にも魔物がいるんだな。適所を探しつつ森を散策していると空から刺客が…。咄嗟にしゃがんだのだが、その際スキルを取得したらしい。


【緊急回避 壱】

咄嗟によけやすくなる。回避率+5%付与(自動)


と、ウィンドウが出てきた。格闘家らしいと言えばそうなのか?異世界というよりはゲームに近い設定だな。逆に言えば固定されたスキルではなく、努力が実を結ぶ系の世界かな?いや別に批判しているわけではないですよ!そこは念押ししておきます。


緊急回避が手に入ったのはいいのだが、いつまでも回避し続けるわけにもいかないし、意図的な回避には不適応のようだ。戦闘に於いて一番大事なことは、相手を見失わないこと、相手を見極める事だ。相手の特徴をよく捉える。体長1mほど。鋭いくちばしを有しており、常に急旋回、急上昇、急降下を繰り返している。つまり対空戦に不向きな僕に勝ち目などない。逃ーげるんだよー!トップオブスピードだ!


一心不乱に走った先にあったのは城壁でした。追い込まれました。お疲れさまでしたって、敵おらんし。まあいいか。新ミッション発生。ここから帰宅。夕暮れ時。日のあたる森の中、道を失った人間の運命は決まっているんです。忽然と姿を消し二度とその姿を見せることはないって決まってるんです。暗くなる前にここから脱しなければ。うろ覚えの帰宅路。当然、何もなく終わるはずなどなかった。魔物の大群に追われました。相手は野犬です。狼でしょうか?かなり俊足で簡単に追いつかれまして、足を一口頂かれました。噛まれた拍子にバランスを崩し、その場に倒れこむ。足に激痛が走る。あまりの鈍痛に悶えながらも相手の位置、状態を把握する。足は使えずとも手は使える。ここは死んだふりをして、誘き寄せるか。んで、来たところを一発ボコッ。拳で抵抗してやろう。うまくいくかは分からないが、やらなければ殺られる。


その場で動きを止め相手が来るのを待つ。鼓動が激しい。恐怖心が僕を襲う。獣は知性があるのか、いきなりとびかかってくることは無かった。しかし、これは僕にとって好都合だった。次第に近づく獣。今にも心臓が止まりそうだ。暫くして、獣の鼻先が触れたとき顔面に強烈な一打をお見舞いしてやった。獣は地に伏せた…。そして屈伸運動を利用し鋭い牙を剥き出し襲い掛かってきた。しかし、こちらには緊急回避というスキルがある。つまり容易に避けられるってことですな。避けた後、身を翻し獣の首元に一発アッパーをかます。急所に入ったようで苦しみもがいていた。追い打ちをかけに行く。獣はもう瀕死状態のようで三度襲ってくることは無かった。とどめを刺す。一発頭部を思い切り殴ったら、何がとは言わないが砕けた音がした。血液が溢れ出したのち、肉片と毛皮を残し消えた。


もうすでに月が出ていた。

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