子一刻(PM11:00)

一つを申し上げます」


 こん


 夜も更けてまいりましたわね。どどどどっと砂煙とともに牛車がやってまいります。鮮やかなスピンターン、からのパレス六条の車寄せ(駐車場)にピットイン、でございます。

 ただいま午後11時。


「殿! オンスケジュールです!」

 今度の伴走者は弦一郎です。この鬼スケジュールを組みました。


「さすがにちょっとキツイかも……」

 光る君、走るのをやめられます。居所の麒麟殿まで歩いて向かわれます。


「キツイところを超えればランナーズハイが来ます!」

「満月儀式を終えられたら紫子さまのもとでゴールです」

「殿ならお出来になります」

「ラストスパートです!」

 源ちゃんズからの熱烈な声援に光る君は気合を入れなおします。


 またもやグラサンを外し華やかに放り投げます。グラサン、いくつ持ち歩いていらっしゃるのでしょう。ちなみに今は夜、でございます。


 麒麟殿の南庭には甘味司パティシエの甘介が控えております。

「甘介のチョコ美味いね。また腕をあげたね」

 初恋の君、藤子さまの置き土産のビターチョコレートを甘介が研究改良いたしました。このチョコと恋の歌を満月に捧げられます。


 大きな満月

 黄金色の満月

 輝く満月


「藤ちゃん……」

 満月を見上げる光る君の憂いを帯びた横顔。

~ いつまでも キミが俺の 憧れだ 死ぬほどキミに 恋してる ~


 先ほどどなたかにも似た歌を贈っていらっしゃいましたわね。


「藤ちゃん……」

 藤子さまは光る君の見上げる先、月の民でございます。あちらからも地球と光る君を眺めておいででしょう。


「藤ちゃん……」

「殿、最終刻限が迫っております」

「ん。わかった」

 光る君は和歌を書いた懐紙にそっと口づけられます。

 2,3度屈伸をして足首を回し、軽くストレッチをします。


「おっしゃ、行くか!」

「殿! ファイトです!」

「まもなくゴールです!」


 なんでしょう。この感動的な流れ。

 何かと戦うわけでも何かを競うわけでもございませんのに。

 国の威信も国民の期待も背負っているわけではございませんのに。


 なんでしょう。この熱き主従愛。

 すべては己の欲望のために。

 すべては愛する人たちのために。


 光る君と源ちゃんズが円陣を組みます。

「ミッション・ポッシブル!」

「「「「「「「「おおおおお!」」」」」」」」

「実現可能なミッションだ」

「俺たちならやれる」

「うぃ きゃん どぅ いっと!」


 One for All.

 All for One.


 なんなんでしょう。



 本日の光る君の動向のおさらいでございます。

 卯三刻(AM6:00)  パレス六条にご帰還

 未三刻(PM2:00)  ヴィレッジうぃんたーにて姫子さまのお誕生日会

 酉一刻(PM5:00)  ヴィレッジおーたむにて秋子さまにご挨拶

 酉三刻(PM6:00)  ヴィレッジさまーにて花子さまと夕さまのディナーに乱入

 戌一刻(PM7:00)  ヴィレッジうぃんたーにて明子さまとカクテルタイム

 亥一刻(PM9:00)  バー朧月夜にて月子さまと密会デート

 子一刻(PM11:00)  パレス六条に戻って藤子さまへの満月儀式


 そして今後のご予定がこちら。

 死ぬ気で今日中 紫子さまと牛車ドライブデート




 

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