地下8階付近『隠し通路』
薄暗い通路を歩きながらルージュがシウーに語りかける。
「神代の三十三『故歩自封』だ。これでしばらくはあいつも追っては来れない」
二匹の蝙蝠がパタパタとルージュの周りを飛んでいる。ルージュが二匹を愛おしそうに撫でている。
「こういう時は便利だが、何故神代の四十八はこういう監視とか封印とかそういう魔術ばかりなんだ?神は一体何を考えて人間にこんな力を与えたんだ?」
「それより何で助けてくれたの?っていうか何で吸血鬼が魔術使えるの?魔術は人間しか使えないはずだろ」
素朴な疑問をシウーが口にする。
「ふん。魔術は何もお前達人間の専売特許ではない。学べば吸血鬼だって使えるんだぞ。ギルンガラルドが教えてくれたんだ」
「魔術を人間以外の種族に教えるのは禁忌だろ。魔術ギルドが黙っちゃいない」
「あいつはその魔術ギルドの元天才魔術士だ」
まるで自分の事のように胸をはる。
「だけど、あんたに負けて眷属になったんだろ」
シウーの質問に寂しそうに答える。
「あいつは違う。自分からあたしの血を受け入れたのだ。だけど失敗して、なりそこないになったんだ…」
なりそこないとは吸血鬼の血を受けたが吸血鬼になれなかった者達の事だ。その末路は様々だが、大概はゾンビやスケルトンという生命の輪から外れた者になる。
「吸血鬼のような通常の交配を行わずに魔力交配で種族を増やすものはひどく不安定だからな」
「随分と知った風な口を聞くんだな」
床の一面をはがした先の穴は薄暗く足場もかなり悪い。ルージュが人間のシウーのために、神代の八『衣繍夜行』で明かりを灯しているためかろうじて見えている。
「俺にもすっごい頑張り屋の魔術師の知り合いがいるんだよ。んぐ…それよりどうして俺を助けたかまだ聞いてなかったな」
「食いながら話すのをやめろ…別に助けた訳じゃないさ・・・そうだな。お前には話してもいいだろ。あたしはさ…太陽が見たいんだ」
「でも、ルージュちゃんって吸血鬼だよね?吸血鬼って太陽に当たったらまずいんじゃないの?」
「まずくはないさ。死ぬだけだ」
「いや…それはまずいだろ」
「あたしにはまずくないんだよ…だけど…ギルンガラルドにはな…」
少しうつむくと切り出しずらそうに話しだす。
「ギルンガラルドには反対された。死ぬなんて絶対駄目だって」
「そりゃあ…まぁ、そうだろう」
「それで神代の27『繻子捕縄』であの場に封印されていたんだ。解こうとしたんだが、強力すぎてあたしには破れなかった」
「だから、俺の反魔術で破れたわけか」
「反魔術?お前の奇妙な力の事か?」
「魔術を無効にする能力だ」
「は?あたしが世間知らずの吸血鬼だと思ってからかってるのか?」
「むぐ…んむ…からってないよ」
「人間が魔術を使えるのは英雄サタンが四十八の魔術目録を神より賜り人間に与えたからだろうが」
「サタンって誰だよ」
シウーが思わず口走る。
「お前達人間の英雄だろ?神から永遠の命を与えられた伝説の英雄。伝説によると吸血鬼とは違う真の不死者なんだろ?」
真の不死の部分で苦いものでも口にしたかのように舌を出す。
「真の不死が羨ましかったりしないのか?」
「まさか、貴様ら人間こそ不死に憧れすぎだ。永遠の命なんてあたしからすれば褒美じゃない。罰さ」
シウーがルージュの言い方に悲しそうな顔を浮かべているのに気づき急いで話題を変える。
「ともかくだ。四十八の魔術目録に乗ってない独自の魔術を編み出したっていうならお前は魔術ギルドの魔術師のはずだ…違うのか?」
「いや。俺魔術とか使えないけど」
「じゃあ、なんなんだよあの力は」
「だから反魔術だよ」
「だから、それは…もういい。そこの壁が動くはずだ。静かにしてろ」
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