第九話 帰還

 気がつくと俺は、がらんとしたオフィスにひとりで立っていた。窓の外には都会の夜景が広がっている。あの時のままだ、時間も経っていない。


 見た目は何も変わっていないけれど、俺は確かに得たのだ、大事なものを。


 と、その時、誰かが部屋の中に入って来た。


「山崎〜! お疲れ〜! いつも手伝わせてしまって、すまないな。ありがとう。俺もやるよ」


 海野さんは缶コーヒーを俺に手渡して言った。資料を抱えている。合コンではなかったらしい。


「いいんですよ、仲間なんですから」


 俺はプルタブを開けると、コーヒーをゴクリと飲んだ。苦手なブラックコーヒーだった。


「ブラックも、たまにはいいですね」


「さあ、終電までには終わらせようぜ」


 窓の外の暗い空に星がひとつ輝いていた。

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異世界はいい人ばかり pizmo @pizmo

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