第八話 神様
俺は泣いていた。床に残った丸い跡に両手をついて。涙がぽろぽろと落ちている。
「コロン・・・すまない・・・コロン・・・」
エリスは隣に立って、そっと背中をなでてくれた。サマンサは寂しそうに羽を萎ませている。
ドラゴンを倒した喜びなんてなく、ただ、仲間を失った悲しみを感じた。
「俺は自分の目的のために大事な仲間を犠牲にしてしまった。本当に大事なものを失ってしまった」
と、その時、死んだドラゴンの体が眩い光を放ち始めた。そして、徐々に小さくなっていく。やがて人の形になり輝きが消えていく。そこに現れたのは・・・白い服、白い髪、見覚えのある老人が立っていた。
「か、神様? あの時の?」
「さようじゃ。わしじゃよ。お前を試させてもらった。お前はよくやった」
神様はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
「コロン、ご苦労であった」
そして、床の丸い跡に向けて、手をかざした。すると、その跡が盛り上がるように膨らみ始め、やがて丸い形を作った。
「騙してごめんね。ボクは神様に頼まれていたんだ」
コロンは体を伸縮させながら言った。エリスは呆気にとられて、ぽかんとしている。
「私も騙されていたってわけね、ホント、悪いスライムだわ」
エリスは微笑みながら言った。
「もう、心配して損した〜イタズラっこね」
サマンサは羽をばたつかせて、悔しがっている。
「いや、俺は自分のことばかり考えていた。コロン、ごめんよ」
「嬉しかったよ。でも、涙はダメだよ水は苦手なんだから」
神様はそんな会話を、にこにこしながら聞いていた。そして言った。
「修行は終わりじゃ。大事なことを学んだはずじゃ。お前はもう大丈夫。元の世界に戻してやろう」
分かっていたことだった。嬉しいはずのその言葉に戸惑った。そして、コロン、エリス、サマンサの方を見た。寂しそうな表情をしていた。
「ありがとうございます。少しだけ、時間をください」
そして、俺は仲間ひとりひとりの顔を見ながら、言った。
「みんな、こんな俺のために、ここまでありがとう、本当にありがとう。大切な仲間だ!」
「また遊びに来てよ、待っているよ」
コロンが体を小さくして言った。
「ワタル、生きるってことは戦いよ。諦めたら終わり。あなたは優しさという武器を持っているわ。最強の武器よ! きっと大丈夫!」
エリスは妙に威勢よく言った。俺はその言葉を心に刻んだ。おや? 顔が赤いな、飲んでないのに。
「面白かったわ。砂漠暮らしに飽きてきたところだったし。今度は本当のオアシスを作って、旅人を癒してあげてもいいかもね」
サマンサはニンマリ笑って言った。根はいい子なのだ。
俺はこみ上げてくるものを堪えて、明るい声を作って言った。
「みんなのことは一生忘れない!」
「では、そろそろ出発するとしよう」
神様はそう言うと、俺に向かって手をかざした。俺の体は光に包まれた。
「ありがとうー!いつまでも仲間だー!」
薄まっていく視界の中で、何度も何度も叫んだ。
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