第七話 ドラゴン
中は今までとは空気の重さが違った。邪悪な気配というやつか。毛穴がピリピリするような感じだ。
ドラゴンスレイヤーは刃渡り1メートル位の剣で、握り部分には見事なドラゴンの彫刻が施してある。全て金属なのに、ほとんど重さを感じない。何かしらの魔力が備わっているのだろう。
俺は正面に剣を構えながら、ゆっくりと慎重に進んだ。緊張で手に汗をかいている。
しばらく進むと、広い空間が開けた、そして、白い山のような物体が目に入った。ドラゴンだ。ホワイトドラゴン。身長は10メートル位はありそうだ。大きな羽を畳んで体に密着させている。前足には鋭い爪がある。
ゲームで何度も見たおなじみの、あのドラゴンが目の前にいる。真っ直ぐに俺を見据えている。ラスボスの貫禄充分だ。
「よく来たな、褒めてやろう。ワシの名前はアッシュ。この世界の支配者だ」
「お前を倒しに来た。覚悟しろ!」
「なんだって? お前たちは生贄ではないのか!? はっ!はっ!はっ! 面白いことを言うわい」
ドラゴンはお腹に響くような低音で言った。空気が震えて振動が起こり、地震のようだ。
「ワタル! ドラゴンは火を吐くわよ! 食らったらひとたまりもない、気をつけて!」
エリスが叫んだ、今まで見たことのない凛々しい顔だ、さすがに戦いの女神。
「うおーーーーーー!」
俺は無我夢中だった。すばやく間合いを詰めると、一気に切り込んだ。不思議なことにドラゴンは微動だにしない。チャンスとばかりに首のあたりに剣を振り下ろした。確かな手応えがあった。
「なんだ、それだけか・・・痛くも痒くもないぞ」
クリーンヒットしたのにドラゴンは平然としている。ドラゴンの体は白いセラミックのように艷やかな鱗で覆われていた。かすかな傷を付けただけに過ぎない。ドラゴンスレイヤーでもダメージを与えられないのか? 俺はジリジリと後ずさった。
「今度はこっちの番だ!」
そう言うとドラゴンはムクリと体を起こして大きく口を開けた。口の中に炎が見える。
<ゴゴゴゴゴゴーーーー>
ドラゴンは火を吐いた。オレンジの炎の束が俺に向かってくる。一瞬、もうダメだと思った。
と、その時、目の前に跳ねる丸いものが見えた。コロンは俺の前に飛び出すと、傘を広げるように体を引き伸ばし、炎を受け止めた。薄くなった体が炎に耐えている。でも、少しづつ蒸発していっている。炎は徐々に勢いをなくして消えた。
目の前に丸い黒い水たまりのような跡が残った。コロンは居ない。
「コロンちゃんーー! もう許さないからね!」
サマンサはそう言うと、羽を広げて飛び上がり、空になった瓶を投げつけた。ドラゴンは体を起こし、サマンサの方を見た。その様子を見ていたエリスが叫んだ。
「ワタル! お腹のあたりに一箇所だけ鱗が無いところがあるわ! 弱点はあそこよ。そこを狙って! ドラゴンは一度火を吐いたら、次まで時間がかかるから、今がチャンスよ」
それを聞くなり俺は再び突進した。
「よくもコロンを!! 敵をとってやる!!」
近くまで行くと、起き上がったときしか見えない場所に、鱗の欠損がある。俺はドラゴンスレイヤーを力いっぱい突き立てた。
「うぎゃーーーー!!」
ドラゴンは大きな叫び声を上げた。俺はさらに剣に力を込めた。
ドラゴンの黒い目が灰色になり、やがて白くなって、その巨躯は崩れ落ちた。
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