第六話 ダンジョン

 馬車は四人を乗せて、三日三晩走った。途中、食事のための休憩をしながら。


 砂漠は何も目印がなく、窓から見える風景はほとんど同じで、振動がなかったら移動しているのか、わからなくなってしまいそうだった。


「ねぇコロンちゃん〜まだなの? ダンジョン〜」


 変わり映えのしない旅に飽き飽きしたのか、サマンサがほっぺを膨らませて言った。


 サマンサはコロンがお気に入りだ。丸くて可愛いかららしい。時々、突っついたりして遊んでいる。見た目はエルフだが中身は子供という感じだ。


「ボクも一度しか行ったことがないんだ、ちょっと不安だけど、ユニコーンは賢いから、ちゃんと連れて行ってくれると思うよ。でも、もうそろそろ着いてもいい頃だね」


 そんな会話をしていると、突然、前方にピラミッドのような建物が見えた。


「あ! あれだよ! あそこにドラゴンが住んでいるんだ」


 コロンが体を大きくしたり小さくしたりして叫んだ。


 埃を巻き上げながら馬車はそこに向かって進んでいく。あそこにドラゴンがいるのかと思うと、背中がヒヤリとしてきた。ろくな修行もしていないのに大丈夫なのだろうか。不安になった。


 だんだんと形がはっきり見えてきた。十階建てのマンションほどの高さの巨大な四角錐の建造物だ。屋上部分が狭く、ピラミッドのように末広がりになっている。


「入り口はあそこだけだよ」


 コロンが言った。馬車は導かれるように建造物の先端まで行って止まった。大きな建物に似合わない小さいドアがひとつだけポツンとあった。俺たち四人は馬車から降りて、建物を見上げた。


「凄まじい邪気を感じるわ、戦いたくてウズウズしている感じ、美味しそう・・・じゃなかった、恐ろしそう・・・」


 エリスはご馳走を前にした獣のように目を輝かせている。ドラゴンとの戦いともなれば、得られるエネルギーも莫大なものなのだろう。


「準備ができたら中に入ってみよう」


 俺はバーテンダーからもらったドラゴンスレイヤーを背負った。コロンは飛び跳ねている。エリスは興奮しているのか顔が赤い、あ、さっきまで飲んでいたからだった。そして、好奇心の強いサマンサは早く入りたくて仕方ない様子だ。


 女神、エルフ、スライム・・・そしてブラック企業の奴隷。なんて素晴らしいパーティなんだ。同じ目的のために集まった仲間。俺はさっきまでの不安が消えて、みんなのために頑張ろうと誓った。


 ドアは呆気なくスッと開いた。中から冷ややかな空気が流れ出てきて頬をなでた。


「よし、行くぞ!」


 案内役のコロンを先頭に、俺、エリス、サマンサの順に並んで中に入った。外が暑かったせいか、冷房が効きすぎたビルのようにひんやりしている。


 中はレンガのような白い石で壁が作られ、天井付近に松明が一定の間隔に並んでいる。松明の炎がゆらゆらしている。あらかじめ俺たちが来ることが分かっていたかのように。通路は幅と高さがそれぞれ2メートルくらいだろうか。真っ直ぐ奥まで続いている。


 ダンジョンは外からの侵入者に備えて、だいたい中は迷路のようになっている。分かれ道や袋小路、危険なトラップなど。コロンは迷いなくズンズンと先頭を進んでいく。何度か上階への階段を登った。途中でモンスターに遭遇するのではと身構えていたが、何にも出会わなかった。


「それにしても、ドラゴンと戦うなんて、無謀なことを考えたものね。倒せる自信はあるの? 平和すぎてつまらない世界だけど、戦いよりはマシよ」


 サマンサが呆れたように言った。興味本位で付いてきた割には、心配してくれているようだ。


「それが俺がここに来た理由だと思うんだ。みんなを巻き込んで申し訳ないけど」


「ボクはいいことだと思うよ。太古の昔、ドラゴンによって町は滅ぼされたって伝説もあるんだ。悪いことじゃないよ」


 コロンが力強く跳ねながら言った。


「近くにドラゴンがいる。気配を感じるわ」


 エリスの方を見ると、体中からオーラを放っている。皆既日食の時の太陽のようだ。


 しばらく進むと、広間のような空間に出た。装飾品などなにもない、殺風景な空間だ。正面に意味ありげな大きなドアがあった。俺たちは急いでドアに向かった。


 重厚な作りのドアだった。鍵がかかっているらしく、ノブを回しても開かなかった。


「ボクが開けてくるよ」


 コロンはそう言うと、体を変形させてドアの下の隙間から中に入り込んだ。さすがはスライム。


 しばらくしてカチャリと鍵が開く音がして、ドアがゆっくりと開いた。更に奥へと通路が続いている。


「いよいよだな。みんな用心して行こう」


 俺は背中のドラゴンスレイヤーを構えて中に入った。

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