第四話 砂漠

 城の反対側の町外れに外へ通じる道がある。外敵がいないせいか門や塀はない。自由に人々が行き交っている。コロンが言ったとおり、町は砂漠に囲まれているらしく、水平線の彼方まで砂漠が広がっている。


 馬車はすでにそこにあった。実に派手な馬車。おとぎ話に出てくるカボチャの馬車のようだ。


「なんか趣味が悪いね」


 コロンが呟いた。


 全体のカラーはガサツなエリスに似合わないピンクで、中は長い椅子が向かい合うように二列になっている。後ろ側には荷物が置ける荷台が有る。先頭には二頭の馬が繋がれている。


 よく見ると普通の馬ではない。角が生えている。神話に出てくるユニコーンという生き物か。どこで見つけてきたのやら、この辺はさすがに女神だなと思った。


 そこに大きな荷物を抱えてエリスがやってきた。


「おーまーたーせー。食料いっぱい買ってきたよ。積み込むの手伝ってよお」


 そう言うや、いきなりコロンを踏んづけた。さっきのを聞かれていたらしい。上部が凹んでいるが元気だ。コロンには物理攻撃は効かないようだ。


「この馬車、派手過ぎないか? 盗賊とかに狙われそうだぞ」


「何言ってんの! ここは平和そのもの、そんな連中居やしないわよ」


 俺たちは出発の準備を始めた。


「おいおい、食料って酒ばっかりじゃないか! 水とか食べ物はないのか?」


「下の方に干し芋とかチーズがあるわよ。入れ物がなかったから、水は酒の瓶に入っているわ」


「なんだか酒のつまみに合うものばかりな気もするが、ま、いいか。でも、酒は控えめにしろよ」


 大事なときに使い物にならなかったら困る。


 準備が終わって馬車に乗り込んだ。俺とコロンが並んで座り、向かい側にエリスが座った。


「エリス、ユニコーンはどうやって動かすんだ?」


「ユニコーンは高い知能を持っているの。心で会話ができるのよ」


「ドラゴンのいるダンジョンの場所はコロンしか知らない、コロン、案内してくれ」


「了解した。行き先はユニコーンさんにさっき伝えたから大丈夫だよ」


 そんな会話をしているうちに、馬車は走り出した。ガタガタ振動が大きく、乗り心地はすこぶる悪い。


 町を出て舗装されていない道をひたすら走った。道というか、雑に均されただけというか、砂埃が舞い上がっている。


 周りは本当になにもない。細長い植物がところどころに生えているが、森などはない。遠くを見渡しても山らしきものはなく、当然ながら川もない。水が心配になってきた。


 ふとエリスの方を見てみると・・・酒を飲んでいる。


「もう飲んでいるのか、少しは控えた方がいいぞ」


「なにを言ってるの! 旅といえば酒、いま飲まずにいつ飲む?」


 女神とは思えない。完全に酒好きの理論だ、酔ってなければ美人なのに、もったいない。


「コロン、おまえも飲めー」


「うわわ、ボクは水はダメなんだ、止めてよ」


 コロンは体を小さくして逃げ回った。


 半日ほど走ったが、目印になるようなものもなく、俺はお腹が空いてきた。


「そろそろ休憩を兼ねて、食事にしようか」


「そこのあたりに広くて平坦な場所があるから、そこで食べましょう」


 エリスは前方を指差して言った。


 馬車を止めて降りると、適当な場所にシートを広げて、荷台から食料を取り出して食べた。


 保存の効く、乾き物ばかりだ。水気のない保存食だけど、贅沢を言ってはいられない、ここは砂漠なのだ。


 コロンは食べる必要がないのでユニコーンと遊んでいる。エリスは乾き物をつまみにして、ひとりで宴会をしている。


「のどが渇いたな、水をくれ」


 エリスはゴソゴソと荷台から水用の瓶を取ってきてくれた。蓋を取ってグビッと飲んだ。


「ゴホゴホ! おい、これはビールじゃないか!」


 俺は酒はほとんど飲めない、飲むと頭が痛くなってしまうのだ。


「おかしいな、バーテンダーはこんなの水だよって言ってたのに・・・」


「それは酒飲みがビールなんて水みたいなものって意味で言ったんだろう、真に受けるやつがいるか!」


 調べてみると、水だと思っていたものは全てビールだった。困ったことになった。水がない。

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