第一章 第三節

 あなたがたの救われたのは、実に恵みにより、信仰によるのである。それはあなたがた自身から出たものではなく、神の賜物である──エフェソの信徒への手紙 2章8節


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1427年 シャルロットが息を引き取った日の深夜


 「……」


 異形の者は風になびく草原と澄み渡る星空の重なる丘で、足が地に根を張ったかの如く立ち尽くしていた。


 「なんだぁい?ホーエンハイム、君のそういうところは変わらずかわいいねぇ」


 ホーエンハイムと呼ばれた異形の者の傍に夕闇色の髪の少年が寝転びながらうそぶく。異形の者の大きく禍々しい爪が伸びた両手の中で、少女が静かに寝息をたてていた。


 「……」


 ホーエンハイムは黙して空を見上げたまま動かない。その姿はまるで、冬枯れた樹がヤドリギを宿したようであった。


 「素晴らしい信仰心を宿した無垢な魂だなぁ…まるで君の大好きなあの子みたいだねぇ」


 その言葉にホーエンハイムはゆっくりと首を傾ける。その頭部はアカシカの雄の頭蓋から成り、六叉七枝に分かれたツノが光の流動体を内包して蒼白く輝きはじめる…


 「君、怒るのはいいけどさ」


 少年は一瞬、鋭い眼光をホーエンハイムに向けた──


 「それ……撃つんならさぁ、その子も死ぬよぉ?」


 かと思うと、いつもの笑顔と間延びした声でホーエンハイムを諭し…


 「まぁ〜、ってのが正解かぁ」


 本気か冗談か分からないようなことを言い放って、ゆっくりと起き上がる。


 「……」

 「ホーエンハイムはさぁ、血が通ってないのに血の気の多いとこあるよねぇ」


 異形の者はまたゆっくりと夜空に顔を向ける。すでにツノの発光は消えていた。


 「よし、その子のことは任せたよぉ。本当の洗礼が終わったらさぁ、霊名を授けないといけないけど、だぁいぶん後になりそうだし」


◇◇◇◇◇


 「テオ様…」


 テオと呼ばれた少年の背後から、金色の長い髪の美少女が穏やかではあるが、どこか冷ややかな声色で話しかける。


 「お、噂をすればシャルロット!他が片付いたのかなぁ?」


 テオはパストゥールの髪を掴んでいた左手の力を抜く。パストゥールは重力により、顔面から床に着いた。痛みは彼にはなかった。全ての感覚と感情が彼を取り巻くことをやめていた。


 ──彼はもう絶命していた。


 「はい。として処理しました。お分かりかと存じますが…ここにはもう素材になるような者はおりません」

 「あ、やっぱり?この少年だけでもになってくれたら良いのになぁ…」


 青黒いナニカが染み渡ったから、蒼白い弱い光の点滅が徐々に起こる。


 「あれぇ?あんまり期待してなかったんだけど…」

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