第42話 生身VSエーテルアーマー

 



 ーー エルサリオン王国 第一王女 アリエル・エルサリオン ーー




「皆聞きなさい! あの二人は王の命令によって情報局が招待した国の客人よ! ですがこちらに非があるとはいえ、彼は言葉に対して剣を抜き斬り掛かってきたわ! そして私たち全員を相手にすると挑発までしてきた! ここで退けば私たちエルサリオン王国が、地上人に見くびられることになるわ! だから生身で私たちに挑もうとする無知で無謀な地上人に、少しお仕置きをすることにしたわ。さすがに殺しては問題になるから、エーテルキャノンの使用は禁止します。エーテルライフルも四肢を狙いなさい。私たちの圧倒的な力を見せつけた後に謝罪をさせ、この件は丸く収めることにします。いいわねブランメル? さすがに客人を殺したりしたら、貴方も貴方の家も王から重い処罪を受けることになるわよ? 」


「 ぐっ……しかしあの劣等種は卑怯な不意打ちで私の腕を……殺さねば我がキルミア公爵家の沽券にかかわ……」


「いい加減になさい! 日頃からダークエルフたちへの差別的な発言といい、貴方の言動は目に余るわ! こうなる事態を招いたのは貴方のその偏った思想による言動が原因でしょう! これ以上私の邪魔をするのなら許さないわよ! それにソルティスにマグワイヤも! あんな見下す目で恋人を見られたら怒るのは当たり前よ! いい? 絶対に殺しては駄目よ! 力の差を思い知らせて、あの男が冷静になった時に話し合いで解決するわ! 逆らうなら私があなたたちの相手になるわ! 」


「くっ……承知……しました……姫様」


「「しょ、承知しました……」」


 私はセカイという地上人に解放され、隣で滞空するブランメルとソルティスたちへ釘を刺した。


 私が本気だということを察し、ブランメルは悔しそうに頷き、ソルティスたちは顔を青ざめさせながらも返事をした。


 これはほかの親衛隊の皆も聞いているから、やり過ぎることはないでしょう。


 でもブランメルは危ないわね。よく見ておかないと殺してしまいそうだわ。ほんとたいして強くもないのに、選民意識とプライドだけは高い中身の無い男ね。こんなのが婚約者候補だなんて勘弁して欲しいわ。


 それにしても、もうめちゃくちゃね。ブランメルを解放させるのが戦う目的だったのに、後に引けなくなっている。


 私にも王女としてのメンツがある。あそこまでコケにされて引いたりしたら配下の者の信を失う。戦場で臆病者の指揮官の命令に従う者はいないもの。


 力に溺れ力の差も理解できていないセカイという男に、アガルタの戦士の実力を思い知らせないと皆も納得しないでしょう。このアガルタの魔導技術の結晶ともいえるEアーマーと、強敵と戦い続けてきた私たちの力を。


 馬鹿な男……たかだか1万程度のエーテル保有量で私だけではなく、30機の騎士たちにたった二人で戦いを挑もうだなんて。


 でも地上の人間じゃ仕方ないわね。アガルタの兵器の力がどれほどのものかだなんて、知るはずもないのだもの。それでも強気なのは、あの魔結晶とかいうダグル石のような特殊な石を持っているからよね。あれは月で前線基地を壊滅に追い込んだ、レベル5のダグルと同じ自然現象を操る魔法のような現象を発現させることができるとんでもないアイテムだもの。


 兵器省にあった火の玉が出る魔結晶を見た時は、その威力に驚いたわ。あれが20個も私の部隊に配備されると聞いた時は喜びもした。そんな強力な武器を持っていて、しかもあれよりもさらに強力な雷を発生させる魔結晶まで持っていれば力に溺れるのも仕方がないわ。


 確かに地上のニホンで彼が放った雷は、まるでお伽話に出てくる勇者様の魔法のようだった。


 だから期待したのに……それなのに会ってみれば大したエーテル保有量もない、ただ運良く古代の隕石からなのかどこかから魔結晶を手に入れただけの平たい顔の男だった。


 ガッカリしたわ。せっかくお父様の言いつけを破ってここまで来たというのに、あの空間を広げる魔結晶も手に入らずじまいだし。


 それでもなんとかしてあの空間を広げる魔結晶だけは手に入れたい。あれがあれば月での戦いで部隊の継戦能力が格段に上がる。そのうえ火の玉の魔結晶と、できれば雷の魔結晶も手に入れることができればダグルがいくら攻めてこようとも跳ね除けることができる。


 そうなればこのアガルタだけではなく、先祖代々見守ってきた地上のニホンも救うことができる。


 ダグルから地球を守ることができれば私は勇者になれる。あの神話の勇者様のように、世界を救うことができるのよ。


 そのためにはなるべく早く決着をつけて、彼が冷静になったところで落ち着いて話し合って和解するしかないわ。ブランメルも四肢を失ったセカイを見れば、きっと溜飲が下がることでしょう。


 その上でちゃんとブランメルに謝罪をさせて、セカイを治療して元の身体に戻せばセカイの態度も軟化するはず。そして改めて交渉すればいいわ。でも死なせるのだけはいけない。それは彼をアガルタに呼んだお父様の顔に泥を塗ることになる。いえ、もう既に泥を塗っていることになっているけど、セカイさえ納得させればこれもただの試合ということにできる。


 事故を防ぐためにも速攻でセカイと決着を付ける必要があるわね。ただ、ブランメルを斬った時の動きは本物だったわ。とんでもない身体能力の持ち主であることはあれだけでわかる。


 だから油断はしない。エーテル銃で牽制して、最後はエーテルソードで私が決着をつける。


 私はそう決意を固め、200mほど離れた場所に滞空しているセカイとその恋人のカレンを睨みつけた。


 それにしてもなぜ彼らは飛べるのかしら? 背中に小型のスラスターを着けているようには見えないのに……あれも魔結晶の力だとでも言うの?


 私がそんなことを考えていると、突然セカイがこちらへ向かって左右に大きく振れながら向かってきた。


「来たわ! 総員一斉射撃用意! 」


 私はエーテル通信で部隊の皆にそう呼びかけ、エーテルライフルを構えた。


 え? エーテル反応が無い!?


 私はバイザーに映るエーテルレーダーに、こちらに向かってくるセカイとその後方で銃を構えているカレンの反応がないことに動揺した。


 なぜ? これじゃあ照準補正が起動しない! どうなってるというの!?


 《ひ、姫様! エーテル反応が消え……きゃあああ! 》


「イルネス! なっ!? 速い! くっ…… どこっ!? 」


 私が左翼の先頭にいたイルネスへの方を見ると、彼女は右のアームをエーテルライフルごと切断されていた。


 私はレーダーに頼るのはやめ、全方位光学カメラのみでセカイの姿を追おうとしたが、あまりの速さに捉えることができないでいた。


 まさか生身でEアーマーの装甲を切断するなんて! ブラックメタルとミスリルの合金よ!? どうなってるのよあの剣! それになぜあんなに速く飛べるの!? 彼は本当に魔法使いだとでもいうの!?


 《姫様! 奴は西に! くっ……速い! ぐあぁぁ! 》


「ルインヘン! な、なによあれ? 氷!? まさかあの銃の能力!? 」


 私が現れては騎士たちの四肢を切断して消えていくセカイを追い掛けていると、後方にいた騎士のアームが肩まで凍りつきそのあと搭乗しているルインヘンの腕ごと砕け散った。


 射線を辿ると、そこには銃を二丁構えたカレンが不敵な笑みを浮かべて滞空していた。


 そして彼女は続けて銃を撃ち放ち、後方の騎士の脚部装甲を炎で包み込んだあとに爆発させた。


「あり得ない! なんて威力なの! こんなのあり得ない! 」


 私は移動した後にまた銃を撃とうとするカレンへ向けて、エーテルライフルを連射した。しかしエーテルレーダー無しの射撃では、彼女にまったく当てることができなかった。


 それでも牽制くらいにはなってるはずなのに! なぜ彼女は避ける素振りすらしないで撃てるのよ!


 私はエーテルライフルから発射されるエーテル弾をまったく恐れない彼女に、身体の奥底から得体の知れない恐怖が湧き上がってくるのを感じていた。


 それは私だけではなく周囲の騎士たちも同じようで、皆が半ばパニック状態でエーテルライフルを連射しているようだった。


 いけない! 皆を落ち着かせないと! ここは一旦あの銃の射程外へ離れて体勢を立て直す必要があるわ!


 私はそう判断し後退の合図を部隊に送ろうとしたその時。


 突然背後から聞き覚えのある声が響いた。


「こんなもんか。だから言ったろ? お前ら程度はバッタとそう変わらないんだってよ」


「なっ!? あぐっ! 」


 私が突然現れた気配に、腰部に装備したエーテルソードを抜きながら振り返ろうとしたその瞬間。


 背部に強い衝撃を受け、前方へと大きく吹き飛ばされた。


 私は腰部のスラスターを調整してバランスを立て直し振り向くと、セカイはつまらない物を見るかのような目で私を見下ろしていた。


「姫さんは最後に相手をしてやるよ。そこで自慢の配下の者たちが堕とされていくのを見てろ。己の無力感を味わいながらな」


 そしてセカイはそう言って私に背を向け飛び去っていった。


 この時になって私はやっと気付くことができた。


もしかしたら力に溺れ、力の差をわかっていなかったのは私たちの方だったのではないかということに……




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「姫さんは最後に相手をしてやるよ。そこで自慢の配下たちが堕とされていくのを、無力感を味わいながら見てろ」


 俺は驚愕した表情の王女にそう言いその場から離れた。


 弱い……思ってた以上にエーテルレーダーに頼った戦い方をしている。照準がほとんど機械任せなんだろうな。結界に擦りもしない。


 確かに全長4mはありそうなアーマーに、それと同等の長さのアームだ。サクと同じように装甲の下は生身の四肢があるようだし、延長部分が長いぶん機械的な補正無しでは命中率が悪くなるのはわかる。けどあまりに機械に頼り過ぎていいる。サクだってセンサー無しでももっと当ててくるぞ?


 それとあのEアーマーの背面部に展開している4対の翼。確かカスタムウィングだったか? 翼の付け根にあるアルミナスドライヴと、腰部分にあるスラスターで飛んだり姿勢制御しているみたいだけど、それも間合いを詰められた際の動きが悪い。どうやら接近戦は苦手なようだ。まあエーテル保有量が多い種なら、遠距離攻撃に特化するのも仕方ないか。


 戦争とか無かったみたいだしな。対人戦闘能力が低いんだろう。地上の文明は遅れてるし、地上人の持つエーテル量は千とかその程度だ。仮想敵にもならないわな。


 それにしてもさっきから剣に魔結晶の硬化と風身の魔結晶を嵌めて発動してるけど、かなり威力が上がってるな。エーテルの消費も少ないし、増幅装置はやっぱ凄いな。このうえ吸収の魔結晶も剣に嵌めてるから、今後はエーテル使い放題だな。


 俺は王女から離れ、飛び交うエーテル弾を避けながら増幅装置を取り付けた剣の性能に満足していた。


「さて、お遊びはここまでにしてとっとと終わらせるか」


 俺は100mほど先でバイザーを外し、鬼の形相でランチャーらしき物を構えているブランメルのところへと向かった。


「劣等種が! チョロチョロとハエのように動き回りおって! これなら避けきれまい! 」


「ぷっ! いいぜ? 撃ってみろよ」


 俺は5mはありそうな大型のランチャーを腰の位置で構えるブランメルの手前で止まり、笑顔でそう言って挑発した。


「クソがっ! 舐めるな劣等種が! 死ね! 」


 ドンッ!


 パシーン


「は? 」


 ブランメルが殺意と共に放ったエーテル砲は俺の結界にあっさり防がれ、それを見たブランメルは何が起こったのかわからないといった表情で固まっていた。


「ぷっ! もう終わりか? なら次は俺の番だなっと! 」


 俺はブランメルの間抜けな顔に吹き出しつつも一気に間合いを詰め、すれ違い様にブランメルの右脚部装甲の付け根部分を斬りつけた。


「ぎゃあぁぁぁ! 」


「ほらっ! 動きが止まってるぞ! まだ素体になるには余分なもんが付いてるからなぁ! 」


 俺は装甲ごと左足を失い激痛に顔を歪ませるブランメルの背後に回り、残った腕がある左アームの肩部分に向け剣を振り下ろした。


「ぐあぁぁぁぁ! 」


「これで残ったのは左足だけだな。まあこんなんでいいか。んじゃ下で地獄の続きを待ってろ」


 俺はギャーギャーうるさいブランメルの背面部にあるアルミナスドライヴに剣を突き刺し、空を飛ぶ能力を奪いブランメルを機体ごと地上へと蹴り飛ばした。


 地上へと落下中にアルミナスドライヴが爆発したが、操縦席はシールドで守られてるみたいだから大丈夫だろう。たぶん。


「さて、次はあの女か」


 俺はブランメルを堕とした直後に襲い掛かってきたエーテル砲を避け、それを放ったであろう先ほどカレンを蔑んだ目で見ていた女のところへと向かった。


「ヒッ! ここ、来ないで! 私は侯爵家の……」


「戦場で身分がなんの役に立つんだ? お前にも地獄を見てもらうぞ! 」


 俺は構えていたランチャーを捨て剣を抜こうとする女との間合いを一気に詰め、肩の装甲部分に向けて剣を振り下ろした。


「こ、来ない……あぐっ! あああああ! 」


「お前も下で待ってろ」


 俺は右肩を斬り落とされ、バイザー越しにでもわかるほど激痛に顔を歪ませてる女の背後に周りアルミナスドライヴに剣を突き刺した。


 墜ちていく女の機体を見届けたあと、俺は残るもう一人の男のいる場所へと向かった。


 そしてランチャーも剣も俺に切断され、命乞いをする男の両腕を装甲ごと切断して地上へと墜とした。


 その後はカレンに墜とされ残り10機ほどとなったEアーマーも次々と戦闘不能にし、アルミナスドライヴを破壊した。


 ひと通り作業が終わると兵器省のグラウンド上空には、俺とカレンと剣を構えつつも愕然とした表情の王女だけが残っていた。


 さて、早く終わらせないと邪魔が入りそうだ。


 俺は遠くからやってくる、数十個の大きなエーテル反応を感じながら王女と相対しただった。





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