第41話 言葉の刃
「あぐっ……わ、私の手が……おのれ地上の劣等種が! よくも! よくも高貴なる私を! こんなことをしてここを生きて出ら……ぎゃあああ! 」
「吠えるな。質問に答えろ地底人」
頭を踏まれ地に顔をつけているにもかかわらず吠えるブランメルに、俺は無くなった右手と同じ腕の肘に剣を突き刺し切断した。
「ブランメル! や、やめなさいセカイ! 彼が何をしたと言うの! いきなり斬りかかるなんて正気ではないわ! 」
「おい姫様。あんた本気で言ってんのか? それとも聞いて無かったのか? このクズはハーフエルフを混ざり物って言ったんだ。お前らエルフなんかより何万倍も優秀な種族を侮辱したんだよ! 」
「そ、それは聞いてたわ! 確かにハーフエルフを差別するのはいけないことよ。でもだからって暴力を振るうのは間違ってるわ! 今すぐ彼を解放して謝罪をしなさい! そうすれば私が穏便に済むようにしてあげるから! 」
「ふざけんなよ馬鹿王女! 先に暴力を振るったのはコイツだろうが! 見えない言葉の刃で俺の恋人を傷付けたのはコイツだろうが! それとそこの女とお前もだ! 蔑んだ目で見やがって! タダで済むと思うなよ! 」
俺はアリエルの後方にいる2人の男女に、次はお前らがこうなる番だと叫び睨みつけた。
「き、貴様! 」
「侯爵家のわたくしに対して無礼な!」
「やめなさい! 二人とも銃をしまって! セカイ、たかが言葉でしょ? 剣を振るう理由にはならないわ。ブランメルから離れなさい。今ならまだ間に合うから。私がなんとかするから。だから剣を収めて彼から離れて」
「たかが言葉だって? あんた何にも分かってねえな……いいかよく聞け馬鹿王女。言葉ってのは人を殺せるんだよ。それだけの力を持ってんだよ。言葉ってのは誰でも自分は一切傷つくことなく、他人を傷つけることができる武器になるんだよ。人を殴れば殴った手が痛む。銃で撃てば人を傷付けたと自覚し、少なからず心が痛む。けどな? 言葉ってのはそのどっちも感じねえんだ。特にコイツみたいな馬鹿は人を傷つけた自覚なんて微塵も感じたりしねえ。そんな馬鹿の放つ言葉で一生心に傷を負う人間がいるんだよ! 卑怯で卑劣な暴力。それが言葉の暴力なんだよ! そんなこともわからねえのか馬鹿王女が! 」
言葉の暴力ほど卑怯で卑劣なものはない。
剣や魔銃に魔砲は結界でいくらでも防げる。魔王のあの強力な魔法だってカレンは耐えた。
でも言葉だけは防御不可能なんだ。一方的に黙って傷つけられるしかねえんだ。
そして言葉で傷つけられた傷ってのは再生の魔結晶でも治癒ができねえんだよ。
カレンは言葉には出さないけど、その言葉の暴力に長い間傷ついてきた。それはずっと側にいた俺にはわかる。
カレンの心には見えない傷がたくさんあるんだ。
その傷をえぐろうとする奴は、誰一人として許すことなんかできやしねえんだよ!
「そうかもしれない。貴方のいう通りかもしれないわ。けど、それなら彼はもうその報いを受けたわ。後ろの二人にもよく言って聞かせる。だからもう剣を納めて」
「セカイさん。その者は公爵家の次男です。これ以上は……」
「ワタルさんもう……」
「公爵家の次男? だからなんだってんだ。この程度で報いを受けただ? 何言ってんだ? これからコイツには差別されるってことがどういうものか、じっくり教えなきゃなんねえんだよ。今までもそうしてきたからな。これからもずっと差別が無くなるまで俺は続ける。邪魔するなら公爵家だろうが王女だろうが潰すだけだ」
俺は王女とルンミールの言葉にそんなもの関係ないと突き放した。
「そう、それなら仕方ないわね……私もこれ以上臣下の者を傷付けられるのを見ているわけにはいかないわ」
「そんなものじゃ何もできやしねえよ。ほら、ハンデにもならねえがEアーマーに乗れよ。アガルタ最強だがなんだか知らねえが、本当の戦闘ってのを教えてやるよ」
俺は腰に差した銃に手を掛ける王女に、そんなものじゃ俺を止めることなどできないと鼻で笑ってやった。そしてせっかくご自慢のEアーマーを持ってきているようだから、それに乗って掛かってこいと挑発した。
このブランメルって馬鹿がカレンを侮辱した時点で、コイツら全員と戦闘になるのは覚悟してんだ。フィロテスの故郷を見れないのは残念だが、こんな奴らがいる国なんかもうどうでもいい。
「その程度のエーテル量でよくそこまで言えるわね……あの魔結晶の力に頼っているだけのくせに……いいわ。私が相手をしてあげる。皆は手を出さないでちょうだい」
「その程度のエーテル量で余裕ぶってんな。全員相手にしてやるよ。ちょうどこの剣の試し斬りをするところだったからな。せいぜい逃げ回ってみせろ」
「なっ!? たかだかレベル1か2程度のダグルを殲滅したくらいで、ずいぶんと増長したものね」
「たかがレベル5のダグル程度に手こずってるお前らとバッタがどう違うってんだ? 」
「私たちをあんな雑魚と同じにみていると後悔するわよ! 」
「そうだな。バッタより数が少ない分、手加減しないとエーテルがもったいなかったと後悔しそうだな。いいだろう、雷の魔法は無しにしてやるよ。この剣で相手してやる」
俺は目を吊り上げで怒りに震える王女へそう言った。
範囲魔法なんて使ったら殺しちゃうからな。さすがに女の子を殺したりはしたくない。
「どこまで私たちを侮辱すれば……いいわ。あの魔法を使わないでどう戦うのか見せてもらうわ」
王女はそう言って俺を睨みつけてから背を向け、連れの3人とともに自機のEアーマーへと歩いていった。
くっ……なんだよあのプリプリした尻! 歩くたびに形を変えてやがって! ほんとリーゼリットみたいないい乳と尻してんなぁ。王女の怒った顔も、リーゼリットが民衆を鼓舞した時に見せた顔に似てたしな。
中身が違うとこんなにも印象が変わるのかよ。あの素直で癒し系のリーゼリットとは大違いだ。
「おいボンボン、お前にも戦うチャンスをやる。Eアーマーなら片腕がなくても問題ないだろ? 死ぬ気で向かってこい」
「ぐはっ……ぐっ……こ、殺してやる……必ず殺してやる! 」
俺は王女たちが自機に乗り込むのを確認した後、足もとで何か小さな筒状の物を腕に当てていたブランメルを蹴り飛ばしそう言った。
俺に蹴り飛ばされ起き上がったブランメルは、捨て台詞を吐きながら王女たちの方へと走っていった。
ブランメルの腕は既に出血が止まっているようだ。さっきの筒状の物が止血剤か何かだったのかな?
まあいいや、アイツにはもう一度痛い目にあってもらう。王女たちに人質に取ってるとか思われても嫌だしな。
「ま、そういうことだ。招待してくれた二人には悪いが、礼儀知らずのクソ野郎どもには地獄を見てもらう。驕り高ぶったお馬鹿な王女たちにもな」
「やむを得ませんね……どうやらアリエル様たちは通信を切っているようです。王宮からの命令が届いていればあんな態度を取ることなどあり得ないのですが……こうなっては王と六元老が仲裁のための軍を派遣してくるのを待つ以外には無さそうです。セカイさん、どうかアリエル様の命だけは……」
「お仕置きするだけだ。殺しはしない。死んだ方がマシと思う奴らはいるかもしれないけどな。二人は観測施設に行っててくれ。すぐ終わる」
「カレンさん……」
「しょうのない子……私は気にしてないのに……ワタルは私を愛し過ぎてる」
「勘違いすんな。俺はカレンを守るって約束を果たしているだけだ。悪いなフィロテス。これだけは我慢できねえんだ」
「ワタルさん……申し訳ありません。こんな事にならないよう細心の注意を払っていたのに……」
「フィロテスのせいじゃないさ。エルフとダークエルフが何千年も共生しているのに、そのハーフを差別する者がいるのはこの国の責任だ。ある程度は覚悟してはいたが、あのブランメルってのは駄目だ。アルガルータでもあそこまて露骨に言葉に出す馬鹿は少なかった。そんなことよりも、あっちは準備ができたみたいだ。下がっててくれ」
俺は申し訳なさそうにしているルンミールとフィロテスにそう言い、飛翔の魔結晶にエーテルを流し上空へと飛び立った。
するとカレンも俺に続いて飛び上がる気配を感じ、俺は50mほど上昇したところで滞空した。
「ワタル……」
「アイツらを見ていると、アルガルータで初めてエルフと会った時のことを思い出すな」
俺は地上から飛び立つ王女たちのEアーマーを見ながら、魔銃を両手に持ったまま後ろから抱きついてきたカレンにそう言った。
あの時は伯爵の跡取りだったか? まあ今と似たような感じだったな。
「あの時も私は気にしてなかった」
「そうか? その割にはあの日の夜は甘えてきてたな」
カレンは嫌なことがあった日は夜に凄く甘えてくる。それは昔からずっとそうだ。
「ワタルが私のために怒ってくれたから……嬉しかった」
「守るって約束したからな」
「私もワタルを守る」
「あの程度の奴らの攻撃なんて当たるかよ。カレンは試し撃ちしたいだけだろ? 」
「んふっ……バレた」
「ははっ、まあもともとそのつもりでここにいたからな。カレン、アイツらはエーテル反応をセンサーでキャッチして居場所を特定したりしてる。魔物と同じだと思えばいい」
Eレーダーだったか? ダグルのランクも同時にわかるから便利っちゃ便利だけど、俺たちには通用しないんだよなぁ。
「ん……準騎士級くらい? 」
「んー、従者級の火トカゲくらいじゃないか? 王女は準騎士の火鬼ってとこだろ。手加減しろよ? 」
炎の弾を吐き出す火トカゲに、全身を炎に包み殴りかかってくる火鬼。それに機動力をプラスした程度かな。防御力は戦ってみないとわかんないけど、カマキリの風刃みたいなのに破られる程度なら大したことないだろう。
「……四肢を狙うようにする」
「エーテルを隠蔽しつつ翻弄してやれ。王女とそのお付きのは手を出すなよ? アレは俺がやる」
「わかった」
「んじゃ試し斬り兼お仕置きタイムだ。いくぞ! 」
俺はエーテルを完全に隠蔽したのちに、同じ高度で滞空している王女とその親衛隊らしき30機のEアーマーのいる所へと突進していった。
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