第40話 禁句
「ワタル……ソワソワしてる? 」
「え? べ、別にしてないよ? カレンもいま聞いたようにあれは王女さんらしいんだ。どうやら俺に用があるらしい。戦闘映像見られて興味を持たれたっぽいんだよね〜」
「……フラグ? 」
「ちげーよ! どこでそんな言葉覚えたんだよ! ったく、俺が挨拶するから見てろって。すぐにわかる」
「わかった……折れるのを見守る」
「なんでそんな自信満々で言うんだよ! 」
くそっ! 縁起でもねえこといいやがって! 王女なのに月で戦うようなお転婆だ。きっと手合わせして欲しいとか言ってくるに違いない。そこで軽く相手してやって俺に惚れるテンプレ展開をカレンは知らねえんだよな。もしかしたらお付きの女エルフたちも俺に惚れちゃうかも!
俺はそんな未来予想図を描きながら、Eアーマーが降下してくるのをワクワクしながら眺めていた。
そして白銀の王女機を筆頭に、20機ほどの白いEアーマーが俺たちから20mほど離れた場所に着地した。
10機は上空で滞空し周囲を警戒しているみたいだ。
俺は後ろからルンミールとフィロテスが走ってこちらに向かってきている気配を感じつつ、王女の乗るEアーマーに満面の笑顔を向けた。
すると王女と従者らしき5機のEアーマーが膝をつき、中にいる者のバイザーが外れ四肢を覆っていた装甲が開いた。
そしてグラウンドに降り立った王女の姿は期待していた通りのものだった。
薄いレオタードのようなEスーツを着ている王女の身体は、その形をクッキリと浮かびあがらせていたんだ。
ムホッ! 胸はCくらいだけど、お碗型でツンと上を向うていて形がいいな。結構細身でいい身体してんなぁ。ああ……お尻とかどうなってるんだろう? 気になるなぁ。顔もキリッとしてて……ん? あれ?
「リ、リーゼリット? 」
「リーゼ……」
俺とカレンはこちらへと歩いてくるエルフの王女の顔を見て、アルガルータの天然王女にそっくりだったことに驚いていた。
金色の長い髪に切れ長の目。そして目もとの小さなホクロ。天然のリーゼリットより少し勝ち気な印象を受けるが、その顔や雰囲気に160cm半ばほどの身長と体型は彼女そっくりだった。
俺とカレンが驚きつつ王女を見つめていると、王女は男女4人の従者とともに俺たちの前で立ち止まった。
「貴方が地上のニホン人のセカイ? 勇者のような魔法を使うとは聞いていたけどパッとしない顔ね。さっき測定したエーテル量も地上の人間よりは多いけど……本物かしら? 」
「ぐっ……顔は似てるけど中身は別物かよ……」
「生意気なリーゼリット……新鮮」
俺は翻訳機を通して聞こえる王女の言葉に、顔は似てても別人だなとフラグが折れる音とともに一気に盛り上がっていた気分が冷めていった。
こういう思ったことをズケズケ言う女は嫌いだ。相手の気持ちなんてこれっぽっちも考えてないからな。リーゼリットはその辺は敏感だった。ほんといい女だったよなぁ。
「何か言った? 」
「いや、で? あんた誰? 」
俺は失礼なことを口走った王女に、知ってはいたけど誰なのか聞いた。
こんな女に気をつかうだけ無駄だしな。どうせ王女だ姫騎士だとチヤホヤされて、お山の大将になってんだろ。
「き、貴様! 地上の卑しい未開人の分際で姫様に向かってなんという無礼な! 」
「うるせえ! 自己紹介もしねえでいきなり人様の顔を馬鹿にする奴の方が無礼だろうが! 」
俺は王女の隣でしゃしゃり出てきた金髪オールバックの男エルフにそう怒鳴り返した。
「なっ!? 貴様! 私を誰だと……」
「やめなさいブランメル! そうね、いきなりぶしつけで悪かったわ。期待していた分ガッカリしちゃって言い過ぎたみたいね。私はアリエル・エルサリオン。この国第一王女よ」
この女ガッカリしたとか抜かしやがった! ある意味天然なのはリーゼリットそっくりだけど、コイツの場合は天然馬鹿だろ!
「チッ……あっそ、んで? 何か用? 」
「……ふふふ、私が王女だと言ってもなんとも思わないのね。新鮮ね」
「ア、アリエル様! なぜここに!? 本日は立ち入り禁止となっていたはずです! 」
「アリエル様! ワタ……セカイさんは王の指示によりご招待したお客様です! そのお客様の前に大勢でそれもEアーマーに乗り現れるなど、礼を欠くにもほどがあります! これは王の顔に泥を塗る行いですよ! 王城には連絡を既に入れてあります。直ぐにここから出てください! 」
アリエルが一瞬驚いた顔をしたのちに笑ったタイミングでルンミールとフィロテスが到着し、アリエルへと次々と文句を言っていた。
フィロテスなんかそりゃあ必死で、王女相手にかなりキツイ物言いだった。
「フィロテス! 平民の分際で姫様になんという言葉を吐くの! いくら情報局の者とはいえ、許されることではないわよ! 」
「ヘルメ、いいのよ。お父様に接触するなと言われていたのに、その言いつけを破ったのですもの。セカイに確かカレンだったわね? 私はあなたたちが持つ魔結晶と呼ばれる物に興味があるの。それもテントの中に家を建てられる能力がある物にね」
アリエルは隣にいた女エルフがフィロテスに怒り出したのをたしなめ、俺とカレンを見つめ魔結晶に興味があると薄く笑みを浮かべながら言った。
「な、なぜそのことを……」
俺の隣ではルンミールとフィロテスが驚いた表情をしていた。
ん? ああ、マジックテントのことをアリエルは知らないはずだったとか? あの時の護衛が喋ったってことかな?
まあ別にいいけど。王女に聞かれたら仕方ないよな。
「セ、セカイさん。申し訳ございません。情報が漏れていたようです」
「ワタルさん……」
「いや別にいいよ。んで? 姫さんは空間拡張の魔結晶が欲しくてやってきたってこと? 」
「ええそうよ。家が入るほどの空間なら、ダグルとの戦いでの継戦能力が上がるわ。それはあなたの故郷を守ることにも繋がるの。だからあるだけ私に譲って欲しいのよ。できればどこで手に入れたのかも。もちろんタダでとは言わないわ。言い値で買い取るわ」
「断る」
俺はアリエルの頼みを即答で断った。
家が入るほどの空間拡張の魔結晶は1等級だ。そんな貴重なもん渡せるかってんだ。
「貴様! 姫様の頼みを断るとは! 誰のお陰で地上で生きていられると思っているのだ! 黙って出してどこで手に入れたのかを話せばよいのだ! 我々に守られてる分際で図に乗るな! 」
コイツぶっ飛ばされたいのか?
俺はさっきからギャーギャーうるさいオールバック男にイラついていた。
「ブランメル! そんな差別的な物言いは嫌いよ! 私たちは地上だけではなく、アガルタを守るために戦っているの。地上人に感謝して欲しいなどとは思っていないわ」
ふんっ! まあ一応は王族か。ダークエルフもいるし、差別を容認するような教育はされてないってとこかな。
「くっ……申し訳ございません」
「セカイ、なぜ断るのか聞いてもいいかしら? 」
「家が入るほどの魔結晶はかなり貴重なものだからな。金には興味がないし、欲しかった増幅装置はもう手に入った。ほかに欲しいと思える物がここにはないしな。だから取引は成立しない。そういうことだ」
まあお前らが気に入らないってのもあるけどな。
しかし目の前でプルンプルン胸を揺らしやがって! なんちゅう柔らかい生地なんだよ! フィロテスに頼んで一着もらおう! 今夜はカレンにこれを着せてエッチしよう! いずれフィロテスとも!
「そんなことで……セカイ、聞いてちょうだい。私たちにはあの魔結晶と呼ばれる石が必要なの。できればあの雷の魔結晶も欲しいわ。貴方程度のエーテル量でレベル1とはいえ、あれだけの数のダグルを殲滅できるのだもの。あれを私たちが使えば、レベル5のダグルが大量に現れても殲滅できるわ。そう、あれがあればダグルから地球を守れるのよ。この20年にも及ぶ戦いに終止符を打てるかもしれないの。だからどうしても手に入れたいのよ」
この女いちいち勘に触る言い方するな。こりゃ王女って地位だけじゃなく、エルフ最強とか言われていることからの驕りだな。確か35000Eだったか? だとするとここにいる奴らは2万5千かそこらって感じか。そういえばアルガルータにも最初こんなのがいたな。全員魔物に殺されたけど。
まあここはハッキリ言ってやるか。そもそも俺とカレンが遊びで1万Eピッタリに測定されるようにエーテルを抑えたのにさ、それに違和感を感じない時点でたいした戦士じゃないのは確定だし。
「あんたら程度じゃ使いこなせねえよ。無駄なことはやめとけ。ほら、もう用は済んだろ。俺たちは忙しいんだ。早く王宮に帰れ」
「なっ!? 私はこう見えてもアガルタ最強の騎士よ! その私がたかだか1万E程度の貴方に見下される覚えはないわ! 」
「貴様ぁぁぁ! もう許せん! 姫様に対しての数々の無礼! ここで無礼討ちにしてくれる! 」
王女は顔を真っ赤にして怒り、金髪オールバックエルフのブランメルとかいう男は俺の態度にブチ切れ腰に差していた銃を抜き俺へと向けた。
「ブランメル殿! セカイさんは王の指示で我々が招待した客人です! その客人に銃を向けるなど、いくら公爵家の者とはいえ重い処罰は免れませんよ! 」
俺が剣を抜こうとしたら、フィロテスが俺とブランメルとかいう男の間に両手を広げて立ちはだかった。
「黙れ平民! 高貴なる者の誇りを守るための行いだ! 王も認めてくださる! 」
「そうだ! このアガルタを守る我らの姫様を侮辱した罪は、その男の命だけでは償えきれないわ! 一緒にいるその女の……貴様もしやハーフエルフか? 」
「なんだと!? 道理で先ほどから違和感を感じていたと思えば、その女は混ざり物か! なぜ地上人と一緒にい……へっ? ぐあっ! 」
俺はブランメルが話し終える前にフィロテスの横をすり抜け、一瞬のうちに剣を抜き振り切った。
「「「なっ!? 」」」
「セ、セカイさん! 」
「ワタルさん! 」
「まったく……しょうのない子」
「『火遁』 オイ、テメー今なんてった? 」
俺は切り落とした銃を握ったままのブランメルの手首から先を、火遁の魔法で焼き尽くし、腕を押さえて激痛に耐えている男の後頭部を踏みつけながらそう言った。
その光景を見たアリエルほか3人は固まり、ルンミールとフィロテスは顔を青ざめさせながら俺の名を叫んでいた。
この野郎……よくもカレンを混ざり物だとか言いやがったな。
今から死んだ方がマシってくらいの絶望を与えてやるよ!
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