第14話 二度目の遭遇



 岩手県沖で自衛隊の護衛艦と、壊滅状態の陸上からレールガンによる散発的な砲撃を受けていた二体のダンゴムシを瞬殺したあと、俺たちは高度5千メートルほどを維持して盛岡市へと向かった。


 そこでは自衛隊のサクが40機近く半円の陣形を組んでバッタと戦っており、そのさらに先では大きな駅に群がるバッタの大群が見えた。


 俺は地下鉄の避難所が危ないと思い急いでエーテルを抑えるのをやめ、眼下のバッタと大きな駅に群がるバッタを呼び寄せた。その瞬間奈良にいたバッタと同じく猛烈な勢いで上昇してくるバッタを『轟雷』と『雷撃』、そして『火遁』で焼き尽くした。


 俺が取りこぼした分はカレンにより処理され、2千近くいたバッタは30分ほどで全て消し炭となった。そしてサクに手を振り、その雄姿を目に焼き付けて北海道へと向かった。


 北海道では函館でサクの部隊が防衛戦闘中で、戦闘機が10機ほど遠距離からバッタを攻撃していた。サクは20機ほどしかなく、戦闘機の支援で持ち堪えている様子だった。しかしそれでも複数の地下鉄の入口らしき場所にバッタが群がっていた。


「こっちは酷いな。まさかここまで何もできず押し込まれるなんてな。対空レールガンが少な過ぎる。まったく……カレン、エーテルを開放だ」


「わかった……!? ワタル! 西! 」


「ん? げっ! 余力あったのかよ! なら助けてやれよな! 」


 俺とカレンが体内のエーテルを開放すると、カレンが西に視線を向け俺を呼んだ。俺はカレンの言うとおりその方向を見ると、そこには2機のUFOがこちらへと向かってきていた。


 前に海で見たのと同じ円盤だな。少し小さいか? 偵察機かな? うわ〜なんかチカチカ光を放ってるよ。変な光線出さねえだろうな……


「チッ……このタイミングでかよ。カレン、無視だ! バッタがこっちに向かってくる。インセクトイドを攻撃してる俺たちを攻撃はしてこないだろう。してきてもあの機体にあるエーテル反応程度じゃ結界を破れないから大丈夫だと思う」


「ん、警戒はしておく」


 仮面の中が見えるような光線とかないだろうな? あれば欲しいけどそんな透視アイテム。


 俺とカレンはUFOを無視して迫り来るバッタを高原へと誘導し、戦闘機を巻き込まないよう今回は轟雷を出さずに『竜巻刃』と『火遁』で迎撃した。


 俺の繰り出したエーテル増し増しの巨大な竜巻は、内部に数多の風刃を発生させつつバッタたちを呑み込み切り刻み次々とミンチにしていった。それを見た戦闘機は危険を感じたのか引き返していった。カレンはというと、二丁の魔銃で竜巻外にいるバッタを撃ち落としている。


 俺はUFOを視界の端に入れつつ、竜巻にさらに雷撃を次々と撃ち込んで竜巻の殺傷範囲を広げた。すると突然UFOの動きが激しくなり、光の点滅が高速になっていった。


「ん? 何か撃つ? 」


「ゆーほーの側面」


「こっちに向けてじゃないが……あっ! 撃った! 」


 俺が魔法を維持しながらUFOの動きを観察していると、二機のUFOの側面にエーテルが集まるのを感じ取れた。そしてその瞬間緑色のビームらしきものが機体から出て、バッタを次々と撃ち落としていった。


「魔力弾か! でも緑? 」


「魔力の塊だった」


 俺はUFOが攻撃に参加した事よりも、機体が放ったビームの属性に驚いていた。

 俺の知る魔結晶を通した魔力弾は赤い色になるが、UFOが放ったのは緑色の魔力弾だった。


 インセクトイドの魔結晶だからか? いや、なんか俺の知る魔力弾とは違うな。カレンも気になるみたいだ。

 俺は少しの違和感を感じつつもUFOの攻撃を観察しながら、竜巻にバッタを巻き込んでいった。そして数分後にさらなる違和感を覚えた。


「UFOのエーテルあんまり減ってないな」


「結構撃ってた……少ししか減ってない」


「うーん……考えられるのはエーテルを増幅する装置を持ってる? 」


「それは画期的……欲しい」


「確かにカレンの魔銃に付けたら最強だよな。大型だと困るけどな」


 エーテルの増幅魔導回路はエルフでも無理だった。集束がやっとだ。1のエーテルを10に増幅なんてどうやったらできるかさっぱりだ。でも、あれだけ撃ちまくってるのに機体のエーテルがあんまり減ってないということは、増幅しているとしか思えない。


 凄い欲しいが奪い取るわけにもいかない。かと言ってコンタクトしようとして、地底人に捕まってモルモットにされるのはゴメンだ。エーテル封じの首輪とかあったら詰む。

 後ろ髪を引かれる思いだけど、ここらで俺たちは退散するとするか。


「カレン! 高度をギリギリまで下げて北に全力で飛んで札幌に行く。んでエーテルを抑えて変装を解いて人のいるビルに紛れ込む」


 俺はバッタの残数を確認しつつ、カレンにUFOから逃げる作戦を伝えた。


「わかった……たこ焼き……」


「ほとぼりが冷めたらまた行こう。札幌なら金たこあるんじゃないかな? さすがに北海道に来たら海の幸を食べたいけど」


 札幌は復興が進み、かつてほどの人口はいないが北海道では一番人の多い都市だ。今回の侵攻で輸入が未だに多い日本の食糧事情は厳しくなりそうだけど、たこ焼きは材料を提供したら作ってくれるかもしれない。


「金たこで我慢する」


「贅沢な舌になったな……まあいいや、雪が凄そうだけど温泉もあるししばらく身を隠すぞ。とりあえずこれで最後だ! 『雷撃』! よしっ! ズラかるぞ! 」


「おー」


 俺は最後のバッタを処理したと同時に、カレンと共に全力で北へと飛んだ。どれくらいの速度が出ているかはわからない。けど恐らく戦闘機よりは速いはずだ。俺とカレンほどのエーテル保有量と、結界がなかったらこんな速度は出せないけどな。


 しかし後方からものすごい速度でUFOのエーテル反応が迫ってくる。

 そりゃUFOほどにもなれば付いてこれるよな。こっちは生身だし。

 でも一定の距離を保ってるな。俺たちが地上に降りるのを待ってるのか? それならこっちのもんだな。


 俺は背後から一定の距離を保ちつつ付いてくるUFOを無視して、札幌の街が見えたところでさらに高度を落とした。そして街の中心部に着陸したが、函館にインセクトイドが迫っていることから札幌には人気がなった。しかし大きなビルやマンションには、人が隠れている反応があった。


 俺たちはより人の多いビル街に降り、急いで体内のエーテルを抑えた。それからUFOの位置を確認しつつ、ビルの合間を高速で移動して変装を解いた。そして高層ビルを見つけその陰に入り身を隠した。このビルは地下に多くの人の反応があったので、目くらましになると思ったからだ。


「UFOは高度を下げないか。海の時と同じだな」


「私たちの反応が消えて焦ってる? 」


 頭上を見上げると、海で魔法訓練をした時のように二機のUFOが右往左往していた。


「ああ、急に慌ただしい動きになったな。とりあえず地底人はエーテル増幅装置を持っているのと、エーテルを抑える術を知らないか抑えるような戦闘スタイルじゃないかだな。兵器が優秀だから抑える必要性を感じてない可能性もあるか」


 エーテルを抑えるのは隠密行動とか奇襲を掛ける時だから、それを戦術に組み込んでいないならやる意味はない。集団でいれば抑えても技能にムラが出て結局魔物は向かってくる。


 俺とカレンは集団戦闘はせず、常に少人数でボスクラスの魔物を狩っていたから不意打ちを仕掛けるためにこの技能は必須だった。その違いだろう。地底人はそこそこ良い武器を持ってるみたいだからな。正面から数を揃えて戦ってんだろう。


「魔力弾は微妙だった」


「ん? ああ、威力か。小さいUFOだったしどうだろ……百人隊長級までは数を撃てばいけるんじゃないか? 」


 バッタには一撃だったけど、属性のある魔法ではなく魔力の塊だからな……地上のインセクトイドは硬いし数を撃って百人隊長級がやっとか? もうワンランク上の飛行型のインセクトイドがいるなら互角になるかもな。大型のUFOならわからないけど。


 まあとりあえずはミッションクリアだ。途中仮面も外れなかったし、フードも大丈夫だったと思う。身バレしてなきゃいいけどな。監視カメラとかは見える範囲は避けたけど不安なんだよ。それにUFOのあのチカチカした光。レントゲンとかじゃないだろうな? 高度文明って未知すぎて怖い。


 俺はたこ焼き味のスナック菓子をポリポリ食べているカレンの横で、身バレしていないかビクビクしているのだった。



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