第12話 バッタ退治



 俺とカレンは大阪から飛び立ってから、全力で大量のエーテル反応がある奈良方面へ飛行した。


 そして10分ほど経過した頃、バッタ型インセクトイドと思わしき大群が視界に現れた。

 二人で千里眼でその姿を確認すると、体長1mほどのバッタが無機質な目をこちらに向けながら翅を羽ばたかせて飛んでいるのが見えた。


「うげっ! 気持ち悪い……」


「ワタル……あれは近付けたらダメ」


「あんなのと接近戦とかやだわー」


 習性かなにか知らんが、群れで飛んでるのが救いだな。

 まとめて一掃して早く終わらせたい。


「ワタル……エーテル放出して」


「ええ!? 俺が!? そんなことしたら俺のとこに群がってくるじゃん! 」


 2千匹近くいるバッタが、俺めがけて一斉に飛んでくるとかキモイ!


「地上にも反応がある……取りこぼさないために必要」


「それは確かにそうだけど……って、おいっ! なんで後ろに下がるんだよ! 」


 カレンはもっともらしいことを言いつつも、ツツツっと後方に下がっていった。


「ワタルを援護する」


「さっきまでその魔導機関銃で一掃するとか言ってただろ! 」


「……援護する」


 カレンは後方支援に特化する気満々だ。

 こういう時男は辛いよ……


「くっ……取りこぼすなよ!? あんなのと近接戦闘とか夢に出てきそうだ 」


「大丈夫……ワタルが夜うなされても私のお乳を吸えばおさまる」


「取りこぼすの前提にしてない!? 」


 だいたいカレンの乳は精神安定剤か何かかってんだよ。

 その通りだけど!


「ワタル……来る」


「だあぁぁ! やってやるよもうっ! 」


 俺はバッタ型のインセクトイドが射程に入る手前で、抑えていたエーテルを開放した。

 その瞬間。広範囲に飛んでいたバッタ全てが、速度を急激に上げ俺へと一直線に向かってきた。


 俺は気持ち悪いと思いつつも、バッタの群れが射程に入り次第魔法を撃てるよう準備した。背後でカレンがさらに後方に下がる気配を感じながら。


「んじゃオーバーキルだけど行くぞ! 『轟雷』! 」


 俺は前方からひと塊となって向かってくるバッタの群れに、雷龍から手に入れた範囲魔法を放った。その瞬間バッタの頭上から無数の太い雷が降り注ぎ、その雷を身に受けたバッタは一瞬で消し炭となった。さらにバッタに落ちた雷は周囲にいるほかのバッタへと帯電していき、次々とバッタを焼き尽くしていった。


 しかし密集していたとはいえ数が数だ。魔法で8割は殲滅できたと思うが、辛うじて雷から逃れた者や、地上から上昇中だった者たちは未だ健在だった。しかも驚くべきことに、仲間が焼き尽くされた光景を目の当たりにしても躊躇うことなく俺を目掛けて突進してきた。


 うえっ!? 魔物と違って恐れとかないのかよ!

 普通は動きが鈍るんだけどな。


 コイツらは多少なりとも知能のあった人型やトカゲ型の魔物と違い、ただひたすら俺の身体から滲み出る膨大なエーテルに誘われるがまま突進してきている。これじゃあまるで火の中に飛び込む虫みたいだな。


 魔物と違い本能で行動するから、罠や搦め手が無い分動きは読みやすいな。

 しかし恐怖という感情がないのは厄介だ。それは死を覚悟した兵が絶え間なく襲い掛かってくるようなものだ。


 魔法発動後の僅かな隙に、躊躇いなく突っ込んできて間合いを詰めてくる。しかも魔物より圧倒的に数が多いし地上の蟻は硬そうだ。これは地球の軍じゃ厳しいだろうな。

 エーテルの扱いを早めに習得して、インセクトイドの甲殻でパワードスーツを作り数を揃えないと呑み込まれるのは時間の問題だろう。



「カレン、残敵を! 」


「ん、任せて」


 俺が次の魔法を発動する合間にカレンに援護を頼むと、カレンは魔導機関銃を構えバッタへと連射をしていった。


 バシュバシュバシュバシュバシュ!


「ん……失敗した」


 カレンの持つ魔導機関銃から放たれた炎槍は、散らばるバッタたちの6割ほどしか命中しなかった。さらに命中後の爆発に巻き込まれる個体も少なく、たいした副次効果は得られなかった。


「ちょ! カレン! うえっ! キタッ! 『火遁』! 」


 俺はカレンの攻撃から逃れ、結界のすぐ近くまで迫ってきたバッタに向かって手を突き出し火遁の魔法を放った。


 手から放たれた火炎放射器のように吹き出す炎を俺は左右に振り、迫り来るバッタを次々と焼いていった。


「やっぱり私にはこっち」


 バシュッ! バシュッ!


 バシュッ! バシュッ!


 俺が次々と迫り来るバッタを火遁の魔法で焼き払っていると、後方で武器を2丁の魔銃に持ち替えたらしきカレンがバッタ目掛けて魔銃を撃つ音が聞こえてきた。


「やっぱ最初からこうすればよかったんじゃないか!? 」


「ん、勉強になった……もう使うことがないかも」


 やっぱり敵が密集していてこそ、効果が最大限に発揮される武器なんだよな。


「ガンゾの意思を継ぐとか言ってなかったか? 」


「ん、連装魔導砲で継ぐことにする」


「え!? それもマジックポーチに入ってたのかよ 」


 俺はガンゾが最後に放った武器までマジックポーチに入れていたことに驚いた。


「入ってた……アレは大物相手に使える」


「うえっ……虫の大物とかマジ勘弁して欲しい」


 絶対体液ビシャーってなるだろ。それに硬そうだよなぁ。


 俺とカレンはそんな無駄話をしながらも、四方から迫ってくるバッタの残敵掃討を行っていった。


 そして数分後。最後の一匹をカレンが炎弾で火だるまにしたところで、周囲のインセクトイドの反応は全て消滅した。


「こんなもんか。エーテル保有量から言って兵士級レベルだったな」


「そのくらい……飛トカゲよりも遅いし柔らかかった……でも数が多い」


「確かに紙装甲だったし飛行速度は遅かったな。飛行型は柔らかくて地上型が硬いってことか? でもカブトムシとかも飛ぶもんな。そっちは数が少ないとかかな? 多かったらやだな……」


 バッタは時速200kmくらいかね? 確かにそんなに速くは無かったしよく燃えたな。

 気持ち悪いのさえ無ければ、俺たちにとっては余裕な相手だ。


 しかし戦闘機が全然来なかったな。レールガンの電力使い果たして一旦帰還したか? 確かレールガン搭載の戦闘機は数が少なかったな。そのうえ岩手と三重の二方向から来たから対応が追いついていないのかもな。


 遠距離攻撃も無くて遅いバッタなら、数さえ揃えられれば戦闘機で遠距離から一方的に減らすことも可能だと思うんだけどな。問題は継戦能力か。


「さて、海上で泳いでいるダンゴムシを潰しに行くか」


「ん、今度こそ連装魔導砲で仕留める」


「虫の急所とかよくわかんないけど、とりあえず頭の方を吹き飛ばせばいいだろう。どうせ衛星でもう見られてるんだし、ついでに岩手の方も行っておくか」


「この程度の虫なら倍いてもよゆー」


「まあな。ただ、この程度のインセクトイドにリスクを背負って出撃しなきゃなんなかったのは業腹だけどな」


 でも仕方ない。これが今の日本の限界なんだろう。頼むから戦闘機増やしてくれよな。


 そして俺たちは三重県に泳いで上陸しようとするダンゴムシを目指し、太平洋へと向かって飛び去った。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 ドンッ! ドンッ! ドンッ!



「やってるな」


 俺たちはエーテル反応のある三重県沖100数十キロほどの場所に到着し、高度1万メートルほどの位置から海を見下ろしていた。


「泳いでる……」


 海上ではダンゴムシが身体を丸めたり展開したりを高速で繰り返し、まるでバタフライで泳いでいるかのように陸を目指し進んでいる。そしてその後ろから自衛隊の艦艇2隻が、ダンゴムシに対しレールガンらしきものを撃ち込み続けていた。


 艦艇はかなり大型だが、結構な速度で進むダンゴムシに必死に喰らいつき砲撃を行っているようだ。


「まあいいか、急降下して一撃で仕留めて離脱だ」


「わかった」


 カレンは俺の指示に頷き、マジックポーチからガンゾの使っていた黒い砲身の連装魔導砲を取り出した。


 カレンの背丈ほどもある連装魔導砲は、三つの筒にそれぞれ雷槍の魔結晶が装填されており、その魔結晶にエーテル結晶石から大量のエーテルを流し込み同時に発動させる。そして現れた三つの雷槍を集束させ、一本の巨大な雷の槍として放つ強力な武器だ。


 この武器のネックは、砲身に相当な耐久性が必要なため黒鉄を使っていることからかなり重いのと、エーテルを大量に使うので2発も撃てばエーテル結晶石のカートリッジが空になってしまう。つまりは重くて高コストな武器という所だ。


 正直ダンゴムシ程度にこんな物を使う必要はない。俺の雷撃で十分仕留められる。

 しかし撃ちたがりのカレンが使いたいと言っているのだから仕方ない。カレンはなんだか楽しそうにしているしな。


「んじゃ行くぞ! 」


「んふっ……やっと撃てる」


 やっぱガンゾのを見てて撃ってみたかったんだな。


 俺はカレンと共にダンゴムシ目掛けて急降下をした。そして高度100mほどの所で止まり魔法を放った。


「止まれ! 『プレッシャー』! カレン! 」


 俺はプレッシャーをダンゴムシに放ち、ちょうど伸びているタイミングで動きを止めた。


「了解……『ライジングメガ集束砲』」


 カレンは俺の合図で魔導砲を肩に担ぎ、スコープで照準を合わせた。そして俺とガンゾが命名した必殺技名を律儀に唱えた後に、ゆっくりと引き金を引いて雷槍を放った。


 ドンッ!


 カレンが放った巨大な雷槍は、俺のプレッシャーで硬直し徐々に沈んでいくダンゴムシの頭部付近に真っ直ぐ突き刺さり、その周囲の数十メートルほどを吹き飛ばした。


「オーバーキルもいいとこだな。一応胴体も飛ばしておくか。カレン、中央にもう一発だ」


「了解」


 俺が念のために、残り300mはある胴体の真ん中をカレンに吹き飛ばするように言った。するとカレンは照準を変えたのちに、二度目の雷槍を放った。そしてその雷槍はダンゴムシの胴体中央に突き刺さり大きな穴を開け、そこから海水が流れ込んでいった。


「あとは自衛隊に任せるか。離脱するぞ。楽しかったか? 」


「んふっ……かいかん」


「ははは、そういう所は昔から変わらないな」


「撃つの楽しい」


「まあ陸地じゃ強力過ぎて撃てないからな。今日くらいは好きなだけ撃てばいいさ」


「そうする」


 俺はカレンの楽しげな雰囲気にクスリと笑いつつも、後方から船を止めてこちらを見ているであろう自衛隊艦艇に手を上げ挨拶をした後に北へと飛び立った。


 さて、次は岩手沖のダンゴムシとバッタ退治だな。ダンゴムシはまだ上陸していないだろうから間に合うだろう。





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