第11話 決断
《 政府より国民の皆様にお伝えいたします。日本を目掛け落下しておりました母船級インセクトイドは、北海道、岩手、千葉、静岡に配備されておりました自衛隊新兵器の対空レールガンにより迎撃しました。その結果、岩手県沖280kmと350kmの地点にそれぞれ1体。三重県沖260kmの地点に1体が落下致しました。以上の事から、日本本土への上陸を防ぐことに成功したものと思われます。現在母船級インセクトイド及び、体内にいると思われる蟻型インセクトイドの生死を確認中です。国民の皆様には今しばらく安全な場所から出ないようにお願い申し上げます。政府としましては万が一の際の備えといたしまして、第1特殊機甲師団を岩手県と三重県沿岸部へと急行させております。安全を確認でき次第、順次避難指示は解除していく予定です。政府からは以上です》
《 以上、佐藤首相による緊急会見の模様をお送りいたしました。続きまして各国の状況をお伝え致します。現在アメリカには7体の母船級インセクトイドが…… 》
「やっぱさっきのはレールガンの音だったのか。まあ、あれじゃあ撃墜はできてなさそうだけど、海に針路を変えさせただけでも上等だな」
「さっきの大きな音がレールガン? 」
「ああ、対空レールガンが完成して配備されているという話はネットで見たけど、まさか展開前でも二~三百メートルはあると言われているダンゴムシの針路を変えるほどの威力があるとは思わなかったよ」
結界持ちの母船だったらそれも無理だっただろうけどな。兵士級を乗せてる程度の母船だから効果があったんだろう。
今から1時間ほど前。
俺とカレンはマンションのベランダから空を見上げ、大気圏に突入してくるダンゴムシ型インセクトイドを見ていた。
そしてそのうち3体は日本に向かってきていると判断し、テレビをつけながら落下地点の報道を待っていた。ところがダンゴムシ型インセクトイドが放つ光。これは高速で落下したことによる大気との摩擦で生じる光らしいのだが、この光が収まったタイミングで地上から複数の大きな音がした。そして何かがダンゴムシへとぶつかった。
地上から放たれたであろうその物体からはエーテルの反応があり、数秒ごとに何度も地上からダンゴムシへと放たれていった。その威力にダンゴムシは大きく針路を変えていった。俺は何が起こったのかわからず、急いでネットを見ると対空レールガンが発射されたのだという事がわかった。そしてそれから少しして日本本土への上陸を防げたとの政府の緊急会見があった。
対空レールガンの性能は公開されていなかったからわからなかったが、恐らくかなり大型の物なんだろう。そこまで大型のレールガンともなると、相当な電力を必要とするはずだ。
そういえば地底人から供給された月の土壌から取り出したヘリウム3とかいう物質と、プラズマ状態を安定させる技術で核融合炉を完成させたという話を聞いたことがある。これにより世界のエネルギー事情が劇的に改善したらしい。核融合炉は原子力発電による発電の何倍もの電力を安定して得られるらしいから、今回その電力を使ったのだろう。
「確かアメリカが実験していた大型のレールガンの射程は200kmとか言ってたから、地上20km辺りから起こる空気抵抗で減速したタイミングを狙って撃ったんだろうな。あっ! ほら! アメリカも半分以上海に落としたって言ってる」
「あんなに遠い魔物に……すごい」
「人が撃ったんじゃなくて、さまざまな観測機器とコンピューターによる計算をした結果だから。まあ当てたこと自体確かに凄いけどな」
確かにたいしたもんだ。俺とカレンならもっと高度が低いところで、魔物も反撃できるような高さでしか迎撃はできない。いくらカレンの魔銃でも20kmも射程は無いしな。その分さっきのレールガンなんかよりも遥かに威力はあるけど。
対空レールガンは音と射程は凄かったが、あのエーテル量じゃ母船は破壊できないだろう。あれが人類の最強の武器だとしたらやっぱり先は暗いな……インセクトイドに魔結晶があるかわからない以上は人類は早急にエーテルを扱えるようになり、銃ではなく剣を手に持って戦わないと滅ぶだろうな。エーテルの扱い方を教えないなんて、地底人も相当地上の人間を警戒しているようだ。
まあでもとりあえずはダンゴムシの上陸は防げたな。
しかし日本以外は、全ての大陸に上陸されているようだ。どうやら地球には32体のダンゴムシがやってきたようで、中国、インド、ロシア、ヨーロッパ、中東諸国があるユーラシア大陸に9体。南アメリカ大陸に4体。アフリカ大陸に5体にオーストラリア大陸に4体。そして日本に3体とアメリカに7体だ。
日本の比率がおかしい。それにインセクトイドが上陸した場所は、どこも第一次と第二次侵攻でインセクトイドが上陸した場所の近くらしい。となるとやはり蟻型インセクトイドの生き残りがいる場所を目指して来たのだろう。
岩手県沖に落ちたダンゴムシは北海道を目指していたとして、三重県は……静岡が近いといえば近いな。もしかしたらダンゴムシは静岡を目指していたのかもな。それなら身に覚えがある。静岡は俺とカレンがこの世界に現れた場所だ。転移の時のエーテルが残っていてそれを感知したのかもな。
不幸中の幸いとしては、インセクトイドが同じ場所に上陸することをどの国も予想していたのか、大きな都市が襲われたなどはまだ報道されていなかった。恐らく上陸地点近くに軍が展開していることだろう。これから世界中で侵略者との戦いが始まることになるだろう。
「ワタル……海で魔物は泳いでた…………虫は泳げない? 」
「うーん……蟻だからなぁ……普通は溺れるけど宇宙生物だからなぁ」
虫って生命力強かったよな。それにインセクトイドは呼吸してないって話だしな。だとすると泳いでくる? その可能性はありそうだ。それでも本土に同時に3体上陸されるよりはいいだろう。本土に直接上陸されてたら、自衛隊のサクや電磁砲戦車が到着するまでに多くの犠牲者が出たはずだ。
マンション前の道路には、まだ避難が終わっていない人がたくさんいる。地下鉄が走っていない地域に住んでいる人も、より安全な地下鉄へと雪崩れ込んでいるかららしい。地下鉄は最悪線路もあるから、多くの人を収容できるが入口は狭い。たった10時間やそこらで何十万という人間は避難しきれない。皆大きな荷物を持って来ているしな。
そう考えれば海に落ちてくれたのは良かった。少なくとも時間は稼げるし、危険な地域を特定できる。なにより沿岸部で迎撃しやすい。相手が蟻型なら対地レールガンもサクも戦車もあるし余裕だろう。
「ワタル……兵士級の魔物でも飛トカゲがいた……虫は飛ぶの多い」
「あ〜そうだったな。地球にもやってくるだろうな。第一次侵攻も第二次侵攻も蟻だけだったみたいだけど、今回もそうとは限らないよな」
確かに虫だし飛ぶやつは多そうだ。日本は地底人からそういう情報を得てるのかね? それとも得ていても対応が追いついていない? 対空レールガンでダンゴムシが展開する前に落とせばいいという思考で止まってなければいいが……飛トカゲも結構速かったからな。大丈夫かな……
そしてそれから30分ほどが経過した頃、MHKのニュース速報のテロップがテレビの画面上部に流れた。
そこには『岩手県沖にて飛行型インセクトイド確認。避難指示継続注意』と書かれており、その瞬間SNSに空を覆うほどの何かが来ると書き込まれた。どうやらカレンの予想が当たってしまったようだ。
「ワタル……」
「マズイな……戦闘機にもレールガンは搭載しているらしいけど、命中率が低いらしい。遠距離攻撃ができる虫じゃなきゃいいけど……あとは数と速度だよな」
一番弱い飛行型魔物の飛トカゲでさえ時速300kmはあったと思う。虫ならもっと軽そうだから速そうだ。戦闘機は小回りが利かないし、高速飛行中にレールガンを撃って正確に当てられるほどの技術はまだ機体にもパイロットにも無いらしい。対空レールガン頼みになるだろうな。
岩手県に向かっているとなれば、三重県沖に落ちた奴らも本土に来るはずだ。三重県に上陸して東に行けば名古屋がある。そしてその次に人が多いのは神奈川。西に行けば奈良とこの大阪だ。神奈川には婆ちゃんが、大阪には俺たちがいる。もしも名古屋にインセクトイドが行けば神奈川に行くまで時間が掛かるだろう。その間に自衛隊が数を減らすはずだ。恐らく婆ちゃんは大丈夫だと思う。
でも奈良から大阪を目指して来たら?
俺の知らないところで知らない人間が死ぬのは仕方ないと思えるが、目の前で多くの人が殺されるのを黙って見てられるのか?
正直キツイな……でも手を出せば世界中から追われる。顔を隠しても現代の科学技術相手にどこまで隠せるか疑問だ。衛星もあるし街中にカメラがある。そのほか俺の知らないハイテク技術で特定するかもしれない。普通の犯罪者にはそこまでしなくても、魔法を使える俺たちには惜しみなくやるだろう。俺たちの力を手に入れるために。
そして俺とカレンは徹底的に利用されるだろう。英雄と持ち上げられその裏では解剖されて魔結晶を奪われる。奴隷兼モルモットだな。
なにより地底人も俺たちを放っておかないだろう。UFO程度なら大丈夫だろうが、地底人の兵器の能力を俺は知らない。もしかしたらかなり強力なものがあるかも知れない。なんたって何千年も地下世界で文明を築いてきたんだ。その可能性は高い。
地球の兵器程度ならどうとでもできるが、地底人は未知数だ。俺の知らない未知の力で捕まって同じく解剖されるかもしれない。嘘か本当かわからないが、UFOに光線を当てられて気を失ったって人がいたしな。そんなの怖すぎる。どうしたらそんな事になるのかまったく原理がわからないけど、宇宙を飛び回るほどの技術があるんだからそういうものが無いとは言い切れない。
やっぱりリスクは冒せないな。うん! 自衛隊ならやってくれる! 神奈川や大阪にインセクトイドがくるまでに殲滅してくれる! 頼むぜ自衛隊!
しかしそれから2時間後、俺の願いは儚くも打ち砕かれた。
《 MHKより緊急速報をお伝えします。三重県沿岸部にて迎撃戦作戦を行っていた、第一特殊機甲師団の第三連隊の防衛網を突破した飛行型インセクトイドが奈良方面へと向かっています。三重県内陸部と奈良及び大阪にお住いの皆様は外に出ないよう、またビルやマンションの上階に避難されている方は急ぎ地下へと避難してください。飛行型インセクトイドは高高度を飛行しており高い場所は危険です。急ぎお近くの地下シェルター及び、地下室のある建物へと避難してください 》
「こっちに来たか……」
「ワタル……」
大阪の方が人が多いからかな……空高く飛んでるだけあって、どこに一番エーテルがあるのかわかるのかもな。恐らく途中の少ないエーテルは無視して、真っ直ぐ大阪に来るんだろうな。
「カレン……逃げるか」
「…………」
俺がここから離れ目を瞑り耳を塞ぐことを提案すると、カレンは黙って俺の目を真っ直ぐ見つめた。
そんな目で俺を見るなよ……俺はお前と婆ちゃんたちを守りたいだけなんだよ。
俺はカレンから目を逸らし、テレビに視線を移した。テレビでは岩手県沿岸部の防衛線も飛行型インセクトイドに突破されたという報道がされていた。どうも岩手県沿岸部には推定3千から4千、三重県沿岸部には推定2千近くの飛行型インセクトイドがやってきたようだ。
そして海からはダンゴムシが日本を目指し、かなりの速度で泳いできているらしい。
やっぱ無傷だったか。大気圏突入する母船は頑丈だからな。
国営放送のMHKでは国民の不安を煽らないよう、海上自衛隊の艦艇が迎撃に出たと言うが、恐らく飛行型インセクトイドに沈められるだろうな。
戦闘機だって数の差はどうしようもない。命中精度も悪いためあまり減らせないだろう。
SNSもみんな大パニックだ。フェイスアップもツイスターも誰もが助けてくれと、体長1mほどのバッタの大群がやってくる。逃げる場所がないんだと。
投稿された物の中には、恐らく岩手県か三重県の人なのだろう。いま家の窓を破られて車の下に逃げ込んで、バッタのに車を食われてるという画像付きのつぶやきもあった。そこには二本の長い牙を生やした、バッタそっくりのインセクトイドが映し出されていた。その後その人物からのつぶやきは無かった。
大阪在住と名乗る人の動画投稿では、逃げる場所が無かったのか逃げ遅れたのか、マンションの中で小さい子供を抱えて映る女性が必死に自衛隊に助けを求めていた。早く助けにきてくださいと、身体が悪くて家を出られないんですと。子供だけでもお願いしますと泣きながら訴えていた。
俺は見ていられなくなってSNSを閉じた。
「ワタル……子供……」
俺の隣で動画を見ていたカレンが悲しそうな声でそう言った。
「そうだな……」
「あの時の私と……同じ……お母さんに守られてる」
「…………」
「ワタル……」
「…………」
「ワタルはあの時私を救っ「カレン……」」
俺はカレンの言葉を遮り、カレンの目を見つめた。
「カレン……もう映画や遊園地に行けなくなるかもしれない。カラオケもボーリングだってできなくなるかもしれない」
「ん……それでもいい……私はワタルと一緒にいられればどこにいても幸せ」
カレンは嬉しそうに俺の手を胸に抱いてそう言った。
「……日本から出なくちゃいけなくなるかもしれない。そしてずっと逃げ続けることになるかも」
「この星の色々なところにワタルと行ける……それも幸せ」
「婆ちゃんを人質に取られて、世界の国々と地底人と戦うことになるかもしれない」
「ワタルの家族を傷付けるなら……私が皆殺しにする」
カレンは殺気のこもる目でそう言った。
本当に皆殺しにしそうだ。
「そうか……でも地底人の能力や技術は未知数だ。俺たちより強いかもしれないぞ? 」
「あの程度の魔物と戦っている地底人……魔王より強いとは思えない」
「……確かにな。地球に兵士級がいるなら、月にはせいぜい百人隊長級か従者級程度だろうな。まだまだ侵攻の序盤てとこか」
数は多いがまだ先遣隊ってとこだろう。その程度のインセクトイドに手こずってるようじゃ、思ったより地底人もたいしたことないかもな。
「そう……よゆー」
カレンは自信たっぷりの目で俺にそう言って薄い笑みを浮かべた。
「ははは……余裕か……そうか、そうだな。子供は駄目だよな……子供だけは……」
「子供はお母さんと一緒にいるべき」
「そうだな……あの時俺がもっと強ければ……ごめんな」
あの時もっと早くカレンの住む家に辿り着いていれば……俺がもっと強ければカレンの母親を救えたかもしれない。
「ワタルは必死に戦った……お父さんと同じくらいカッコよかった……お母さんはあの時……もう手遅れだった……ワタルのせいじゃない……私はワタルに救われた……心も身体も……」
カレンはそう言って俺の胸に顔を埋め、俺を強く抱きしめた。
「そうか……なら今度は手遅れにならないようにしなきゃな」
知ってしまった。子を守る母親の存在を。
重ねてしまった。あの時オークの群れに襲われていたカレンと母親の姿と。
「ワタルなら戦うと思ってた」
「なんでだよ」
「勇者だから」
「よせよ。勇者はやめたんだ。もう世界を救うために戦わないと決めたんだ」
「でも戦おうとしている」
「それは……」
カレンのためだ。お前があの母子を自分と重ねたから……
そしてあの時、間に合わなかったことを後悔している自分のためでもある。
「ワタル……? 」
「自分のためだ。俺は自分のために戦う」
カレンの悲しい顔を見ないために、もう後悔しないように。
「そう……ワタル」
「なんだよ」
「好き……」
「そ、そうか……よし! そうと決まったら行くぞ! 『影空間』」
俺は胸もとで見つめるカレンの眼差しに恥ずかしくなり、カレンから離れて立ち上がり影空間を発動した。そしてスペアの黒く染めた龍革の鎧と、カレンと俺のマジックポーチを取り出した。
カレンは俺からマジックポーチを受け取り、龍革のライダースーツに着替えた後に俺へ革鎧を取り付けていった。そして俺たちはグレーのフード付きローブを身にまとった。
「これで口もとを布で覆い隠せばバレないかな? 」
「ワタル……いいのがある」
俺がカレンに着せてもらったローブ姿を角度を変えて鏡で見ていると、カレンがマジックテントの中から白とピンクの2つの仮面を持ってきた。それは地球でも有名な、頭と目が大きいグレイと呼ばれる宇宙人のお面だった。しかもなぜかピンクのお面の頭部にはリボンが付いており、目がとってもアニメチックにキラキラしていた。
「……これを付けるのか? 」
「宇宙人には宇宙人」
「白いのは確かにグレイっぽいけど、そのピンクのはむしろ戦隊モノのヒロインに見えるんだが……」
「かわいかった」
「ま、まあいいか。なかなかしっかりした造りだし、結界を張って戦うしな。外れないだろう」
俺はカレンがかわいい物が好きという意外な一面を見て言葉に詰まった。
そういえばアルガルータには美しいとか綺麗と言えるものはあっても、かわいいと言えるものは少なかったな。レースとかリボンとか花柄とかそんな物くらいだった。かわいいものは子供が身に付けるものって価値観だったしな。
日本にはかわいいと思えるものが多いんだろう。そう言えばゲームセンターのぬいぐるみを見ていたような……苦手だからやらなかったけど、今度アームキャッチャーで取ってやるかな。いくら掛かるかわからんが……
俺とカレンは仮面は付けず、フードを目深に被りマンションの玄関から非常階段で下へと降りた。そして建物の狭い間を選びながら走り抜け、数キロほど郊外に行った場所にあった工場へとやってきた。
そして仮面を被りカレンと向き合った。
「それじゃあ久々に暴れるか」
「私が全部撃ち落とす」
「俺の範囲魔法の方が早いだろ」
いくら連射ができると言っても、たった二丁の魔銃じゃ範囲魔法には敵わない。
「ん……これがある」
カレンはそう言って見覚えのある魔銃を取り出した。
「それはガンゾの魔導機関銃! まさかガンゾのマジックポーチを? 」
「ん、魔王のとこに落ちてた。エーテル結晶石も入ってた……らっきー」
カレンはそう言って大きな円状の、ドラム型弾倉の付いている魔導機関銃を両手で持って構えた。この魔導機関銃は俺のアイデアでドワーフに造らせた物を、ガンゾが改造した武器だ。大量の十人隊長級の豚顔の中鬼や、飛トカゲを一掃するために造ったものだ。
弾倉の中には30個の炎槍の魔結晶が装填されており、一度トリガーを引くとドラムが回転しながら30本の炎槍が次々と発射される。エーテル結晶石のカートリッジから魔法発動に必要なエーテルを取り出すので、魔銃と同じく使用者のエーテルは消費しない優れものだ。
しかしまさかガンゾのマジックポーチが落ちていたなんて……いや、ガンゾのことだ。重力球に呑み込まれる時にわざと落としたんだろう。貴重なエーテル結晶石の入っているマジックポーチを残された俺たちのためにと。
「そうか……それがあるなら数がいても楽勝だな。炎槍は着弾と同時に爆発するしな」
「ガンゾはいい仕事をした……私が受け継ぐ」
カレンは速度を犠牲にしなきゃいけないから、こういう重く取り回しの悪い武器は好まなかった。けどガンゾの遺したこの魔銃を使ってあげなきゃと思ったんだろう。
「とりあえず今はしまっておけ。それじゃあ全力で飛ぶぞ。『飛翔』 」
「ん……『飛翔』 」
俺とカレンは飛翔の魔結晶を発動させ、工場の裏手から一気に上空へと飛び立った。
さて、やると決まったのなら日本に上陸したインセクトイドを殲滅してやるよ。
絶対に身バレしないよう、一瞬で片付けて姿をくらましてやる。
待ってろよインセクトイド。俺とカレンを戦いに引きずり込んだことを後悔させてやる。
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