第10話 襲来
「ワタル着いた……早くする」
「へいへい」
「ここが聖地……」
「たこ焼き発祥の地な」
「お好み焼きも食べる」
「せっかく大阪の道頓堀に来たんだからカニ食いてえよ」
「たこ焼きとお好み焼きと串カツ食べたら行く」
「そんな入らねえよ! 」
俺は白いニット帽を目深に被り、ブラックジーンズに白いセーターと黒のチェスターコート姿のカレンに腕を引かれ電車から降りた。
新年を迎え少し落ち着いた頃。俺とカレンは大阪に来ていた。
年が明け婆ちゃんに新年のあいさつに行った時に、俺は保土ヶ谷から離れること伝えた。
婆ちゃんは前から話していたこともあり残念そうにしながらも、気をつけるんだよと何かあればすぐ連絡するんだよと言って送り出してくれた。
そして世間が仕事初めをしたタイミングで俺たちは保土ヶ谷を離れることにした。行き先は別にどこでも良かった。俺は九州の温泉でも行こうかなと思っていたんだけど、カレンが大阪に行きたいと言い出したので大阪に行くことにしたんだ。
そしてなんば駅に着くや否やカレンはスマホを手に持ち、ネットで調べたたこ焼きやお好み焼きの美味しいお店の地図を見ながら俺の手を引っ張って歩き出した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「おおー……聖地のたこ焼き……ワタル口開ける」
「熱っ! んほっ! た、確かに……うん、美味いな」
ネットの口コミで高評価のお店でたこ焼きを買い、店先にあるベンチに座ってカレンが串で刺したたこ焼きを食べたが美味かった。さすが発祥の地だけはある。
「ん……美味しい……幸せ」
俺に食べさせた後にカレンもたこ焼きを食べ、少し頬を緩ませ幸せそうにしている。
昨日から楽しみにしてたからな。本当に幸せそうだ。
「しっかし外国の観光客ばかりだな。まあ俺たちも観光客なんだけど」
俺は店先のベンチでたこ焼きをカレンに食べさせられながら、道行く人たちに外国人が多いことに気付きボソリと呟いた。
「肌が白くて髪が金の人族は違う国の人? 」
「ん? そうだけど黒くても外国人はいるよ。見た目だけで国を分けてるわけじゃないんだ。住んでる土地で分かれてるんだ」
「同じ人族なのに国がたくさん」
「人口が多いからな」
アルガルータのエルフはダークエルフを入れても数万人しかいなかった。一番数の多い獣人種でも百万人程度だ。最後の方はエルフの国もダークエルフの国も、数が減り過ぎてもう国の体をなしていなかった。俺が統一しちまえって何度言っても、お互いそれは嫌だとか言ってたしな。どこの世界でも肌の色による諍いはあるもんだなと思ったよ。
「確かに多い……エーテル保有量は少ないけど……魔物にとっては魅力的」
「そうだな……エルフの20分1以下でアルガルータの全種族平均の10分1以下ってとこか。でも数は何千倍もいるからな。そりゃ狙われるよな」
インセクトイドがエーテル体である以上、人間を殺せば少ないとはいえ人間の持つエーテルの一部を吸収できエーテル保有上限が増える。一匹で2千人殺せばエルフ100人殺したのと同じだ。しかも地球の人間はエーテルを使いこなせない。
パワードスーツ、日本では強化装甲服とも呼ぶが、これは装甲にどうも特殊な鉱石を使っているようでそれほど数は無い。中国やその他の国が蟻型のインセクトイドの甲殻で作った物を作っているらしいが、加工に苦労しているようだ。エーテルを纏わせた工具じゃないと確かに加工はキツイだろうな。
つまりインセクトイドにとっては、たいした抵抗を受けないでエーテル保有上限を増やせる良狩場なわけだ。
「ワタルの故郷……」
「カレンの故郷だって滅びたんだ……俺の故郷だけ例外なわけがない」
俺が弱かったから……俺はカレンの両親との思い出の詰まったあの土地と、両親の墓があるエルフの聖地を守れなかった。
「いい……私の居場所はワタルがいるところ……だからこのチキュウも私の居場所」
「カレン……」
「それに……滅びたらたこ焼き食べれなくなる」
「ぶっ! 材料は手に入りやすい物ばかりなんだし、自分で作ればいいだろ」
ほんとカレンとシリアスな雰囲気は続かねえな。照れ隠しなのはわかってはいるけどな。そんなところもかわいい子だよ。
「自分で……たこ焼き……ワタル材料買いに行く」
「え? 今からか!? まだインセクトイドが日本を滅ぼしたわけじゃないし、ゆっくり買い集めればいいじゃんか」
「駄目……何があるかわからない……早めに集める……行く……聖地なら良い材料ある」
「うえっ!? ちょ、まだ食べてる……お、おい! カレン! せめて水を! 」
俺は急かすカレンに引っ張られ、ベンチ横に置いてあったペットボトルを手に持ち立ち上がった。そしてスマホでたこ焼きの器材と材料を買える店を調べながら、どんどん進むカレンに引っ張られていくのだった。
こりゃ迂闊だったな。アルガルータでカレンのお気に入りのお店が、魔物の襲撃で何度も潰されたのを忘れてた。店主も魔物に殺されて二度と食べれなくなったんだった。その度にカレンは悲しそうな顔をしていた。それと同じことになると思って焦っているんだろう。
確かに小麦粉なんか輸入だから、日本は無事でも他国が壊滅したら手に入り難くはなるけどさ。今すぐどうこうなるわけでもないのに……どんだけたこ焼きが好きなんだよ。
その後たこ焼き用の鉄板と、冷凍タコに天かすや乾燥エビに小麦粉を大量に買い漁った。
カレンは上機嫌に、俺はこの量のたこ焼きを食わされるのかとゲッソリした顔で買い物を済ませ、買う度に路地裏に行き影空間に入れた。そして夕食をお好み焼き店で済ませ、カレンとお酒を飲み明日は遊園地に行こうと話したりした。
そしてほろ酔い気分のまま、予約しておいた駅から20分ほど離れた場所にある大通り沿いのウィークリーマンションの5階の部屋を借り、マンションの中でマジックテントを張ってその中で休んだ。
ヘタなホテルよりは住み心地がいいからな。もう俺とカレンの家のようなものだしこっちの方が落ち着く。ただ、ネットは有線で引っ張ってこないと使えないし、携帯の電波が入らないのが不便なんだよな。まあ対策としてインターネット回線が繋がっている部屋を借りて、長いコードでマジックテント内に引っ張ってきているからネットは使える。旅の間は問題ないだろう。携帯の電波は諦める。連絡してくる人は少ないしな。
カレンはリビングに入って俺を部屋着に着替えさせたあと、自分も帽子を脱いで部屋着のワンピースに着替えた。そしてソファに寝転がりながら、早速カレン用に買ってあげたノートパソコンを開いて明日行く遊園地とその周辺にあるお店を調べていた。
俺は冷蔵庫からスポーツドリンクを出して隣で飲みながら、カレンの見ているページを見てため息が出た。
遊園地に行ってもたこ焼きかよ……
そして夜も更け眠くなってきたので2人で風呂に入った。風呂ではいつも通りカレンに身体と頭を洗ってもらい、元気になった俺のムスコをカレンの乳と口でスッキリさせてもらってから風呂を出た。
カレンに身体を拭いてもらい着替えさせてもらったあとは、リビングで少し休んでからベッドへと入った。するとカレンがナース姿で現れ、診察の時間ですと言ってベッドルームに入ってきた。
俺はネットで買った短めのナース服から伸びるカレンの長い足と、胸のボタンを外して谷間を覗かせている姿にすぐに股間が元気になった。そしてそのままナースと欲求不満の患者ごっこをして、カレンの中で俺の元気棒を触診してもらった。
カレンは看護師として俺の世話をするのが楽しかったらしく、いつのまにか俺は両腕を骨折した患者ということになり、ベッドに両腕を縛られてカレンに乗られとことん搾り取られた。
そして翌朝。カレンのおかげで身体が怠い俺は、カレンに遊園地は昼以降から夜遅くまで遊んだ方が楽しいと説得して、昨夜気を失って飲めなかったエルフの調合した精力回復薬を飲んでベッドで昼近くまで寝た。
この回復薬はアルガルータでカレンに搾り取られ、ゲッソリしていた俺を憐れに思ったダークエルフの王がくれたものだ。ダークエルフの女性もなかなかに積極的らしく、王室に古くから伝わる薬らしい。子供ができにくいなりにバランス取ってるんだなと思ったよ。
俺はそんなダークエロフも口説いてハーレムを作るつもりだったから、王から精力回復薬を大量にもらった。しかしカレンにそれも阻止され、今となってはカレン対策用の薬となっている。よく考えたらカレンもダークエルフの血を引いてたんだったよ。
ベッドでやつれている俺を見てカレンもやり過ぎたと思ったのか、飲み物を持ってきてくれたあとに隣でずっと添い寝をしていた。
昼になり身体が回復した俺はベッドから出て、カレンの作った朝食を食べた。そして外着をカレンに着せてもらった。そして隣でジーンズを履き黒いセーターに着替えているカレンを横目に、俺はカレンのノートパソコンで遊園地までの道順を調べることにした。
ところがパソコンを開き検索サイトにアクセスしたところで、サイトの一番上に避難指示発動とデカデカと表示されたのを見て俺は災害か? とその詳細を開いて読み、こりゃ大変だと急いでパソコンを閉じてカレンに声を掛けた。
「カレン! テントを出るぞ! 」
「?」
「インセクトイドだ! 地球にやってくる! 」
「!? わかった」
俺はカレンを連れて急いでマジックテントから出た。すると電波が届いたのか俺とカレンの携帯から一斉にアラートが鳴った。スマホの画面には先ほど見たのと同じく、避難指示発動と表示されていた。詳細を開くと同じく大量のダンゴムシ型インセクトイドが地球に迫っており、国民は最寄りの地下鉄または地下街、頑丈な建物の上階へ避難するようにと書かれていた。避難指示というのは、政府や市町村が発するほぼ命令と認識していいほどの最上位の警報だ。それだけ危機が迫っているということなのだろう。
俺はすぐに部屋のテレビをつけ、同時にスマホとパソコンで情報収集を行った。
部屋から外を見ると大通りは車でごった返しており、しかし車には人が乗っていなかった。恐らく車を捨てたのだろう。駅方面へともの凄い数の人の波ができていた。
テレビとネットによると、この避難指示は早朝の4時に発動されたらしい。火星方面から第一次侵攻の際の数倍のインセクトイドが、地球に迫っているとエルサリオン所属の地底人から連絡があったそうだ。それと同時に地球の周囲を回っている探査衛星や各国の宇宙観測機関がその存在を確認した時には、地球へあと10時間で到達する距離に迫っていたそうだ。
確か第二次侵攻の時もそんなに時間が無かったとテレビで言っていた。エーテル体だから発見しにくかったのかもな。いつ来るかわからないのはアルガルータと同じか……
そして発見からすぐに南極及び日本や世界各国から、地底人が大型の円盤型やコマのような形の宇宙船で宇宙へと飛び立ったそうだ。しかし地球に迫るインセクトイドの数は減っていないらしい。
ネットでは恐らく月に行ったのだろうとか、地球は見放されたのだという意見で分かれ荒れていた。エルサリオンてとこからわざわざ連絡が来たんだ。恐らく月で地底人が戦ってるんだろう。その増援に行った可能性が高いな。
10時間……あと1時間しかない。
地球のどこに上陸するかはどの機関もまだ読めないようだ。第二次侵攻の時も大気圏に突入するまで上陸する場所は分からなかったらしく、それでもかなりズレたらしい。ダンゴムシが生物だからうまく質量を計算できないのかもな。
「これは日本に来るかどうかわかんないな」
「ニホンに落ちないかもしれない? 」
「わからん。ダンゴムシがいくつかのグループで固まっているらしくて、正確な数もまだ掴めてないみたいだしな。第一次侵攻の時が10体だろ? んで第二次が6体。数倍ってんだから30体くらいか? う〜ん……やっぱ日本にも来そうだよな」
30もいれば1体は来そうだよな。気になるのは第一次侵攻の時の討ち漏らしが、まだ北海道に潜伏してる可能性だよな。エーテルを発してるから仲間を呼ぶ可能性が無きにしろあらずなんだよな。ダンゴムシ自体は地上で飛べないみたいだから、大気圏からそんな微調整できるとも思えないが……
だけど大気圏に入る前から、仲間のいるところを目指しているとなれば話は別だ。前回は数が少ないからか日本には来なかったが、今回は多い。北海道を目指してズレて東北や関東に落ちてくる可能性もある。できれば海に落ちて欲しいけど。
「どこに落ちるかわからない……電車も全て止まってる」
「地下鉄は今から行っても定員オーバーだろ。どの地下鉄の入口も定員になって、次々と閉鎖されているみたいだ。こりゃ大阪と神奈川に落ちないよう祈るしかないな」
婆ちゃんが心配だが、家のすぐ近くに地下鉄の入口があるから避難しているはずだ。年寄りは朝が早いしな。
俺は念のため携帯で連絡してみたが、回線がパンクしているのか繋がらなかった。次にホテルの固定電話から婆ちゃんの自宅に掛けたが誰も出なかった。俺は家にいないということは避難しているだろうと考えるようにして、念のため婆ちゃんとあらかじめ連絡を取り合うための災害掲示板に電話をした。すると婆ちゃんからのメッセージがそこにあった。
婆ちゃんは無事地下鉄に避難したらしく、俺の安否を心配していた。婆ちゃんの家族とは連絡が取れたが俺だけ取れなかったそうだ。俺は申し訳ないと思いつつ婆ちゃんあてに安全な場所に避難したとメッセージを残して電話を切った。
本当なら神奈川に帰りたいが、交通機関は全て止まっている。駅も飛行場も全て緊急避難場所となっているからだ。
「カレン、婆ちゃん無事だってさ。災害掲示板にメッセージがあったよ。俺たちも安全な場所に避難して無事だって伝言残しておいた」
「よかった……」
カレンはホッとしたようだ。料理とか色々教わっていたからな。俺の小さい頃の話とかもしていて盛り上がっていたし。内容は知りたくないが。
「さて、これでインセクトイドが日本に落ちてこなければ完璧だな」
「落ちてきたらワタルどうするの? 」
「……それは自衛隊の仕事だな。手を出せば世界中から追われるからな」
ここはアルガルータじゃない。高校の時は気にもしなかったが、もしも俺とカレンの能力が世界に知られたらどうなるか不安だったこともあり、ここ3ヶ月の間に歴史や世界情勢ってのを俺も勉強した。それはもう書籍やらネットやらM-tubeやらを見まくった。
それでわかったことは、日本の弱さだった。
まず俺が地球にいた時から既に日本は中国に浸透されていた。そしてアメリカの言いなりでもあった。インセクトイドの第一次侵攻を機にまともな政権が生まれ、国民がまとまり中国の影響力を排除したそうだが、アメリカの影響力は排除しきれていない。
防衛力と諸外国の影響力は高まったらしいが、依然アメリカの属国のままであることは変わりが無かった。
その証拠に第一次侵攻時に同盟国の日本を見捨てて撤退した米軍が、同盟国面してまだ日本に駐留している。どうも東北の一部の米軍部隊が命令を無視して日本に留まったことを、アメリカの命令で残ったことにしたらしい。そんな事を日本人は誰も信じていないが、アメリカがそうと言えばそうなってしまう。そういう国なんだとさ。
そんな弱っちい日本が対エーテル体に対して効果的な力を持つ俺たちを守れるはずもなく、恐らく不法入国を理由にカレンを逮捕拘束してその後にアメリカに引き渡すだろう。よしんば日本に残れても、アメリカの科学者により解剖される可能性大だ。そのうえ最前線で戦わされるだろう。政府の政治の駒として外国にも戦いに行かされるかもしれない。
そんなの冗談じゃない!
俺とカレンは世界の奴隷になるつもりなど微塵もない。
そんな物になるくらいなら世界と戦ってでも逃げ続けてやる。兵士級と思われるインセクトイドが、核にある程度耐えたんだ。俺とカレンの結界なら余裕だろう。人型を殺すのに今さら躊躇いはない。小鬼も中鬼も吸血鬼だって人型だった。それに魔物との戦いを邪魔するエルフの貴族とその兵士をもう何人も殺している。そう、今さらだ。
だけどできれば見つかりたくない。婆ちゃんと平沢に小長谷に迷惑が掛かる。いや、死なせてしまうかもしれない。そういうことを平気でやるのが国家だ。だから俺たちの能力は知られるわけにはいかない。
「そう……」
「地球には悪い奴がいっぱいいるんだ。エルフの貴族や鼠獣人なんて足元にも及ばないようなやつがな。そいつらに利用されるくら……ん? なんだ? 」
俺が何かを言いたげなカレンへ地球の人間の悪意の怖さを説明していると、マンションの外から人の叫び声が聞こえてきた。それを聞いた俺はカレンと共にベランダに出て、声のする道路へと視線を向けた。すると道路を歩いていた人たちが一斉に空を見上げ、そして指をさしてなにやら叫んでいる姿が目に映った。
俺とカレンがそれに釣られ彼らの指差す方向を見ると、そこにはオレンジの光に包まれ、赤と白が混ざったような尾を引いてゆっくり横切っていく20以上はある物体が見えた。それはまるで隕石のようであったが、このタイミングでこの数の隕石など落ちてくるはずもなく、俺は一瞬でこれはインセクトイドだと確信した。
そしてそのうちの三つは非常に大きく、まるで日本を目指しているかのように見えた。
「おいおい……まさか日本に落ちたりしないよな? 」
「ん……エーテルがどんどん大きくなっている」
「うがあぁぁぁ! なんでこ日本にくんだよ! マジでついてねぇ! 」
俺はカレンの言葉通りにどんどん大きくなるエーテルの存在を感じ、この狭い日本列島に三体も来るなんてと頭を搔きむしりながら叫んでいた。
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