第9話 予兆


 12月のクリスマスを目前としたある日。

 俺とカレンはいつものように横浜へとデートに来ていた。


 昨日は横浜の遊園地に行ってカレンと遊びまくった。ジェットコースターでカレンの帽子が飛びそうになったのは焦ったけど。


 カレンの美しさに周囲の目線を頻繁に感じてはいたが、気にしたら楽しめないと思い思いっきり遊んだ。俺はカレンから感じる楽しげな雰囲気の方を大切にしたかったからだ。


 デートの日の夜はファッションホテルに泊まり、ガラス張りのお風呂でカレンがシャワーを浴びるのを覗いて凄く楽しかった。寝る時もカレンはあの映画のここが何を言ってるかわからなかったとか、あの乗り物は物足りなかったとかいつもより口数が多く楽しげだった。


 日本に戻ってきて初めてデートらしいことを、しかも毎日のようにできて嬉しいんだろうな。俺もカレンに俺の生まれ育った国を紹介できて、それを楽しんでもらえて嬉しかった。

 なにより戦ってばかりいた俺たちにとって、この休息は心安らげるものだった。


 これでインセクトイドがいなきゃ最高なんだけどな。あと俺に惚れてくれる美人がもう1人でもいれば言うことなしだ。それは無理か。




「ワタル……金たこ食べる」


「またかよ。この間食い過ぎて金たこがお昼ご飯になっちゃったじゃん」


 俺が昨日のことを考えていると、カレンがお腹が減ったのかたこ焼きのチェーン店である『金たこ』を食べたいとまた言い出した。2週間前に初めて食べてからというもの、カレンはこのたこ焼きにどっぷりハマっていた。


 しかしさすがに外に出る度に食ってたら飽きるし、カレンは頼み過ぎる。

 全種類頼むとか勘弁して欲しい。


「美味しいから仕方ない」


「別に俺も嫌いじゃないけど、こうしょっちゅう食ってよく飽きないな」


「大丈夫……ワタルに飽きることなんてない」


「どういう意味だよ! 」


 たこ焼きと同列にされた!?

 確かに毎晩俺の金のたこ焼きとソーセージがカレンに喰われてるけど!


「噛めば噛むほど味が出る」


「俺はスルメかよ! 」


「本当に好きな物は飽きないという意味」


 カレンは抱えていた俺の腕をに力を入れて上目遣いでそう言った。


「ぐっ……なんか言いくるめられた感が……」


「ワタルはわたしに飽きた? 」


「それはないな」


 カレンに飽きるとかあり得ないな。超絶美人だし可愛いし、性格もいいし理想のスタイルだしテクニックもハンパない。そのうえ地球に来てからは、俺がネットで買い漁ったいろんなコスチュームを着てくれるし。飽きるとかあり得ない。


「でもアルガルータの時もニホンでもほかの女の尻についていく」


「本能だからな」


 そこに愛はないのだよ。

 言うなれば視界コレクション的なものなのだよ。


「……獣王に似てる」


「ぶっ! アイツと一緒にすんな! 俺はあんな強引なオラオラ系じゃねえから! 相思相愛のハーレムが理想だから! 」


 あんな気に入った女に強引に迫って手篭めにするようなクソ野郎と一緒にすんな!

 アイツは俺が狙ってた猫獣人の子を側室にした敵だ!


 まあカレンを口説こうとした時に、カレンに股間と四肢を消し炭にされたのを見てスッキリしたけどな。あれ以降アイツはカレンの前では獅子なのに怯えた猫のようになってた。ざまぁ。


 俺はお互い愛し合うラブラブなハーレムが作りたかったんだ。獣王とは違う。

 結局作れなかったけど。


「色んな女とやりたいとこは同じ……男だから仕方ない……強い男は多くの子を作るべきだけどワタルは情が厚いから心配……変な女に利用される」


「ぐっ……き、気を付ける……み、見てるだけだから」


 クッ……確かに後から貴族のハニートラップだと知った時には、カレンには頭が上がらなかった。あの時は最後までしなくて正解だった。


 俺を本当に好きだと言ってくれるのはカレンだけだったのかも。いや、リーゼリットやシリルは俺に間違いなく気があった。リーゼリットは王女だったし、シリルは農家の子だ。貴族と違い俺の力を手に入れようとする動機が無かった。絶対俺に惚れてたはず。


「知らない方が幸せなこともある」


「え? なに? ど、どういう意味だよ……」


 な、なんだ? カレンは何を知ってるんだ?


「なんでもない……ワタルには私しかいない……ほかの女の尻を追い掛けてもいい……私がワタルを守る……私だけは死んでもワタルの側にいるおけ? 」


「お、おう……」


 俺だってカレンを今度こそは死んでも守るさ。口に出して言えないけど。


「なら金たこ食べる」


「結局食うのかよ……しょうがねえなあ」


「ワタルは私のしたいことは全部叶えてくれる……好き」


「……俺は女の子には優しいんだよ」


 俺はカレンの言いなりになってるわけじゃないと抵抗しつつも、結局カレンの言う通り横浜駅のたこ焼き店『金たこ』へと向かうのだった。


《 おい! あの子が来たぞ! 言った通りだろ? ここにいれば会えるって 》


《 本当だ……SNSの写も良かったけど、実物は段違いだな……あの胸と脚……たまんねえ 》


《 またあんなフツメンといちゃついてやがる。なんであんなのと…… 》


《 来たわ! お姉様よ! ああ……背が高くてクールなお顔……カッコいいわ 》


《 あの男の子邪魔ね……離れないかしら? 》


《 今日こそお声が聞けるかも……私たちも並びましょう! 》



 ちっ……だいぶ人が増えてきたな。これ以上目立つと警察の目にとまりやすくなる。

 日本に戻ってきて2ヶ月近くか……ここらが潮時かな。


 俺は後ろに並ぶスマホを手に持つ人たちを見て、そろそろ横浜を離れる時が来たようだと感じていた。









 ーー 霞ヶ関 総理官邸 会議室 内閣総理大臣 佐藤 義人 ーー





「揃ったようですね。では南極連絡所からの重大な報告について説明を。外務大臣」


「はい。本日日本時間で4時頃。南極大陸中心部のホールよりUFO……彼らで言う所の航宙汎用機が現れ、電波を使った通信を我が国とアメリカの連絡所へと送ってきました。発信元は、地下世界アガルタのエルサリオン共和国地上世界対策庁の長官名義でした」


《 外交員からではなく長官からか…… 》


《 これは我々が集められるわけですね 》


《 まさか3年前の…… 》


 エルサリオンの長官名義ということで皆動揺しているようだ。

 無理もないな。3年前のインセクトイドによる第2次侵攻も長官名義での警告があった。

 幾人かは青ざめていることから、その可能性に気付いているようだ。私も今朝聞いた時は血の気が失せたほどだ。


「はい、長官名義です。内容はインセクトイドの大群が火星から月へと向かっており、地上の人間は注意されたしとのこと。今回は過去に類を見ないほどの規模だそうです」


《 そ、それは第1次侵攻のようなことが起こるということですか!? 》


《 い、いつ月にインセクトイドがくるのだ!? 月で対応できるのか!? 》


《 3年前の前回は小規模だったのになぜ…… 》


《 大臣! 日本に上陸する可能性は!? 》


 大臣がインセクトイドの大規模侵攻の予兆を告げると、会議室にいる閣僚は大騒ぎとなった。無理もあるまい。我々の技術では火星に巣を作っている奴らの動向は感知できない。月と火星に放った探査衛星はことごとく落とされている。アガルタの情報だけが頼りだ。


 そしてインセクトイドの地球上陸を阻止できるかどうかも、アガルタの軍が月で抑えきれるかどうかに掛かっている。



 インセクトイド……8年前に突如として地球に上陸した昆虫型異星人。

 彼らはユーラシア大陸、北アメリカ大陸、アフリカ大陸、そして北海道へと上陸し、人の多く集まる都市へと侵攻し我々人間を襲い始めた。


 中国とロシアは主要都市を瞬く間に蹂躙され、やむなく核を放った。まだ避難をしている最中の国民ごと……苦肉の策だったのであろう。小を見捨てて大を生かす。多くの国民を守るために苦渋の決断をしたに違いない。


 しかし核でさえインセクトイドは止められなかった。

 彼らの甲殻は熱や衝撃に非常に強く、そして呼吸を必要としていない。核でも上陸した5分1も殲滅できなかった。その事実に我が国とアメリカ、欧州各国は中国とロシアを必死に止めた。このままではインセクトイドを殲滅できても、核による地球の環境変化で人類は滅ぶと。


 中露もリスクに見合うリターンが得られなかったこと、中東の国々がインセクトイドの侵攻を止めるために、中露領内に核を放ってくるかもしれない危険性を諭され核攻撃を中断した。


 その代わり国際条約で禁止されている高高度からのクラスター爆弾や、その他の大量破壊兵器の使用を容認させられた。しかしそのどれもがインセクトイドの足止め程度の効果しかなかった。


 インセクトイドには熱や物理によっての攻撃は、その生命活動を停止させるほどの効果がなかった。


 北海道も酷かった。恐らくユーラシア大陸に上陸する予定だったインセクトイドの母船が、北海道の北西部に着陸したのだろう。その後は名寄市、士別市、深川市と各街を蹂躙しながら南下し、札幌へと迫っていた。日本は初動に失敗した。


 当時の政権は中国の走狗だったからだ。ゆえに北海道に浸透していた多くの中国人の救出を自衛隊に優先させた。自国民よりも他国民を優先したのだ。


 それにより自衛隊は早期に戦力を集中し迎撃態勢を整えることに失敗した。そして多くの国民と自衛隊員の犠牲を出し、札幌をインセクトイドに蹂躙されることになった。今後百年は語り継がれるほどの自由国民党の失策だった。


 そしてパニックになった政権は北海道とその土地の国民を捨て、青函トンネルの封鎖を試みた。これは当時野党であった我々も、もはやそうするしかないと思えるほど追い込まれていた。


 米軍? 彼らは同盟国の日本を捨て、自国を守るために家族を連れ撤退した。命令違反をし、最後まで残ってくれた東北の一部の部隊を除きだが……今思えばこのことが日本国民に、自分の身は自分で守るべきと目覚めさせたキッカケだった。それ以降国防費は5倍となり、その命を懸けて最後の一兵まで戦い、市民の盾となり散った自衛隊への国民のイメージは過去に類を見ないほどに向上した。


 危機が迫らないと気付かない日本人らしいと言えば日本人らしいな。


 そして航空自衛隊による空爆と、海上自衛隊による函館、室蘭からの住民救助作戦と並行して青函トンネルを封鎖作戦の準備を行なっている時だった。突如東京の高尾山や秋田や岩手の山々から全長数百メートルの大型のUFOらしき物が現れ、北海道へと信じられない速度で向かっていった。そして札幌の上空で停止し、UFOの中から3mほどの人型の物体がおよそ300体ほど飛び出してきて街へと飛んでいった。


 その物体は両腕と両足にロボットのような白い装甲を四肢にまとい、背には2~3対の翼を生やし自由自在に飛び回っていた。装甲を装着していない部分には人間と同じ大きさの胴があり、褐色の肌の顔はヘルムとバイザーに隠され鼻から下しか見えなかったが人間そっくりであった。


 一瞬日本の企業が隠れて開発していた機体かと漫画のようなことを考えたが、あまりにも現代科学とかけ離れている技術にそのようなことがあり得るはずもないと頭を振った。


 彼らが何者なのかがわからないまま、我々はインセクトイドを次々と殲滅していく彼らの圧倒的な武力を見ていることしかできなかった。


 そう、圧倒的だった。彼らは無傷で3000はいたインセクトイドを殲滅し、北へと飛び立ちインセクトイドの母船を破壊回収して去っていった。そしてこれは世界中で同時に行われていた出来事であった。


 そしてその後、当時の政権が責任を問われ解散した。それから総選挙にて国民の熱い期待を得て、野党であった我々『桜の木』党を筆頭とする連立政権が誕生した。


 我々は二度と同じ過ちを繰り返さないよう、国会議員とその後援会の外国企業との接触を厳しく監視する制度を作った。外国勢力に呑み込まれてた多くのテレビ局やメディアは反対一色で、多くの妨害を受けたがそれ以上に国民がSNSを通して味方してくれた。各局の前で大規模デモを起こすほどにだ。


 そして国民の後押しもあり、反日放送ばかり行っていたMHK局を完全に国営化した。ほかの民放は外国からの支援を受けていたことが発覚し、国民からの信頼を失い一部の局を残し自滅していった。Webを通して国民の意見を集める機関も設立した。大事な法案は必ず国民の直接の意見を聞いて通すようにもした。


 そしてインセクトイドと名付けた、昆虫型異星人の第一次侵攻から半年と少しほど経過し、各国政府機関とメディアが世界を救ってくれた謎のUFOを探していたその時。


 我が国とアメリカの南極の観測所に小型のUFOが現れ我々と接触をしてきた。

 彼らは姿を表すことはなかったが、電波を使った通信で日本語と英語でインセクトイドと戦うために必要なあらゆる技術を我々に与えてくれると約束してくれた。そしてインセクトイドの情報も開示してくれたのだった。


 その後も彼らとの通信は、度々行うことができた。驚くことに彼らは4000年以上前から月に基地を作り、火星を監視しつつインセクトイドを警戒していたそうだ。4000年以前は彼らが宇宙でインセクトイドと戦えるほどになるまでの技術は無く、過去何度もこの地球の古代文明はインセクトイドに滅ぼされていたそうだ。それを聞いた時にはあまりの衝撃に声も出なかったことを今でも覚えている。


 インセクトイドは数千年置きに、火星を拠点として定期的にこの地球にやってくるそうだ。その周期はバラバラで予想できないとも言っていた。そして100年ほど前からインセクトイドが火星に集まってきた。それから50年後、インセクトイドは地球へと侵攻を開始した。現在アガルタは特殊な技術でインセクトイドを月へと誘導し、月で防衛戦を行なっているそうだ。地球に降り立ったインセクトイドは、月に誘導しきれなかった個体が行ったのであろうということであった。


 アガルタにとってもインセクトイドとの戦闘は今の世代では初めてのようだった。4000年以上前の侵攻では、地球の地上で地下世界へ来させないよう遅延戦闘を行いつつ、その数の多さに最後は地下に撤退していたそうだ。


 アガルタの住人たちはこれまで地上の人間との接触は避けてきたそうだが、地上の人間の人口が過去類を見ないほどに増えていることから、恐らく多くのインセクトイドが上陸すると予想したそうだ。そしてそうなればアガルタがインセクトイドに見つかる可能性があると判断した。よって地上の人間に技術を提供し戦ってもらうことにしたようだ。


 彼らはかなり慎重に我々に接触してきていた。本当は技術を渡したくないのであろう。

 これまで地球との接触を避けてきたのは、恐らく過去に地上の古代文明とアガルタの間で何かがあったのだろうということが容易に想像できた。


 しかしなぜ日本とアメリカに接触してきたのかは教えてくれなかったそうだ。ただ、意外なところからその理由らしき情報が出てきた。


 それは皇室だ。陛下がおっしゃるには、どうもアガルタと皇室は過去に関わりがあったようだ。それ以上は何もお話にならなかったが、彼らが月にいるということである童話を思い出し、夢物語ではあるがそういうことなのだろうと理解することにした。


 彼らは我々に安定した核融合技術とレールガンの小型化技術に、信じられないほどの大容量の蓄電池技術とその素材を提供してくれた。そしてインセクトイドにはプラズマによる攻撃が有効であることも教えてくれた。そのうえ月にある資源と、どことは教えてはくれなかったが軽くて熱に強くそして硬い物質をその加工技術と共に日本とアメリカに定期的に提供してくれている。彼らはこの物質をアダマント鉱石と呼んでいた。


 このアダマント鉱石は日本は高尾山に、アメリカはネバダ州のエリア51と呼ばれている地域に定期的にUFOにより運び込まれている。


 我が国はこの事をアメリカの強烈な反対と経済制裁の脅しに負けることなく世界に公表し、あらゆる国にその技術を伝えた。私も何度も暗殺されそうになったが、なんとかやり遂げた。おかげで家族や閣僚たちには不自由を強いることとなってしまった。


 資源は数が限られているため全ての国には行き渡らせられなかったが、そこはアメリカも世界中から叩かれることを恐れ提供することになった。

 現在はアメリカからあらゆる経済的な嫌がらせを受けているが、その他の国々が我が国を支えてくれている。特に東南アジアと台湾。それに中東諸国とは親密な関係を築いている。


 ただし、これらの兵器を戦争に使用する場合は供給をやめる。それは中国にもロシアにも言い聞かせている。


 それでも次にアメリカに逆らえば命はないだろう。いや、未だ厚顔無恥にも駐留している横須賀の米軍に、インセクトイドの襲撃のドサクサに日本は再占拠される可能性もある。

 中露はアメリカの裏取引に乗るだろうな。我が国がそうなった時にアガルタが変わらず資源を提供してくれるかはわからないが……


 そして次のインセクトイドの襲撃に備えて、各国はこぞって宇宙船開発を行っている。我が国も宇宙自衛隊を組織し宇宙船の完成も間近だ。アメリカは既にいつでも宇宙に宇宙船を打ち上げられる。しかし1隻2隻程度の数とレールガン程度の火力では戦闘の邪魔だとアガルタに止められているようだ。


 確かにアガルタの持つ武器はレールガンとは違った物だった。それが何かはわからないが、2mほどの銃のようなものから放たれる緑色のあの塊は複数のインセクトイドを一撃で仕留めていた。


 戦車に搭載した大型のレールガンでも一体ずつがせいぜいだ。強化装甲兵でも2発は撃ち込まないと動きを止められない。恐らくあの緑の砲は威力も格段に高いのだろう。アレがなんなのかはわからない。あの武器さえ手に入れられれば我々人類もインセクトイドと宇宙で戦えるのだが……


 しかしそれでも8年前に比べれば我々はインセクトイドと戦えるほどの軍備を手に入れた。今の日本はかつて類を見ないほどに、公民が一体となりインセクトイドに対抗しようと協力し合っている。地下鉄には分厚い防壁を作り、ブロックごとに封鎖できるよう政府負担で工事をさせ即席のシェルターとした。地方の農村部用に自衛隊も救助用の大型ヘリも大幅に増員増産した。新しく建設する大型マンションの地下に避難シェルターを作らせる法案も通した。


 各家庭でシェルターを作る補助金も捻出した。これは我が国の企業が格安のシェルターを開発したことで、現在世界中から受注が来ている。政府は建築国債を発行し、土建業は常に人手不足で失業率は激減した。海外と北海道の被害映像が流れる度に、国民は虫に喰われたくないと皆が思った。その想いが国民を能動的にさせたのだ。


 日本は強い。一度同じ方向を国民が向けば、どの国にも負けない団結力を発揮する。我々はもう二度と北海道のような犠牲を出さない。そのためには今回のアガルタからの情報に完璧に対処する必要がある。




「静かにしてください。動揺するのも無理はありません。現在JAXSAとNASAにて全力で月と火星方面を監視しています。日本は大陸に比べ小さい。またインセクトイドが上陸したとしても今度こそは対処ができます。我々はもう8年前の我々とはもう違うのです」


《 た、確かにあの時とは違う。我々にはレールガンを搭載した戦車も三九式強化装甲服もある。新型の対空レールガンもだ 》


《 そうだ! 自衛隊は3年前にオーストラリアへ上陸したインセクトイドの殲滅に多大な貢献をした! 万が一日本にあの蟻擬きがまた来ようとも対応できる! 》


《 主要都市の地下鉄はもう間も無くシェルター化できます。先に避難した国民が各ブロックごとに定員になり次第、強固な防護壁が降りていきます。避難さえスムーズに行えれば問題ありません 》


《 地方も自衛隊と大型救助ヘリの増強が完了しています。あれほど人員不足だった自衛隊が、募集枠を大幅に増やしたにもかかわらず倍率50倍です。これもサクのおかげですかな。ハハハハハ! 》


「ははは。最初六菱から提案された時には大笑いしてしまいましたが、あれほど国民に受け入れられるとは。サク改の開発も順調なようですし、あの時サクを採用して正解でしたね」


 またかアニメのロボットを強化装甲服のデザインに採用するとはな。私も若い時に見ていたから思わず本気か!? と笑ってしまった。


 結局は国民が勝手に行ったネット投票の後押しもあり、採用せざるを得なくなってしまった。重要なのは見た目ではなく性能だ。それがクリアできているのならば問題ない。

 まあ私はサクよりもガンドムの方が好きなのだが……


「確かに。我々は防衛大臣の熱意に負けましたが、あの時採用して良かったです」


 官房長官が苦笑いでそう言うと、防衛大臣は頭をかきながら恥ずかしそうにしていた。それを見た閣僚と各省庁の事務次官たちはクスクスと笑い始め、会議室は笑いに包まれた。

 そして次はガンドムにしましょうとか、その前にタンクを作らないと国民の反発がと話が膨らみ一旦休憩を挟むはめになってしまった。



 インセクトイドの大規模侵攻……第一次侵攻の時の規模なのか、それともそれ以上なのか。それがわかる時は月でアガルタが戦った結果次第。


 月は近い……果たして我々は対応しきれるのだろうか?


 もしも上陸を許した時は、新型対空レールガンと増産した戦車とサクの力を信じるしかない。


 国民に犠牲が出ないことを願って。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る