第3話 街
「……ワタル溜まってた……残りは夜……ワタルはどの種族よりもえっちだから……毎日搾らないと……」
「そうですね……」
俺はカレンと風呂から出てリビングで一休みしてから、地球でも違和感の無い服装に着替えてテントを出た。
そしてマジックテントに再度エーテルを流して元の箱に戻している時に、カレンがまるで牛の搾乳をするかのようなセリフを呟いた。そんなセリフを聞いても、カレンに搾り取られたばかりの俺は言い返す気力がなくなっていた。
「……ん、やっぱりもう1人必要……アルガルータはロクな女がいなかった……残念」
「くっ……お前がそれを言うのか……」
ことごとく駄目出ししたくせに! 魔銃を突き付けて追い返したこともあるくせに!
「弱い女だとワタルの足手まといになる……ワタルは優しすぎるから絶対に見捨てない……その女のために死ぬかもしれない……そうなったら私も死ぬ……私の命がかかってるから妥協はない」
「ぐっ……そ、それは……」
確かに好きになった女の子を見捨てるなんてできねえよなぁ。
俺はカレンの真剣な眼差しに返す言葉が見つからなかった。
「私も最初は弱かった……お父さんに技術は教わっていた……けどあの時怖くて動けなかった……私はワタルに助けられてワタルに支えられて……だから強くなろうとした……ワタルを失わないために……そういう女ならいい……でもワタルに近づく女はそういう気概がなかった……」
「そりゃカレンと比べればな……俺が声を掛けた子はおとなしい子が多かったし」
俺がハーレムに入れようとした子は、カレンを差別せず優しくてスタイルが良くて俺を甘やかしてくれそうな子ばかりだった。確かに皆戦闘向きの子じゃなかったな。
アルガルータは末期世界だ。後方の家で留守番をしていてもらったとしても、突然空から魔物が降ってくる可能性もある。絶対に安全な場所など無かった。
だから俺はカレンと同じようにその子たちを強くするつもりだったけど、カレンは自分ほど強くはなれないと判断したってことなのだろう。
確かに両親を失ったショックから立ち直ってからのカレンは、誰よりも強くなろうと努力していた。
俺はまだ戦わせたくなかったが、カレンは必死に俺についてこようとした。
だから俺はカレンを死なせないために、後方から攻撃ができるようあの世界には無かった銃を作ってやり魔結晶も集めた。
カレンはハーフだからか、他の種族よりも適正のある魔結晶は多かったのもカレンが強くなれた一因だろう。
火と水に身体強化に再生。そして結界に飛翔。中でも結界の適性があったのは大きい。この適正のある者は少ないからな。
カレンの武器は2丁の魔銃と、その魔銃に装着できるガンソードと呼ばれる短剣だ。
魔銃には様々な種類の攻撃型の魔結晶を装着でき、エーテル結晶から魔法発動のために必要なエーテルを供給する。エーテル結晶がある限り、カレンの体内エーテルを消費せずに強力な魔法を連発できる。これによりカレンは継戦能力が非常に高く、遠距離から多くの魔物を倒すことができた。エーテル保有量も俺には及ばないがかなりの量がある。
そして近接戦闘は父親譲りの短剣術を使う。
エーテルと気配を消す技術は俺以上で、しかも空も飛べるし当然地面に少し浮いた状態で移動もできる。気を抜くとすぐに俺の背後にいたりするんだ。
もうねアサシンですよアサシン。我ながらとんでもない子を育てたなと思うよ。
そんなカレンと同じくらい強くなろうという気概がある子なんて、そうそういるはずもない。
だからハードルを下げさせようと色々俺も努力したんだけど、この一点だけは絶対に譲らないんだよな。
「でもチキュウは魔物がいない……だからワタルはハーレムを作ればいい……ワタルは私のことが一番好きなのはわかってるから問題ない」
「ぐはっ! 日本は重婚を認めてねえんだよ! ハーレムは作れねえんだよ! 一夫一妻制なんだよ! 」
なんという事だ! ハーレムを作っていい世界では作らせてもらえず、ハーレムを作れない世界で作っていいと言う。作れるわけねえだろ! そもそも勇者の必要のないこの世界で、フツメンの俺がモテるはずがないだろ!
俺は今年一番のストレスをカレンから与えられ悶絶していた。
「それは残念……なら私がワタルの世話をする……私がいないとワタルはご飯も食べれないし身体も洗えない子……私が死ぬまで面倒を見る……」
「俺が駄目男みたいな言い方すんなよ! そんくらい一人でできるって! カレンを預かった時は全部俺がしてやってただろ? 」
まんまあの時俺がカレンにしてやったことを俺にしてくるんだよな。お風呂や着替えはともかく、24にもなってご飯を食べさせてもらってるんだぜ? 羞恥プレイかっての。
「ん……ワタル優しかった……1年近くも私を見捨てなかった……生きる希望を与えてくれた……だから好きになった……そして吸血鬼を倒した時……あの言葉で全てを捧げようと思った……私の全てはワタルのもの」
「あ〜……まあそのなんだ……ありがとよ」
くっ……蘇る黒歴史! 勢いとはいえあんなキザな言葉を吐くとは……恥ずかしすぎて死ねる!
「ワタルはカッコいい……自信を持つ……ハーレム作れる」
「だから違法なんだよ! お前わざと言ってるだろ! くっ……チキショウ見てろよ! ハーレムが作れる国に移住してやるからな! 」
カレンは絶対ハーレムネタで俺をからかってる!
目が心なしか笑ってるし! 表情が読み難くてもわかるんだよ! 何年毎日顔を合わせてると思ってんだ!
こうなったらアフリカに移住するしかないな。昔テレビで奥さんが8人いて、経済力さえあればそれが許される国だって言ってたのを見たことがある。確かアフリカ系のタレントのロビーオロゴとかいう名前の人の父親だったな。そこに女の子たちを集めてハーレムを作ればいい。女の子を集められればだが……
「問題ない……ワタルの世話をする女が増えれば私も助かる……このマジックテントは無駄に広すぎて掃除が大変……なんでこんなにたくさん部屋を作ったの? 」
「ぐはっ! お、お前……本当に覚えてろよ……」
絶対スタイルが良くて美人で優しい子を見つけてハーレムを作ってやる……絶対だ!
「ん……ワタルはそれくらい目がギラギラしている方がいい……ワタルの本当の気持ちを知った私に不安はない……ハーレム作る……」
「な、なんだよ俺の本当の気持ちって 」
「んふっ……愛してる……ハーレムなんて本当はどうでもよかったんだ……カレンさえいてく」
「わーわーわー! わかった! もうわかったから! あ、あれは死の間際だったから! 勢いだ勢い! 」
くっ……やっぱり魔王を倒した後の宇宙船でのことだったか。
「死の間際に嘘偽りを言う人はいない……つまりあれはワタルの本心……私は幸せ……」
「うっ……さ、さて! 早く駅を探して俺の実家に行くぞ! 東に街っぽいのが見えたから低空で飛んでいくぞ! 『飛翔』 」
「ん……ワタル照れてる……かわいい……」
俺はカレンの言葉に恥ずかしくなり、影空間を発動してコンパクトになったマジックテントを放り投げてからカレンの手を引いて木の少し上あたりまで飛び上がった。
カレンは自分の飛翔の魔法を発動せず、俺の正面からずっと抱きつき頬ずりをしていた。
そして木のすぐ上を飛び続け、街や道路らしきものが見えたところで俺は千里眼の魔結晶を発動させた。千里眼とかたいそうな名前が付いてるが、ようは遠視と暗視の魔法だ。服の中まで見えたりはしない。そんな魔物がいたら俺は速攻で狩りに行ったんだけどな。
千里眼を発動するとビルや線路が見えた。ビルには静岡銀行と書いてある看板があり、そのまま視線を線路へと移し辿っていくと駅にたどり着いた。そこには『御殿場駅』と書かれていた。
御殿場だったのか……まあこんだけ富士山が近いからそうだよな。
つまり栃木のスキー場でアルガルータに迷い込み、山梨や静岡に戻ってきたわけか。
転移ってやつなんだろうが、場所は関係なく別の条件で発動する可能性が高いな。
俺がわかるのは二度とも強力な雷撃を受けたような痺れと激しい痛み、そして全身を焼かれるような熱を感じたということだけだ。もしかしたらプラズマによる瞬間移動的なものなのかもな。どこかの国の船が2000kmも先に瞬間移動した時も、プラズマが原因だと聞いたことがある。船員のほとんどが亡くなったそうだけど、生き残った人もいたそうだ。
このプラズマは未だ未解明な部分が多いといわれているから可能性は高いな。
俺が焼き殺されなかったのはプラズマに耐性があるとかか? 確かに雷系の魔結晶との相性は良かった。雷龍と戦った時も思ったよりもダメージを受けなかった。
その俺に庇われたカレンも怪我をすることなく、一緒に転移に巻き込まれた可能性があるな。
俺は色々と疑問が浮かんだが、都市伝説レベルの知識しかない俺がそんな物理現象がわかるはずもなく思考を打ち切った。
そしてだいたいの位置がわかったので一旦止まり、テントを出る時に持ち出した財布の中身を再度確認した。この財布はアルガルータに迷い込んだ時に持っていたものだ。スマホや時計は焼け焦げていたが財布の中身は無傷だった。
財布には2万3千円と小銭が少々。バイトで稼いだお金だ。
スキーに行くということもあり、多めに持っていてよかった。アルガルータにいる時はなるべく見ないようにしていたが、今はこの存在がありがたい。
巨人族から贈られた金の装飾品やらがあるから今後金には困らないと思うが、換金するのだって身分証が必要だ。身分証は学生証と原付免許があるが、当然期限切れで使えない。
それに恐らく俺は死亡扱いになってるだろう。まずは戸籍を復活させないと。
問題はカレンだが……見た目モロに外国人だからな。警察に職質されたなら逃げるしかない。最悪マジックテントもあるし、どこかの無人島で住めばいいか。
そこでたまに都心に飛翔の魔法を使って買い物に行くくらいなら、見つかることもないだろ。
俺たちはそのまま車通りの多い道の近くの山まで移動し、山に降りてから道路へと歩いて行った。
そして自分とカレンの格好に違和感がないかもう一度確認した。
俺は黒のパンツにベージュのセーターに黒のジャンパー。カレンは黒のパンツに白いダボっとしたセーターを着て、白い大きめのニット帽を被っている。
カレンはハーフエルフだ。エルフよりは短いが、人よりは長いやや尖った耳をしている。普段はショートボブの髪に隠れてほとんど見えないが、念のため帽子を被せておいた。見られて何か言われたら、これからコスプレ会場に行く予定なんですとか言っておけばいいだろう。
「よしっ! 問題ないな。カレン、タクシーを拾って駅まで行くぞ」
「……鉄の箱が動いてる……魔結晶の力? 」
カレンが目をいつもより見開いて近くを走っている車を見て驚いている。
「違うよ。科学ってやつだ。電車に乗ったらゆっくり説明してやるから、今は駅まで急ごう。もうお昼だし」
「かがく……エーテルを使わない力……箱の中の人エーテル少ない」
「ん? ああ、俺がアルガルータに行った時よりは少ないが似たようなもんだ。あんなもんだろ」
カレンは通り過ぎる車の中の人のエーテル量が少ないことが気になったようだ。
確かにアルガルータで、一番エーテルの保有量の少ない巨人族の子供より少ない。ちなみに俺は巨人族の子供くらいの量はあった。
どんぐりの背比べだがいいんだ。今じゃ一番エーテル保有量の多いエルフの中で、トップの保有量を持つ奴の5倍はある。
俺とカレンは長年の戦闘経験から、魔物の体内から漏れるエーテルの量でその魔物がどれくらいエーテルを保有している魔物か見分けがつく。
そしてこれも戦闘経験から身に付いた技術だが、遠くにある一定以上の量のエーテルを感知することもできるし、体内のエーテルを外に漏れないようコントロールすることもできる。これは強者と呼ばれる者たちは皆が身に付けていた。
このエーテルを隠蔽する技術は戦闘には必要な能力だ。魔物はエーテルを感知し、エーテルの保有量が多い者へ優先して襲い掛かってくるからな。
それから目に映るもの全てに興味を持つカレンをなだめながら、俺たちはやっと大通りに出ることができた。そして運良くタクシーが通りかかり、乗ることに成功した。
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