第2話 激戦



「ギラーーーン! 」


「ワタル! だめっ! 」


 俺は黒い球体に呑み込まれていくギランを助け出そうと前に出ようとした。しかしカレンに後ろから抱きつかれ動きを止められた。


「カレン! くっ……レオール! 一旦離れろ! あの黒い球体は危険だ! 」


 俺は必死に抱きつくカレンを振り切ろうとしたがギランはもう事切れており、ここは一旦仕切り直すべきだと判断して魔王の足もとにいるレオールとニキに下がるように言った。


「おのれギランをよくも! 『身体強化』 」


「ガンゾ! よせっ! 戻れ! 」


 ところが俺がレオールたちに離れるように言った直後、すぐ後ろにいたガンゾが魔砲を魔斧に持ち替えて魔王の元へと駆け出した。


 俺はガンゾを止めたが、ガンゾとギランは100年以上の長い付き合いだと言っていた。

 俺の言葉はそんなガンゾを止めることができなかった。


「カレン! 援護を! 『雷槍』! 」


「了解」


 俺の言葉にカレンは飛翔の魔結晶で飛び回り、二丁の魔銃で次々と炎弾と氷弾を放ち魔王の気を引いていた。そして俺は背中に埋め込んだ雷槍の魔結晶を発動させ、頭上に5本の雷の槍を出現させ魔王へと放った。


 5本の雷槍はカレンに視線を移していた魔王の顔面に全て直撃し、顔を焼き二度三度と大きく仰け反らせた。


 チッ! 咄嗟だったから中途半端なエーテル量で撃っちまった。ノックバックさせただけかよ。


「勇者! すまねえ! 」


 ガンゾは魔王が仰け反ったタイミングで、魔王の地面についている方の足の太ももへと硬く重いオリハルコンの魔斧を叩きつけた。しかし魔王は既に結界を張っており、その攻撃は弾かれてしまった。


「ガンゾ! 助太刀するぜ! ギランの仇だ! 」


「アンタ! まったくもう! 仕方のない男だよ! 」


 そしてそれを見たレオールとニキも、膝をついたままの魔王の太ももに向かって剣を振り下ろし結界を破壊しようと攻撃を加えた。


 しかし魔王がカレンの牽制を無視し、視線を3人に向けた途端。

 3人は突然地面へと勢いよく押さえつけられた。

 そして次に空中を飛び回るカレンへと視線を向けると、カレンは地面へと急降下していった。


「カレン! 」


 俺はレオールたちが倒れている場所の反対方向、魔王の斜め後ろに墜落していくカレンのもとへ全力で飛翔しカレンを空中で受け止めた。


 しかしカレンは異常に重く、俺は自分の身を下敷きにしてカレンと共に地面へと落ちた。


「ぐえっ! な、なんだ重い…… 」


「……重くない。急に地面に引っ張られた……でもワタルはやっぱり私が大切」


 カレンは人形のように整っていて綺麗だが表情に乏しいその顔を少しムスッとさせ、重くないと言いつつも、少し口もとを緩ませ俺の上から身体をどけた。

 まあ咄嗟にカレンを受け止めちまったからな。


「たまたまだ。俺は女の子に優しい男なんだよ。それより地面に引っ張られる魔法だって? あの黒い球体といい……重力か!? 」


 魔王の視線が外れたからか、カレンはもう動けるようだ。しかしガンゾとレオールにニキは、未だに地面に身体を押さえつけられているように見える。

 そして魔王の手の上にはあの黒い球体が現れていた。


「やばい! カレン! 下がれ! 距離を取って牽制しろ! 」


「イヤ……ワタルから離れない」


 俺はカレンの手を後ろへと引っ張ろうとしたが、カレンに抵抗された。カレンも魔王の隠し玉ともいえる魔法に警戒しているみたいだ。


 なんとかカレンを下げたいが、魔王は黒い球体をレオールたちの方に向けている。

 くっ……時間が無い! 重力だろうがなんだろうが、いま行かなきゃレオールたちが死ぬ!


 俺は再度身体強化を発動し、剣にはめ込んである硬化と雷身の魔結晶を発動させ剣に雷を纏わせた。


 そして魔王のところへと一気に駆け出した。カレンも俺の後方から付いてきており、魔銃を撃ち魔王を牽制している。その俺たちの動きを察知した魔王は、黒い球体をレオールたちのところに投げたのちに俺たちへと視線を向けた。


「ぐあっ! な、なにが……ぐっ……重い……」


「うくっ! 」


 俺は突然重くなった身体にその場に転び、下へ下へと引っ張られる力に必死に抵抗していた。背後ではカレンが苦しそうな表情で地面に両手をついている。


 重力……確かにこの下へと引っ張られる力は重力だ。

 汚ねえ……こんなの反則だろ。しかもレオールたちより明らかに強力なのを掛けやがった。特級の身体強化の魔結晶を埋め込んでいる俺たちじゃなかったら、カエルみたいに潰れてるぞ。


 俺は魔王の重力魔法に抗いながらも顔を上げ、レオールたちに向かって放たれた黒い球体の所在を確認しようとした。


「ぐあぁぁ! 勇者! 獣人を! 仲間を頼む! ニキーーー! 」


「アンタぁぁぁ! ゔっ……ああああ! ゆ、勇者ぁ! あとは頼んだよ! カレン! しあわせ……に……あぐっ……」


「ぬぐうぅぅぅ! 動けん! 勇者すまん! ワシのせいじゃ! ドワーフをたの……む……グフッ……さらばだ!勇……ぐうぅぅ…… 」


「レオーール! ニキ! ガンゾ!! 」


「ニキ! あ……あああ……」


 俺がレオールたちを見たときには、既に身体を黒い球体に呑み込まれていた。球体の側には大量の血が流れており、アレに呑み込まれると身体が押し潰されるものだということをその血が語っていた。


 くそっ! また仲間を失った。いったい何度目だ! この魔物どもとの戦いで一緒に肩を並べて戦った仲間が俺とカレンを残して1人残らず逝っちまった。


 俺は戦いなくなんかなかったんだ。日本で爺ちゃんのところでのほほんと生きていたかった。

 ナンパして女の子とえっちなことして過ごしていたかった。

 あの時あの洞窟に入りさえしなければ……


 でも関わっちまった。


 突然こんなわけのわからない末期世界に来た俺を助けてくれた巨人がいた。

 そしてその戦う様に惚れたダークエルフの娘を預かっちまった。

 ガサツだけど職人肌で、頼めば気前よく武器を作ってくれるドワーフを気に入っちまった。口は悪いが誰よりも同胞思いで勇敢な獣人と、可愛いケモ耳の女の子たちが魔物に殺されるのを黙って見ていることなんてできなかった。


 なにより……カレンの故郷のこの世界に滅んで欲しくはなかった。

 カレンにはもう何も失って欲しくはなかった。


 救わないと……この世界を救ってカレンに残さないと。


 だったら……


 だったらやるしかねえよなぁ!!


 このクソ悪魔をよお!


「ぐっ……カレン! アレをやるぞ! この魔法は結界で相殺だ!」


「うっ……わかった」


 魔法に魔法を当てる。引っ張る力と防ぐ力。

 俺とカレンの結界の魔結晶は、最強の龍から奪った1等級ランクだ。これならせめて相殺はできるはず。


 エーテルの出し惜しみはしない。

 カレンの分も張って魔王の魔法を相殺し、そしてカウンターで渾身の攻撃をぶつける!


 俺はカレンのいる後方へ這っていき、背中に埋め込んだ特級結界の魔結晶にエーテルを大量に流し魔法を発動させた。

 魔王は手に新しい黒い球体を出現させている。


「なめんなあぁぁ! 『結界』! ……よしっ! カレン! やれ! 」


「了解……『結界』」


 俺が発動した結界は魔王の魔法を打ち消した。

 俺とカレンは瞬時に起き上がり、剣と銃を構えた。


 カレンは自分の結界を張り二丁の魔銃のシリンダーを回転させ、使用する魔結晶を切り替えた。そして銃底から魔結晶を発動させるためのエーテルの結晶石を抜き、新しい物に入れ替えた。


 俺は特級の身体強化を発動させ、結界を再度掛け直し剣に硬化と雷身を発動し魔王の元へと駆け出した。


「よしっ! 重力魔法を相殺してる! このまま突っ込む! 」


「ワタル! 『氷河期』『豪炎』 」


 魔王は俺に再度重力魔法を発動したが、俺は相殺ができておりそのまま走り続けた。

 するとカレンも相殺に成功したようで、後方で攻撃の合図をした。そしてドンッという重い一発の銃声が聞こえたのちに、遅れてもう一発の銃声が鳴り響いた。


 カレンの放った魔法の弾丸とも呼べる白と赤のエーテルの塊は、魔王の結界に当たると結界を凍らせた。そして続いてやってきた魔弾により急速に熱せられ、凄まじい爆発を起こした。


 俺は結界をその爆風と衝撃で破られたが、魔王の結界を破ることに成功した。

 さらに魔王はエーテルを含んだ爆発により顔や腹部、残された右腕や再生中の左腕から黒い血を流していた。


 俺は膝をつく魔王の目の前で飛翔の魔法を発動し、魔王の肩へと飛び乗った。

 魔王は黒い球体を俺へと向けようととするが、その腕にカレンが咄嗟に『氷河期』の魔弾を放ち凍らせた。


 が、黒い球体は既に魔王の手を離れ俺の腹部へと向かっていた。


「ぐっ……があぁぁぁ! くそっ! 痛えじゃねえか! このっ! くたばりやがれーー! 」


 俺は黒い球体を攻撃に支障のないギリギリの範囲で身を捻り避けたが、避けきれず脇腹を大きくえぐられてしまった。しかし気合いで魔鉄の剣を魔王の首に全力で突き刺し、さらに奥へ奥へと押し込んだ。


 魔王は苦しそうな声を上げ、俺へと黒い刃を次々と放ってくる。

 しかしそれを俺は装備している漆黒の龍革の鎧で全て受けきった。


「ここからが本番だ! お前の配下から奪った魔結晶の能力だ! 遠慮なく受け取れ! 『雷撃』 『轟雷』! 」


《 グオオォォォォォ……》


 俺は今まで戦った中で一番強かった、雷龍と名付けた雷を纏う20mほどの翼の生えた大蜥蜴から奪った強力な魔法を魔王の体内に放った。


 さすがに一応は生物であるのだろう。魔王は全身の血が沸騰したのか黒い煙を出し、そのまま前のめりに倒れた。


 俺は痛む腹を押さえつつ、力を振り絞り魔王がまた黒い球体を出さないよう急ぎ右腕を斬り飛ばした。カレンは俺を心配しつつもやるべき事はわかっているようで、魔銃に短剣を装着し、魔王の胸の中央と腹部を開き魔結晶を次々と取り出した。


 俺はその中に歪な球体の青い魔結晶を見つけてほっとした。青い球体は再生の魔結晶だからだ。俺は魔結晶をカレンから受け取り、なけなしのエーテルを使い影空間の魔法を発動させてその中に入れた。


 再生の魔結晶は回収した。これで魔王はもう復活することはないだろう。

 しかしさすが魔王だ。特級の魔結晶か……それに特殊なのをいっぱい持ってんな。

 まあこれで魔王を倒した……もう大丈夫だろう。


「うぐっ……ハァハァハァ……やった……」


 生き残った……皆を逃がす時間を稼げた……







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