第5話 それぞれの道⑥

 一月後、セルマは王城の広間の露台バルコニーの上に立っていた。ランドルフの戴冠式に招待されたのだ。式も無事に終わり、広間では、宴会がひらかれていた。


 鴉の魔女、レイも招かれており、さり気なくあちこちの人の輪に加わっては、ゴルゴン商会の名刺を配りまくっていた。さすがレイ、とぼけた態度にも関わらず、なかなかのしっかり者だ。


「墓守の魔女セルマよ」

 外の景色を眺めていると、誰かが声をかけてきた。ランラン……いや、国王ランドルフだった。

 久しぶりに会うランドルフは、元気そうだった。王冠をかぶり、ローブをまとったその姿は、威厳というより、お仕着せ感が半端ない。

 もっともセルマも、金糸銀糸の刺繍入り黒のローブ姿で、着慣れない感においては、負けていなかった。このローブは、今回の戴冠式に出席するために特別に与えられたものだ。


「陛下。」

 セルマは一礼した。

「そなたのおかげで王国の危機は救われた。深く感謝する。」

 今思えば、危機と言うより盛大な茶番劇だった気がしたが、セルマは口にしないだけの分別はあった。その代わりにランドルフに向かって、にこりと笑った。

「勿体ないお言葉です。陛下。」

 さすがにもう、ランランとは呼べない。


なんじの功績に何を以て報いようか?金銀財宝か?最高位魔法官の地位か?いや、そのようなものでは到底足りぬか。」

「お礼なんていいよ、ランラン。これから大変なんだから、無駄遣むだづかいしないで。それに窮屈きゅうくつなのは嫌だし、墓地のことも心配だから、とっとと帰りたいの。」

 と、言うわけにもいかなかったので、セルマはこう言った。

「お心遣いに感謝します、陛下。ですが、私は現在の地位に満足しております。これ以上望むものはございません。」

 ああ、本当に敬語って面倒くさい。


「そうか、そなた謙虚けんきょだな。」

 ランドルフは、口ごもって、下を向いた。急にそわそわしだして、どこか態度がおかしい。

「何というか、その……そなたには随分と助けられたな、と。」

 セルマは首を傾げた。何か雲行きが変だ。嫌な予感がする。

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