第5話 それぞれの道③

 緑の騎士たちは、徐々に王妃の兵たちを押し返して行った。セルマとランドルフは騎士たちの後について礼拝堂を出た。形勢は逆転しつつあり、王妃の親衛隊たちはじりじりと後退した。


「我が勝利だ。」

 ランドルフは得意になっていた。このまま上手うまくいけば、彼らを墓地から追い出せるかも知れない。後はアンブローズ公が到着すれば、何とかなるだろう。


 その時、ジェイさんが、ウォーと咆哮を上げた。振り回していた鐘撞き台の柱はすでにボロボロになっていた。ジェイさんは、転がっていた飼い葉桶を拾うと、取りあえず敵に投げつけようとした。しかし、手元が狂った。


 飼い葉桶はフレッドめがけて飛んでいった。フレッドはヒヒヒヒと笑って、さり気なく避けたので、後ろに立っていたマデリンを直撃する……かに思われた、幸い彼女は幽霊だったため、体をすり抜けてしまった。桶はセルマの方へと向かった。


「危ないじゃない!!」

 セルマは飼い葉桶をスコップで叩き落とした。桶は地面に当たると、たがが外れてバラバラになった。そのうちの一片が飛んで、ランドルフの頭に命中した。


 ランドルフは、そのまま地面に突っ伏してしまった。

「ランラン!」

 セルマは駆け寄って抱き起こした。

「ねえ、しっかりしてよ。」

 揺さぶったり、頬をパチパチとたたいてみたりしたが、ランドルフは目を醒まさなかった。息はしているので、死んではいないようだ。


 騎士たちの様子が、おかしくなった。

 いったん、ぴたりと静止した後、ぐるぐると回転し始めた。それから、近づく者をはじき飛ばしながら、ばらばらの方向に動き出した。つまり、暴走だ。

 墓地の中は、暴走する騎士像、逃げ惑う敵兵、浮かれ回る死体たちで大混乱になった。墓石や石柱はなぎ倒され、花壇は荒らされ、道はぼこぼこになっていく。


 それより、自分たちの身が心配だ。近づいてくる有象無象どもを、セルマはスコップでなぎ払ったが、らちがあかない。みんな数が多すぎる。それでも、死体と兵士たちは、まだいい方だ。緑まみれの騎士たちについては、完全になすすべがない。


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