第5話 それぞれの道②

 ネプチューンは穴から出て来て、セルマたちの方を見ると、重々しい表情で頷いた。海神は海馬にまたがったまま、扉に近づき、掛け声と共に手にしていた巨大な金槌……ではなく、ほこを振り下ろした。扉は割れ、向こうから兵士たちの顔が覗いた。いきなり現れた海神の姿を見て、彼らは驚いて道を空けた。


 ネプチューンと海馬は外に出ると、周囲をじろりと睨みつけた。王妃一味も王子も魔女も幽霊も屍も、動くのを止め、その一挙手一投足を注視した。

 海馬はネプチューンを乗せ、一歩一歩、沈みこむような足取りで、ゆっくりと進んで行った。言うのも何だが、とても歩きにくそうだ。皆が固唾を飲んで見守る中、坂を下り、墓地の外へと向かって行った。

 そして、静かにおごそかに、門を通り抜けると、荒野の方へ遠ざかり、やがて姿を消した。


「あれは、何しに出て来たの?」

「いったい、何だったのだ?」

 一同は敵味方も忘れて、思わず顔を見合わせた。


 ネプチューンと海馬が去った後、今度はブーンと先ほどとは違う地鳴りが響いた。続いて穴の中から、苔だかカビだか錆だか、訳の分からない緑色の何かに覆われた騎士の像たちが、ぞろぞろと出て来た。


 ランドルフは、気を取り直して、緑の何かにまみれた騎士たちに命じた。

「行け、緑の騎士たちよ。王命である。我が敵を討ち倒せ。」

 緑の騎士、そう呼ぶと、何だかかっこ良く聞こえる。確かにものは言いようだ。騎士たちは整列すると、兵たちに対峙した。


「ええい、ひるむでない。」

 戸惑とまどう兵士たちを王妃は叱咤しったした。

所詮しょせんは見かけ倒しの木偶でくの棒よ。おそるるに足らず。早よう、王子の首を取って参れ。」


 王妃の一声で、親衛隊たちは、一斉に騎士たちに向かって行った。だが、剣で斬りつけても、槍でついても相手はびくともしなかった。

「見るがいい、これが王の力だ。」

 ランドルフは高らかに宣言した。さっきまでの弱気はどこへ行ったのやら。

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