第4話 薔薇の王妃⑥

  十一回、十二回。鐘が鳴り止むと、ガタゴトとあちらこちらで墓石が揺れ始めた。下から、うようよと屍たちが這い出して来た。

 寝ぼけたように辺りを見回す彼らに、マデリンは訴えた。

(お願い、みんな墓地を守って!!) 


 マデリンの願いは届かなかった。

 彼らは単にお祭り騒ぎが大好きで、騒ぎたいだけの連中だ。地面に寝転がったり、酒盛りのまねごとを始めたり、賭事をしたり、意味もなくそこら辺を叫びながら走り回ったりと、行動はてんでんバラバラ、戦おうとする気配はいっこうにない。


 それどころか、いつかの王家に恨みを持つ連中が、こちらに気づいて奇声を上げながら走って来る始末だ。セルマはスコップで打ち払った。

(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。)

 マデリンはおろおろと、うろたえた。

「だから、やめてって言ったのに。」

 セルマは頭を抱えた。


「ねばもー、ねばもー。」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 セルマが見上げると、一羽の鴉が上空で円を描いていた。

 レイだった。


 レイは鴉の姿のまま、セルマのに近くまで降りてきた。今回は着地せずにそのまま飛び続けている。

「セルマ、セルマ、大変だ。その子、本当に王子様だ。」

 セルマは頷いた。

「うん、知ってる。」

 レイは目を丸くした。もっとも、鴉の目は元から丸い。

「ねばもー、いつ分かったの?」

「ついさっき。」

 セルマはばつが悪そうに答えた。

「アンブローズ公の一隊がこちらに向かっているよ。ところで」

 レイは、きょろきょろ辺りを見回した。

「ここも大変そうだ。」

「うん、王妃が来てる。」

「ねばもー!アンブローズ公に知らせてくる。着くまで何とか持ちこたえて。」

 そう言うと、レイは上昇して飛び去っていった。

「わかった。やってみる。」

 セルマはレイを見送りながらつぶやいた。

「自信ないけど……」

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