第4話 薔薇の王妃⑦

 王妃の親衛隊は、すぐそこまで迫ってきていた。屍たちは相変わらず好き勝手やっている。兵たちがそばを通っても無視する状態だ。わざわざ、どうぞとばかりに道を空ける者さえいた。しかし


「どけ」

 一人の兵が道に寝転がった死体を蹴飛ばした途端、態度が一変した。さすがに、ぞんざいに扱われると腹を立てるらしい。何体かがうなり声を上げて飛びかかったため、王妃の兵たちは進むことができなくなった。


 これは足止めをしてくれるかも、とセルマは、ちょっとばかり期待した。死体たちは兵たちにまとわりついていたが、しばらくすると飽きて、散り散りになってしまった。結局元の黙阿弥で、つくづく使えない連中だ。

 兵たちもりて、屍たちを極力きょくりょく避けるようなった。


 セルマたちへの包囲網は、じわじわ狭まって来ていた。


余興よきょうは終わりじゃ。」

 王妃の高笑いが聞こえた。親衛隊は、すぐそこまで迫っていた。


「もう、おしまいだ。」

 ランドルフが弱音を吐いた。

「駄目、ランランは王子でしょ。王様になるんでしょ。しっかりしなさい。」

「だが、どうすればよいのだ。」

「とにかく、伯父様が来るまでねばるの、がんばるの。」

 セルマはランドルフをしかり飛ばした。魔女のローストなんて真っ平だ。


「ジェイさん、フレッド!」

「ウウウォー」

「ヒヒヒヒヒッ」

 セルマが叫ぶと同時に、二人は飛び出して行った。ジェイさんは、そこら辺の石柱を持ち上げると、ぶんぶんと振り回して、兵士たちを追い払った。フレッドは彼らの合間をスルスルと器用にすり抜け、背中に回って蹴り飛ばした。

 石柱にひびが入りだしたので、ジェイさんは、それを放り出した。それから、近くに武器になりそうなものがないかと見回した。

「ヒヒッヒー」

 フレッドがある物を指さした。


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