第4話 薔薇の王妃④

「ランランって、本当に王子様なんだ。」

 セルマが頓狂とんきょうな声をあげた。

「だから、初めから申していたであろうが。それから、私はランドルフだ。」

 作り話だとばかり思っていた。


「ランドルフ・ランダル・ランバート・ラングレイブよ。あの時、死んでいれば良かったものを。あのウナギの揚げ物に仕込んだ毒が効かなかったとは、つくづく悪運の強いことよ。」

「ランラン、やっぱりウナギを食べてたのね。」

 セルマの言葉にランドルフは大きく首を振った。

「違う、私はウナギの揚げ物など口にしてはおらぬ。パイに仕込まれていた黒ツグミが顔にぶつかって気を失ったのだ。」


 王妃は高笑いした。

「何をぶつぶつとほざいておる、これで、そなたさえらねば、王位は我が子ギルバート・ギルフォード・ギルロイ・ギルデンスターンのもの。」

「果たしてそう上手く行くかな。ロザムンド・ロザリン・ローズマリー・ローゼンクランツよ。このようなことが耳に入れば、いかに父上とて捨て置かぬはず……」

「あの、一つ申し上げたいことがあるのですが」

 セルマが口を挟んだ。

「フルネームで呼び合うのよしませんか?時間の無駄です。」

「黙れ」

「黙らぬか」

 王族二人はほぼ同時に言葉を放った。

「王家の作法ぞ。口出しするでない。」


「心配は要らぬ。」

 王妃が言った。

此度こたびのことは全て、魔法使いや魔女どもの企みである。一部の不満分子が王子を誘拐し、殺して墓地に埋めたという筋書きじゃ。これで首謀者として主だった者どもを粛清しゅくせいすれば、他の者も大人しくなろう。まさに一石二鳥というもの。」


 大雑把だが、的を射た作戦だ。そんな裏があったのか。セルマが驚いていると、王妃は扇子で彼女を指した。

「それ、そこの魔女。そなたも同罪ぞ。王子を殺した罪で火炙ひあぶりに処す。」

「何ですって!」

 まさにびっくり仰天、青天の霹靂だった。

「ちょっと待ってよ。だってランランここにいるじゃない。」

「ランドルフだ。」

 王子がうんざりした顔で言った。


「問答無用。皆の者、門を開け二人を捕らえよ。」

 王妃が命じた。

「セルマよ。」

 ランドルフが不安そうにつぶやいた。

「大丈夫、あれは魔法がかかった門。簡単には開けられないし。こっちだって開けるもんですか。あ。」

 王妃が鼻歌を歌いながら指先でくるくると何かを回しているのが見えた。鍵だった。そう言えば、ここは王立墓地だった。

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