第4話 薔薇の王妃③

 異変が起きたのは、それから二日後だった。セルマは壊れんばかりに戸を叩く音で目を覚ました。

 慌ててガウンを羽織って戸を開けると、ジェイさんとフレッドが立っていた。

「ウウウウゥ」

「ヒヒヒヒヒヒ」

 身振り手振りで必死に、表そうとしている。

騒々そうぞうしい、何ごとか?」

 ランドルフも部屋から出てきた。

「門のところで何かあったみたい。ジェイさん、フレッド、すぐ行くね。」

「わかった、私も着替えてから参る。先に行け。」

 着替えてからって、ほんと、呑気な子ね。セルマはスコップを手に取ると、ジェイさんとフレッドの後について行った。


 「何、あれ?」

 墓地の入口に一列騎馬隊が並んでいた。騎馬隊の後ろには歩兵が続いている。目を引いたのは、その旗だ。鮮やかな桃色の地に緑の縁取り、中央にゴテゴテと何個組み合わせたかわからない薔薇の文様。正直、薔薇は一個でいい。はっきり言って趣味が悪い。


「あれは、王妃直轄の親衛隊だ。」

 いつの間にかランドルフが追いついて来ていた。


 親衛隊が道を空けた。

 後ろから、ガラガラと音を立てて馬車がやって来て、門の前に横付けした。その扉には旗と同じゴテゴテした薔薇の文様が描かれていた。

 中から降りてきたのは、金色の髪を高々と結い上げ、これでもかというほどの薔薇の髪飾りをさし、フリルやリボンで装飾過剰な薔薇色のドレスをまとった貴婦人だった。顔立ちはそれなりに美人であるのに、これでは台無しだ。もう一度言うが、趣味が悪い。兵士たちが一斉に膝をついた。


 貴婦人が口を開いた。

「妾はロザムンド・ロザリン・ローズマリー・ローゼンクランツこの国の王妃である。」

ひざまづいて頭を垂れよ。王后陛下の御前なるぞ。」

 侍従と思われる人物がセルマに向かって言った。これが王妃?市中に出回ってるのと全然違うじゃない。またまた肖像画詐欺だ。


 王妃はランドルフを見ると言った。

「久しいのう、ランドルフ・ランダル・ランバート・ラングレイブよ。まだ生きておったか。」

義母上ははうえ……」

 ランドルフは王妃の顔を睨みつけた。

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