第3話 緑の騎士⑥

 向こう側は真っ暗だった。

「うーん、灯りが欲しいな。」

 セルマがつぶやくと、ぽっと宙に火がともった。マデリンの仕業しわざだ。

「おお、さすがは魔女。」

 ランドルフが感嘆した。魔法だと思ったらしい。鬼火であることは告げないでおこう、とセルマは思った。これ以上、騒がれても困るし。


 灯りに照らされて、地下に続く階段が見えた。

「下に何があるのだ?」

 ランドルフが訊いた。

「さあ、私も初めて見た。」

「よし、行ってみよう。」

 ランドルフは階段を下り始めた。さっきまで、屍に驚いて喚いていたことなど、すっかり忘れたようだ。

「ちょっと待って、ランラン。」

 セルマは後を追った。降りながら、ランドルフに聞こえないように小声でマデリンに尋ねた。

「ここって、一体何?」

(私たちの聖なる地でした。)

 マデリンが答えた。


(私は一族の巫女みこでした。かつて、ここは私たちが大地に祈りを捧げる場所で、あの鐘も本来は、精霊を鎮めるためのものだったのです。ところが)

 階段を降りると通路が伸びていて、その先にもう一つ扉があった。マデリンの言葉は続いた。


 (私たちが誰もいなくなった後、よそから来た者たちが、礼拝堂を建てました。やがて、訳のわからぬ物が運び込まれて来て、果ては墓地にされ、有象無象の死体を集めて埋葬するようになりました。そして……)

 マデリンは声を荒げた。

(あの屍たちときたら、あろうことか、私が精霊様のためにいている鐘を目覚まし代わりにしだしたのです。ああ、忌々いまいましい!)


「マデリン、落ち着いて。」

 セルマは激昂するマデリンを落ち着かせようと、彼女の肩に手を伸ばしたが、当然、彼女の手は突き抜けてしまった。

「とにかく、ごめんなさいね。」

(あなたは、いい方ですね。セルマさん。ありがとう。)

 幽霊は涙ぐんだ。少なくとも、生きている人間ならば、そうしたように見えた。

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