第3話 緑の騎士⑤

「ジェイさん、フレッドお願い。」

「ウウゥ」

「ヒヒヒ」

「ありがとう。」

 二人に後を頼むと、セルマはランドルフの手を引っ張って走り出した。この墓地の死体の中には、少なからず王家に恨みを持つ者だっているのだ。


(セルマさん、こちらです。)

 しばらく走って、鐘撞き台の近くまで来ると、声が聞こえた。

「マデリン?」

 鐘の下にフードをかぶったマデリンの姿がうっすらと浮かび上がっていた。

「マデリン、あなた、もしかして。」

 セルマの問いかけに、マデリンは頷いた。

(そうです。姿の見せぬ鐘撞きは私です。安全なところにご案内します。来てください。)

「誰と話しているのだ?」

 ランドルフが口を挟んだ。彼には、マデリンの姿も見えなければ、声も聞こえないらしい。

「とにかく、こっちに来て。」

 セルマはランドルフの手を引っ張った。

 マデリンについて行くと、古びた礼拝堂に着いた。


 建物の裏手に回り込むと、表とは別の扉があった。

「これって。」

 王立墓地七不思議その四、礼拝堂裏の開かずの扉。礼拝堂の中にそれらしき出口はなく、何のために存在するのか、どこに通じているのか一切不明。扉を開く鍵が失われたため、中に入った者は存在しない……と手引書のコラムに載っていた。


「どうせ、使っていない物置か何かで、長年開けないで放っておいて、忘れちゃったってところでしょ。」

(鍵ならありますよ。)

「え?」

 マデリンの言葉にセルマは思わず声を上げた。彼女は、セルマの手元を指して言った。

(そのスコップです。扉に窪みがあるでしょう。そこにはめてください。)

「わかった。ここね。」


「何を一人でぶつぶつ言っている?薄気味悪い。」

 ランドルフが不愉快そうに言った。相変わらずマデリンが見えないようだ。

 マデリンに言われた通り、セルマはスコップを窪みに当てた。スコップはぴったりとはまった。

 ギーッと音を立てて扉が開いた。

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