第3話 緑の騎士④

 何やら一同気まずくなったその時、鐘の音が聞こえ始めた。

 八回、九回、十回、十一回。そして、最後の鐘が鳴り終えた時、辺りの地面がさざめき出した。

 いつものように、あちらこちらで、ぼこぼこと土が盛り上がり、中から手や足が飛び出した。そのうち、一体の屍が墓からずるずると抜け出ると、こちらをめがけて走って来た。


「ランラン、下がってて。」

 セルマが言うと、ランドルフは腹を立てた。

随分ずいぶん手の込んだ余興よきょうだな。こんなことで、私をたばかれるとでも思っているのか。」

 セルマの指示とは逆に、彼女の前に出ると、屍に掴みかかった。すぽっ、と音を立てて、死体の片腕が抜けた。

「うわああぁ」

 大きな悲鳴が上がった。ランドルフは腕を地面に放り出すと、がたがたと震えだした。

「い、いったい何なのだ、この者は?」

「だから言ったじゃない。」

 ランドルフに向かって、セルマは言った。

「屍よ。」


 セルマは落ちていた腕を拾うと、屍に渡し、スコップでコツンと叩いた。

「ほら、さっさとお戻り。」

 死体は反対の脇で腕を抱えると、また墓の中に潜っていった。


 ランドルフは気が動転しているようだった。

「馬鹿な、仕掛けだ、そうだ何か仕掛けがあるに決まっている。騙されるものか。」

「ランラン落ち着いて。」

 ちょうど左から来た死体を肘打ちし、右の死体をスコップで払いながら、セルマは言った。ランドルフが叫んだ。

「うるさい、黙れ。私を誰と心得る。第一王子、ランドルフ・ランダル・ランバート・ラングレイブであるぞ。」

「ああ、もう馬鹿。」

 周りの死体たちが一斉にこちらを向いた。そのうちとある一団が唸り声を上げて、こちらに押し寄せて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る