第3話 緑の騎士⑦

ひとり言はやめよ。気味が悪いと申したであろう。」

 ランドルフが苛ついて話しかけてきた。

「あなたには見えないお友だちと話しているの。」

「ひっ」

 セルマの言葉に、ランドルフは声を上げて一歩退いた。

「こ、この扉の向こうには一体何があるのであろうか?」

 おどおどしながら、話題を変えてきた。

「さあ、取りあえず開けてみましょう。」

 マデリンが何も言わないところを見ると、危ないものはないのだろう。


 この扉は鍵がかかっておらず、押すとすっと開いた。長いこと閉ざされていたため、ムッとかび臭い空気が漂い出て、二人は思わず咳き込んだ。


「何これ?」

 落ち着いてから、顔を上げて見ると、中は大きな広間となっており、多くの騎士の像がならべられていた。


 騎士の像は緑色だった。近くに寄ってみると、表面が何かに覆われていて、緑色に見えたのはそのためだった。おそらく、苔だか、カビだか錆びだかのどれかだろう。


 騎士たちの像の中央にはひときわ大きな像が置かれていた。他の像とは異なった形をしており、それはまるで……

「これセイウチにまたがった大工さん?」

「違う。」

 ランドルフは、呆れ返った目でセルマを見た。

「そなたの目は節穴ふしあなか?これこそ、名工クラウスの幻の傑作『海馬かいばぎょすネプチューン』ではないか。よもや、こんな所にあろうとは。」

「へえぇ。」

 セルマにはどう見てもセイウチと大工だった。

 ネプチューンの台座には文字が刻まれていた。“我ら不滅の騎士なり。王の命により動く。” とあり、後に呪文らしき古い言葉が続いていた。


「素晴らしい」

 ランドルフは目を輝かせた。

「この者らを率いて、城に帰還して、王妃と取り巻きどもを一網打尽にしてやる。」

 彼は台座に書かれた呪文を唱え、命じた。

「動け。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る