第3話 緑の騎士①

 セルマは取りあえずお茶とスープを出した。ランドルフはお茶に口をつけると、顔をしかめた。

「これは何だ?」

「ネトル(蕁麻いらくさ)のお茶よ。」

「これは?」

「ネトルのスープ。」

 余ったネトルの処分に頭を悩ませていたセルマは、渡りに船、とばかりに少年に振る舞った。迎えに来るまでの間だけでも食べさせれば、結構減ることだろう。


「ここにはネトルしかないのか?」

「体にいいのよ。召し上がれ。」

 ランドルフは渋々口をつけると、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「何というか、食したことのない味だ……」


 それでも、お腹がすいていたのだろう。数分後にはきれいに平らげてしまった。

「おかわりはいかが?」

「結構だ。」

 ランドルフは即答した。


 食べ終わってしばらくした頃、ランドルフが話し始めた。


「それで、ここに来た訳だが、正直、私にも何が起きたのか、よくわからぬ。誕生祝の席で具合が悪くなったところまでは覚えているが、気がついたらこうなっていた。ただ、王妃、我が義理の母上の差し金であることは間違いない。」


 セルマは、ランドルフの話を聞くと頷いた。

「なるほど。ランランは毒入りのウナギを食べて倒れたところを、死んだことにされ、棺に入れられて、埋められそうになった、そういうことね。」

「おい、誰がウナギを食べたなどと申した。それから、我が名はランドルフだ。二度も言わせるな。」

 ランドルフは憤慨した。

「はいはい。」

 生返事をしながら、セルマは思った。可哀想かわいそうに、一晩棺桶ひとばんかんおけの中に閉じ込められたせいで、おかしくなったのだろう。自分のことをすっかり王子だと思い込んでいる。典型的な王子病だ。早く治るといいけれど。

 セルマは少年を温かく見守ることにした。まあ、我慢がまんできる範囲で話を合わせてあげよう。

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