第2話 棺の少年⑤

「じゃあ、もう行くね、セルマ。またね、ねばもー。」

 空に舞い上がるレイを見上げて、セルマは言った。

「ねえ、レイ。あんた、まさかお客さんの前で“ねばもー”とか言ってないよね。怒られるよ。」

「大丈夫。みんな面白がってくれてるよ。ねばもー。」

 レイはそう言うと、バサバサと羽音を立てて飛んで行った。


 レイが去った後、セルマは大きく欠伸あくびをした。昨夜(正確には今日)は、すばしこい奴らを追いかけ回したので、まだ疲れが残っていた。もう一休することにしよう。

 セルマは家に戻ると、長椅子に寝そべり、うつらうつらと眠り始めた。

(きて。)

 夢の中、遠くで誰かの声が聞こえた。


(起きて。)

 こんどは、はっきりと聞こえた。セルマが目を開くと、青白い顔が覗き込んでいた。茶色のフードをかぶった若い女だ。


(起きて、大変なの。)

 女は一言も発していないのに、頭の中で声が響いた。セルマが驚いて枕代わりにしていたクッションを投げつけると、それは女の体をするりと突き抜けてしまった。


「あなた、何?幽霊?」

 セルマの問いに女は頷いた。

(私はマデリン。お願い、一緒に来て。)

 マデリンと名乗った幽霊は、ふわりと宙に浮かぶと手振りで付いて来るように促した。部屋を出る彼女の後を、セルマは慌てて追った。


「ねえ、ちょっと待って。えっとマデリンだっけ。」

(早く!)

 セルマは息を切らして、マデリンの後を走った。坂を下った所に、ちょうど新しい墓穴が掘られていた。そこでは、到着したばかりの棺をジェイさんとフレッドが埋葬しようとしていた。

 穴の中に下ろされた棺は、ゴトゴトと揺れていた。



 



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