第2話 棺の少年④

「ところで、そっちはどう?」

 セルマはレイに訊いた。

「うーん、相変わらず忙しく飛び回っているってとこかな。」

 そう言ってレイはケラケラと笑った。まったく洒落にならない回答だ。


「……ただねえ」

 レイは声を低めた。

「お城の様子が、何か変なの。」

「変って、どんな風に?」

 セルマが尋ねると、レイは続けた。

「今朝、空から見たんだけれど、何か、不穏ふおんとまでは行かないけど、落ち着かないって言うか。」

「王様の具合があまり良くないとか?」

「それは前からでしょ。」

 国王は、ここ数年病に伏せっていて、公の場には、顔を出さなくなっていた。今実権を握っているのは、王妃とその一族だ。


 そのため、亡くなった前王妃の子である第一王子はすっかり肩身が狭くなり、伯父であるアンブローズ公のおかげで、辛うじて体面を保っている状態だ。

 ただ昨今、現王妃派の専横があまりにも目に余るものとなり、第一王子を担ぎ上げて対抗しようとする勢力も現れ、水面下では、両派ドロドロの暗躍を繰り広げている。以上が城下で囁かれている噂である。


「まあ、お城の権力争いなんて、私たちには、とんと縁のない世界だよね。」

 セルマがそう口にすると、レイは首を振った。

「そうも言ってられないよ。セルマ。お城じゃ魔法使いがどんどん閑職に追いやられてる。そのうち、クビにするつもりじゃないかな。」

「大丈夫、ここはすでに閑職だから、もうどこにもやりようがないもの。」

 セルマが胸を張って言うので、レイは呆れたように、ねばもー、と口にした。彼女は一回転して、また鴉の姿に戻った。

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