第2話 棺の少年③

「ジェイさん、フレッド。」

 セルマは二人に声を掛けた。

「お昼に新しい棺が着くから、お願いね。」

「ウウォー」

「ヒヒ」

「ジェイさん、“はい”の時はウウゥだといったでしょ。それからフレッド、あなたの方はヒヒヒよ。」

「ウウゥ」

「ヒヒヒ」

「よろしい。」


 二人ともよく働いてくれたので、日中セルマがすべきことは、ほとんどなく、好きなことをして過ごせた。ただ、それではあまりに怠けて見えるので、時々監督と称してこうやって散歩するのだった。


 セルマがいつものように墓地をぶらぶらしていると、一羽の大鴉がバサバサと音を立てて、降りてきた。鴉は智恵の女神の像にとまると、一声鳴いた。

「ねばもー、セルマ。」


「おはよう、と言うより、もう、こんにちは、かな?レイ」

 鴉は像から舞い上がると、体を一旋いっせんさせた。地面に降りる頃には、もう黒髪黒衣の魔女になっていた。 

「ねばもー」

 レイは同級生だった。学生時代から妙な挨拶をすることで有名で、セルマの友人の一人でもある。今はゴルゴン商会という、よろず販売業に身を置いている。

「何か要る?食べ物とか?」

「うーん、食べる物はいいわ。」

 この間、美容と健康という歌い文句に釣られて買った乾燥ネトルが、まだ大量に余っていた。

「そう言えば、『あお系譜けいふ』の続きが読みたいんだけど、手に入る?」

「どこまで読んだの?冷血公が出陣するところ?」

「えーと、高慢王女こうまんおうじょが妹の結婚式で地団駄じだんだ踏むところ。」

「それ、別の話だよ。」

「そうだっけ?」

 レイとのおしゃべりは、セルマが、生者と話せる数少ない貴重な時間だった。

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